すばらしき世界のラグナロク

氷雨ユータ

ターミナル・オフライン

 世界が終わる。

 そんな日が来ることを、僕達は当たり前の様に知っていた。漠然とした話ではない。良くて一週間、悪くて今、この瞬間。人間が作り上げた秩序は終わりを迎える。地球に見放された僕達は、破滅という名の抗えぬ現実によって塗り潰される。

 ゲームをする子供、公園で遊ぶ子供。学校へ行く子供。

 会社へ行く大人。休みだからとのんびりする大人。苦悩の末に自殺を選ばんとする大人。

 そう、皆知っていた。知っていたのだ。

 避けられない現実を前に、色々な行動を取る人間が出てきた。どうせ終わりならと犯罪に走る者、変わらぬ一日を過ごす者、自ら命を絶つ者。



「……最後に確認しておきたい。本当に、良いんだね?」



 僕達は研究所に居た。名前なんて今となってはどうでもいい。世界が終わる日がそこまで近づいているのに、一体何を覚えていろと言うのだろう。

「はい。大丈夫です。お願いします」

「この機器の中に入ったが最後、君達の意識は永久的にそちらへ移動する。詳しくは初期地点の町に私が手記として情報を残してあるからそれを確認してくれ。それじゃ元気で……いや、もう会う事もないな。君達も会いたくないだろう。私ともう一度会うという事は、ここに戻ってくるという事だから」

 ポッドの中で横になる。ケージが閉じて、ここは密室になった。透明な壁越しに、瞳を潤ませながらこちらを見つめる博士の姿……否、『神』の姿がそこにあった。

「まだ生きていたい。そんな願いをかなえる為に私はこの装置を開発した。……寂しくないと言ったら嘘になる。少なくとも私が死ぬまでこちらでの肉体の安全は保障するが、一人ぼっちになるから。でも君達を救う為だ。ここにいる三千人―――生きたいと願う全ての者達にもう一つの現実をプレゼントする。それが私に出来る最初で最後の貢献だ。この世界に未来は無いが、君達若者にはまだ未来がある。どうかそちらの世界で、存分に生きてくれ」

 神様は最後まで泣いていた。僕の意識が永久的に飛ばされるその瞬間まで、彼は僕達の幸運を願っていた。

「そちらの世界をどう転がすかは君達次第だ。死んだらそこで終わり、どうか争いのない世界を紡いで、存分に輝いてくれ―――では、永久にさようなら」





 世界の終末から逃げる為に、僕達はもう一つの現実へ避難した。



  ファイナルライフ・オフライン。



 終末を避けた僕等の辿り着いた、もう一つの現実世界オフライン

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