Over the time ~時を見る~
The girl and our promise
佐藤瀬名、想像以上に陽気で無邪気な人だ。
転入したての頃はあまり目立つような存在ではなかったが、今ではすっかりクラスに馴染んで中心的メンバーの一員となっている。
彼女と二人きりで会話した翌週。今日は遅刻の心配もせず学校に到着した。
「よー、沢田。今日は早いな」
今日は、という言い方に少々違和感を覚えるが斎藤が言った次の言葉にどうでもよくなった。
「そういや、佐藤さんって結構クラスに慣れてきたよなー」
みんな考えていることは同じらしい。
「ああ、俺たちよりよっぽどコミュ力が高いんだな」
やはりここから始まるのかと斎藤のお得意技が発動。
「俺だってコミュ力は高い方だぞ」
「はいはい、ゲーム内でだろ」
呆れた俺に察したのか分からないが、彼は放課後に本屋に寄らないか提案してきた。真面目じゃないかと思うかもしれないが、彼が欲しているのは本日発売のゲーム攻略本らしい。
「あ、今日は無理」
「な、なに!俺との約束を守れないだと!まさか……女か」
あながち間違ってはいないが、約束したのは本当に知らない。
「とにもかくにも、俺は今日用事があるから行けない。悪い」
「分かったよ……」
本気で残念がる斎藤に申し訳なくなったので明日何か奢ると提案すると、何も無かったかのように顔を明るくした。
先週来たばかりの喫茶店。相変わらずこの人気がない静かな雰囲気とレコードから流れるクラシック音楽の調和は心を落ち着かせてくれる。といかにも常連かのようにコーヒーを嗜んでいるとまるでこの店とは不釣り合いな客が来店してきた。
そのまま俺が座っている二人用のテーブルへと歩み寄ってくる。
彼女――佐藤瀬名は紅茶一杯を注文しこちらを伺ってきた。
「今日は俺の奢りなんだからもっと頼んでも良いんだぞ」
正直奢るタイミングが重なってしまったのは金銭的には辛いが、そこは男の威厳として我慢しよう。
「いや、いいよ。そこまで借りを作っちゃったら私が納得しないからね」
ありがたいことに遠慮してくれたことに感謝しつつもなんだか勿体無い気分に駆られた。でもここでどうすべきか現状の俺には思い付かないのである話題を投げ掛けた。
「もうこの学校に来て二週間ぐらい経つな。どうだ、学校に慣れたか」
上から目線のような気もするが誠心誠意彼女のことを思って聞いてるのだと真剣な眼差しで見つめる。
「んーー。慣れたと聞かれれば慣れたかな。これもクラスのみんなのおかげだよ」
「そういや前の学校はどうだったんだ?」
佐藤は俺の言葉を聞いたはずなのに虚空を見つめているかのようだった。まるであのときのように。
「……あっ、ごめん。何て言った?」
聞こえているはずなのにまるで心が聞き入れたくないような表情をしていた。彼女を苦しめようとは微塵も思っていないのでそれ以上聞くのは止めた。
「なんでもない。そうそう明日の準備はどうだ、もう終わったか?」
「終わったって……君と私同じクラスだよね……」
「そうだが?」
「そうだが?じゃないよ!なんで君は働かないの」
そう。明日は待ちに待った大イベント、ではない嬉しいことは授業が無くなるだけの文化祭だった。案の定、クラスで忘れ去られているような身分なので仕事分担の際にも名前が挙げられることがなかった。自分で言っちゃなんだが、このステルス性能だけは自慢出来る。一歩外せばいじめのようなものだが……
「なんでって言われてもな……俺はお前と違って目立つ方でないし。ただ俺に仕事が無かったから働かなかっただけだ」
自然と口から出したはずが、知らないうちに彼女と俺を比較していた。
「じゃあ、明日一緒に行動しよ」
一瞬何を言っているのか理解できなかった。
「は?」
「だーかーらー、君と私でいれば自然と君も目立ってくるってことよ」
「いつ俺が目立ちたいって言った?」
「言ってないけど、そうした方が良いかなあーって」
どこから路線がずれたんだ。
「変に気を使うなよ。俺は俺のままで良い」
「んーーーー。じゃ、ちょっとだけ一緒にいよう」
彼女からの提案には全て反対したかったが、何がなんでも俺を目立たせたいようで諦めることにした。
「分かった。昼時だけならいいぞ」
「よーーし」
いかにもやる気を奮起させるような返事だった。
