Over the time ~時を見る~

薪槻暁

The Last Fact and

「一体何の話?」




 あたかも話の趣旨を理解していないように振る舞う彼女。それも今日で終わる。




「分かっているはずだ」




 彼女には生きたいと願うその気持ちこそが欠乏していると指摘したのだが。




「分からないよ」




 未だに分かっていないをする。




「お願いだから、これ以上苦しませないでくれ……」


「俺は未来が見えたり、過去を見れたりするんだよ。前に言っただろ……」




 ただひたすらに願う俺の姿に彼女は呆気をとられていた。




「ごめんなさい」




 ようやく口を開き、あの時のまさに虚空を見つめるような彼女に戻っていた。




「謝らなくていい。俺はただ君の気持ちが知りたいだけなんだ」


「君が何を思い、感じて過ごしているのか」




 それまで閉じていた口を開き始め、ようやく彼女の真意を語ってくれるようだった。




「沢田君をそこまで苦しませたくなかったの。私はそれを望んでた」




 俺は彼女の行動を振り返り、もう一度問いただす。




「じゃあ、なぜ過去を変えた?」


「しかも君がいない世界に」




 俺はひとりでに理解しただろう持論を述べた。


 すなわち――彼女自身で自分が存在しない世界に変えたということ。


 俺がこの結論に至るまで相当な時間がかかった。理由は簡単だ。彼女に生きようとして欲しいという俺自身の勝手な思い込みがあったからである。




「それは……」




 それでも彼女の空虚な眼差しを見ているうちに、もう一度自殺してしまうのではないかという恐れが生まれた。それは現実世界で実行するのではなく、別次元の世界で実行されてしまうということだ。




「君が消えてしまえば、俺も幸せになったと思うか?」


「そんなの分からないよ」




「あなたは私がどんな思いで生きていたか分かる?」




 普段よりも強い口調、これが彼女の本当の感情を露にしている姿なのだろう。


 そして彼女は自分が抱えていた思いを打ち明ける。その辛辣さを面に出しながら。




「私がいつから過去を見えるようになったのか、どうしてかも知っているよね」


「そう。私のおばあちゃんが死んだのがきっかけで何度も過去に遡って現実を変えようとした」


「……でも駄目だった、生きることは出来ても世界はそれを許してくれなかった」


「この世界って残酷よね。何をしようとも否定されてどうしようもないの」




 この世界に飽きてしまったような虚ろな目。あの時序章の冒頭と何一つ変わらなかった。




「だが……君に悪気は何もないじゃないか」




 彼女の姿、容貌に俺は見ていられなかった。だから自然と強ばった言葉が出てしまったのだ。




「あなたに私の何が分かるって言うの?あなたは知らないと思うけどおばあちゃんが死んじゃった後、すぐに私の両親もこの世を去ったのよ。その辛さが理解できる?」


「結局のところ、この能力のせいか私自身のせいか知らないけど多分そのどちらかよ」


「私にはこの世界に必要ないの」








「……っざけんなよ」




 いつしか彼女と話すときには絶対に有り得ないであろう口調で話し始めてしまった。




「それではい、分かりましたって頷くかよ」




「君の両親、親戚のことは本当に同情するよ。ああ、でも俺にとっちゃただの他人だ、そんな知ったこっちゃねえ」




「だったら……」


「だが、もう他人で済む話じゃねーんだよ」


 呆気をとられたような目で見つめてくる。それもそうだ。俺の発言したことは矛盾しまくりで間違っている。




「お前と俺はの関係だったのか?」


「少なくとも俺はそうは思っていない」


「君を一人の人間として見ているし、一人の友人としても見ている」


「まあ、こっちの世界だったら、君を大切な人だとも思っている」




 一度触れれば崩れ去りそうな指。彼女のその手は小刻みながらも震えていた。




「でも、私がいれば不幸なことばかり起こるよ……」 


「斎藤くんだってあの一件があったし……」




 今でも忘れることはない、あの事件を思い出す。なにせあのとき……




「でも、君がいなかったら助けられなかった」




 そう、彼女の助言がなかったら行動に移せなかったかもしれなかったのだ。




「そうだけど、それは私として当たり前のことをしただけ。だって助けたのは君自身でしょ」




「だったら、俺は俺で当たり前のことをさせてくれ」




 何?とは口に出しても彼女は言わない。ただ無言で目線を変えないまま。




「もう独りにはさせないでくれ」




 続ける俺の言葉。溢れそうな彼女の瞳。そんな情景で俺と彼女は語り合う。




「もう二度と死せないでくれ」




 悲鳴とも呼べる俺の声色をやっと理解したのか、あふれそうなその
瞳とともに慟哭の声を上げていた。







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