きみのとなり
2.再会相手 -嵩継-
処置終了後、オレは此処F市民病院の院長に呼ばれて出向いた先は院長室。
茶菓子を出されて聞かされるは田舎の市民病院ならではの人員不足を嘆かれ、
挙句の果て泣き落としで勧誘までされちまった。
まっ、『勧誘』の方は丁重に断ったけどなっ。
オレ的には鷹宮から離れるつもりもねぇし、鷹宮がオレにとっても家族で家だから。
とりあえず院長室を丁重に後にして鷹宮の方に連絡済ませてICU近くのソファーへとようやく腰をおろしたところだ。
煙草……吸いてぇなー。
煙草なんて学生時代しか吸ってない。
しかも未成年で終わった。
鷹宮に入ってからは鷹宮の方針でスタッフの喫煙を認めない為、
煙草を吸うことなんてなくなってた。
だけど……こんな時は妙に煙草が恋しくなる。
ソファーで脱力するオレに横から煙草をスーっと差し出す手。
あっ……コイツ、そういやオレが今日ひきずったんだよな。
差し出された煙草から一本抜き取ると、そいつはライターの火をつける。
手慣れてんなー。
そいつに貰った煙草をくわえて、ゆっくり煙を吐き出しながら久々の煙草を味わう。
って何でオレの好きな銘柄が出てくる?
偶然か?
「良かったら、こっちも飲みなよ」
そういって差し出された紙コップ。
中身は珈琲。
香りがインスタントじゃないことをオレに伝える。
一本丸々、貴重な煙草を堪能して珈琲を口元へ運ぶ。
一口飲んでオレはマジマジと隣にいる女の顔を覗き込む。
「ひむか……お前、橘高氷夢華……か?」
この珈琲の味で思い出した。
このブレンドはオレと親友・海斗が気に入ってるブレンドで、
近所の妹みたいな奴がいつもいれてた。
確か氷夢華んちの親父さんのコーヒー豆コレクションの一つだったか。
「おせぇーんだよ。
嵩兄……アタシなんかとっくにわかってたんだから。
あんなところで会うなんて思っても見なかったけど」
目の前でぶっきらぼうに喋る氷夢華の両目からは涙が出てくる。
やべっ。
コイツ……泣き出すとこえーんだよ。
オレんちの隣人だったコイツとは、結構家族的な付き合いだったっけな。
お袋の葬式の時もコイツの両親には手伝ってもらった。
通ってた学校も全く違うのにフローシアから帰ってきては、
オレんちに顔出してたコイツ。
しかもオレと海斗がサッカーボール転がしてる傍で自分も同じように真似してドロドロになってたガキ。
あのドロガキが、でかくやりやがって。
アッ、マテ。
ヤベーぞ。
……考えりゃ……コイツにもコイツの両親にも挨拶せずにオレあの町を離れたんだよな。
さてどうすっかなー雷落ちるぞ……絶対……。
「勝手に消えやがって何してんだよ。
嵩兄も海兄も消えてアタシがどんだけ寂しかったかわかる?
ずっと今まで探し続けて」
あれっ?
怒鳴り声的なのは最初だけでコイツの手も出てこなけりゃ声が震えてるのか?
頑なに拒むように身を縮めながらオレへの文句を続ける氷夢華を、
おっかなびっくりオレの方に抱き寄せる。
スーっとアイツはオレの腕の中に転がって、
腕の中で両手でオレを叩きながら暴れ続ける。
体はデカクなってもやっぱ、ちっちぇーじゃんコイツ。
「悪かった。
マジ、悪かったから……許せって。
なっ、氷夢華……」
とりあえず宥めながら氷夢華が落ち着くのを待つ。
氷夢華が落ち着いてオレはいろいろ話した。
海斗や氷夢華の前から消えてからのこと。
今の居場所。
海斗が骨肉腫で亡くなったこと。
そして海斗は今は此処にいるのだとエターナルペンダントを見せる。
氷夢華は、オレの首からぶら下がってる、
エターナルペンダントの海斗の遺骨の部分を触っては……小さく、
『馬鹿』と何度も呟きながら俯き続ける。
隣で涙を流し続ける氷夢華の髪をそっと手で触れながら
抱き寄せたまま……朝を迎える……。
朝、泣きつかれた氷夢華はオレに持たれる様に眠っていた。
眠っていた氷夢華を起こさないように立ち上がって、
昨日の患者の状態チェックをする。
患者の様子を確認してF市民のスタッフに引継ぎを済ませると、
氷夢華を抱き上げてシルエイティの助手席へと寝かせた。
素早く運転席に乗り込むと2年前から移り住んだ飛翔がオーナーの自宅マンションへと
一気にアクセルを踏み込んだ。
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