Over the time ~時を見る~

薪槻暁

The time of trip

 名前は知っていたが一度も乗車したことも降車したこともない駅。


 その北口に構えるのは楕円の形をとる、タクシープール。


 俺は駅から見て右端にあるベンチに座っている。




 ここからは送迎用の車がよく見える。


 だが、知り合いの顔は一切見られない。


 それもそう、ここは高校の最寄り駅から3駅遠ざかる駅だ。




 俺たちは高校で噂をかけられたくないのでここに集合することに決めたのだ。




「えーー、めんどくさい」




 彼女はこういっていたのだが……






 そうこうするうちに一人の女性が話しかけてきた。


「あの、ここって二田駅で合ってますよね」


 答えようと面を向かい合わせた瞬間、心を揺さぶられるような衝撃を感じた。








 女性はその艶やかな黒髪をなびかせながら憧憬を抱くような瞳で見つめてきたのだ。


 しかも格好が白いレースといい、色彩の対照を具現化したような人だった。






 だが。


 改めてその人の目を見ようとしたとき、すぐに誰だかが分かってしまう。






「佐藤か……?」


「沢田くん?」


 同時に言い交わしたお互いの名前で、この場所にいるその目的さえも忘れてしまったような気がした。














「っと、お前本当に佐藤なんだな」


「本当ってなによ、私は私服になっても私は私よ」


「そうみたいだな……」


 10両編成の普通電車に乗車し、二人用の席に腰掛けた。


 土曜の昼のせいか人も少なく、ほぼ二人きりで話しているような状況になっている。






「ところで今日はどこに行くの?」


 そういえば肝心の目的地を彼女には伝えていなかった。




「それは着いてからのお楽しみってことで」


「なに、それー」


 不満が溢れんとばかりになる。


「まあまあ」


 俺はその不満を少しでも小さくすることに専念する。


「動物は好きか?」


 いきなり関係ないような話題を振られて戸惑っているのか、


「なによー、いきなり」


 目線をこちらに向け俺の内心を伺ってくる。そんな大した裏心はないのだが……


「好きか、嫌いか、どっちか答えるといったらどっちだ?」


「二択なら断然、好きに決まってるじゃない」


「そうですかい」


 まあ、俺にしては既知の事実だからどうでも良かったのだが。




 ということで俺たち二人は電車で一時間とかかる都内の某動物園に行くことになった。
















「今日は混んでるな……」


 入園する前というのにも関わらず、この人混みっぷりである。


 なんでも一ヶ月限定でパンダがこの動物園にいるらしく、ここぞとばかりに遠方から来た人が多いらしい。


「今日って……君、何度もここに来てるの?」


「そういうことじゃなくてだな……」


 釈明の場を用意してほしいのだがそう上手くいかないらしい。


「もう、入れるよっ、ほら行こう!」


 置いてけぼりにされないよう、彼女の後に続いた。












「ねぇ、あそこにいるのってアライグマじゃないっ?」


 日常的に活発な彼女なのに、今日はその上を行く。


 まるで子供のようにはしゃぎ回りながら、通りかかる動物たちを指差してこう言った。


「あそこにも!あ、こっちはハクビシンだって!」


 彼女が着ている白いレースがより幼さを目立たせる。


 駅で出会ったあの時とは対照的に。




「ねぇ、聞いてる?」


「ん、ああ。聞いてるぞ」


 一時間前の記憶を辿っていたのを気づかれてしまったのか。彼女は両手を背後に繋ぎ、上目遣いで迫ってきた。




「もしかして……いつもと違う私に今までになかった新しい気持ちが芽生えたとか?」




 ひとまず、時間に関わる話ではなさそうだ。


 しかし、いつからそんなあざとくなったのか。それでも全否定が出来ない自分が悔しい、と内心呟く。




「んなわけあるか。ただぼーっとしてただけだ」




 いつからだろうか、ここまで打ち解けるようになったのは。


 まあ、おおよそ検討はついているが……


 おそらく、きっと俺と佐藤が二人で毎週会うことになった時からなのだろう。






 俺と佐藤はひたすら園内を周回し三周を終えたところで帰ることにした。






 彼女の自宅からの最寄り駅は俺が降りる駅の二駅手前なので、先に降車した。




「今日は誘ってくれてありがとう。また機会があったら行こうね」




 純粋な眼差しで俺にそう告げて帰っていった。


















「ああ。言われなくてもそうする」


 一人取り残された俺は、自分でも聞き取れるような声で確認した。








「ごめんな…………」




 最後に発言した言葉が聞こえないように。



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