my only book (not)

薪槻暁

4.5,図書室

 冬を迎えようとする秋の夕暮れが僕らの教室を明暗く染めていく中……






 教室にはまるでそこにいるのが当たり前となった彼女が佇む姿がそこにはあった。




「今日もいるんだね」


「うん」




「昨日の文化祭はどうだった?僕は図書室で本の紹介をしていたからあんまり回れなかったよ」




 そう。昨日は年に一回のイベントである文化祭だった。






「私はあまり教室からは離れなかった……クラスの出し物があったから……」


「じゃあ、僕と同じだね」






 こんな感じで今日学校であった出来事を話し合うのが毎週の日課だったが、前回たった一回違うシチュエーション図書館が再び訪れた。




「あの……図書室に行かない……?」




「いいよ」


 僕はすぐさま帰り支度を済まそうとしたが彼女のその言葉によってそれは意味を成さなかった。






「学校の……」


 



 僕は学校内ならいつでも行ける場所にわざわざ放課後を使ってまで行くとは思わず、不意を突かれたように言ってしまった。
 



「がっ……学校?なんで?」




「本を……探すのを手伝ってほしいから……君ならここの本のことを一番知ってると思ったし……」




 彼女は図書委員の僕なら本の場所をよく知っていて、欲しい本がすぐに見つかるだろうと踏んだらしかった。だから僕は何の違和感もなく首を縦に振った。










 図書室に向かう途中の廊下……


「君が探してる本はどんなタイトル?」
 自分が管理している本ならばすぐに見つかるだろうとわずかばかりの可能性に賭けて一応聞いたが、




「自分で探したい……」






 彼女はその本については一切語ろうとしなかったので、僕は不思議に思いながらもそれ以降は文化祭にあった些細な出来事や最近のクラス事情などを少し改変させて会話を弾ませながら歩いた。














 夕方であるのにも関わらず光と音の静けさに包まれることで冬の到来を感じさせようとする部屋……






 そこは古くさい紙の匂いで充満した場所、つまり学校内の図書室だ。念のために五分前に言った言葉でもう一度問いかける。






「探そうか?」






「……じゃあ……お願いします。作者は◯◯◯です……」






 二度聞いたことでその本について教えてくれた彼女に驚きを示しつつもその本に不可解な疑問が浮かんだ。それは聞いたことのない作者だったのだ。自慢ではないが僕は一応有名な作家は覚えているつもりだった。しかも彼女はマイナーな作家を読むことは少なかったのだ。






「分かった。僕も探すよ。君も探して見つかったら僕を呼んで。僕が本の貸し出しをやるからさ」
 





 彼女が求めるものを探そうと一度決心した僕は探すことだけに躍起になった。それはその本自体に興味があった訳じゃない、が読みたいと思っている理由こそが気になったのだ。






 しかし、その本は一向に見つかることはなかった。




 彼女は本を得られなく当然、残念がる表情を作るのだろうと予想していたが、残念がるどころか機微な笑みを綻ばせていたのが僕の脳裏に焼き付いた。


そう。こんな言葉とともに。






「今日はありがとう」








 彼女からのその言葉が永遠とも思われる時間の中で何度も頭の中で反芻した。




















 翌週、彼女は学校に来ることはなかった。

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