だが、彼女との約束を守ることは無かった。
転入したての頃はあまり目立つような存在ではなかったが、今ではすっかりクラスに馴染んで中心的メンバーの一員となっている。
彼女と二人きりで会話した翌週。今日は遅刻の心配もせず学校に到着した。
「よー、沢田。今日は早いな」
今日は、という言い方に少々違和感を覚えるが斎藤が言った次の言葉にどうでもよくなった。
「そういや、佐藤さんって結構クラスに慣れてきたよなー」
みんな考えていることは同じらしい。
「ああ、俺たちよりよっぽどコミュ力が高いんだな」
やはりここから始まるのかと斎藤のお得意技が発動。
「俺だってコミュ力は高い方だぞ」
「はいはい、ゲーム内でだろ」
呆れた俺に察したのか分からないが、彼は放課後に本屋に寄らないか提案してきた。真面目じゃないかと思うかもしれないが、彼が欲しているのは本日発売のゲーム攻略本らしい。
「あ、今日は無理」
「な、なに!俺との約束を守れないだと!まさか……女か」
あながち間違ってはいないが、約束したのは本当に知らない。
「とにもかくにも、俺は今日用事があるから行けない。悪い」
「分かったよ……」
本気で残念がる斎藤に申し訳なくなったので明日何か奢ると提案すると、何も無かったかのように顔を明るくした。
先週来たばかりの喫茶店。相変わらずこの人気がない静かな雰囲気とレコードから流れるクラシック音楽の調和は心を落ち着かせてくれる。といかにも常連かのようにコーヒーを嗜んでいるとまるでこの店とは不釣り合いな客が来店してきた。
そのまま俺が座っている二人用のテーブルへと歩み寄ってくる。
彼女――佐藤瀬名は紅茶一杯を注文しこちらを伺ってきた。
「今日は俺の奢りなんだからもっと頼んでも良いんだぞ」
正直奢るタイミングが重なってしまったのは金銭的には辛いが、そこは男の威厳として我慢しよう。
「いや、いいよ。そこまで借りを作っちゃったら私が納得しないからね」
ありがたいことに遠慮してくれたことに感謝しつつもなんだか勿体無い気分に駆られた。でもここでどうすべきか現状の俺には思い付かないのである話題を投げ掛けた。
「もうこの学校に来て二週間ぐらい経つな。どうだ、学校に慣れたか」
上から目線のような気もするが誠心誠意彼女のことを思って聞いてるのだと真剣な眼差しで見つめる。
「んーー。慣れたと聞かれれば慣れたかな。これもクラスのみんなのおかげだよ」
「そういや前の学校はどうだったんだ?」
佐藤は俺の言葉を聞いたはずなのに虚空を見つめているかのようだった。まるであのときのように。
「……あっ、ごめん。何て言った?」
聞こえているはずなのにまるで心が聞き入れたくないような表情をしていた。彼女を苦しめようとは微塵も思っていないのでそれ以上聞くのは止めた。
「なんでもない。そうそう明日の準備はどうだ、もう終わったか?」
「終わったって……君と私同じクラスだよね……」
「そうだが?」
「そうだが?じゃないよ!なんで君は働かないの」
そう。明日は待ちに待った大イベント、ではない嬉しいことは授業が無くなるだけの文化祭だった。案の定、クラスで忘れ去られているような身分なので仕事分担の際にも名前が挙げられることがなかった。自分で言っちゃなんだが、このステルス性能だけは自慢出来る。一歩外せばいじめのようなものだが……
「なんでって言われてもな……俺はお前と違って目立つ方でないし。ただ俺に仕事が無かったから働かなかっただけだ」
自然と口から出したはずが、知らないうちに彼女と俺を比較していた。
「じゃあ、明日一緒に行動しよ」
一瞬何を言っているのか理解できなかった。
「は?」
「だーかーらー、君と私でいれば自然と君も目立ってくるってことよ」
「いつ俺が目立ちたいって言った?」
「言ってないけど、そうした方が良いかなあーって」
どこから路線がずれたんだ。
「変に気を使うなよ。俺は俺のままで良い」
「んーーーー。じゃ、ちょっとだけ一緒にいよう」
彼女からの提案には全て反対したかったが、何がなんでも俺を目立たせたいようで諦めることにした。
「分かった。昼時だけならいいぞ」
「よーーし」
いかにもやる気を奮起させるような返事だった。
だが、彼女との約束を守ることは無かった。
「ファンタジー」の人気作品
-
-
3万
-
4.9万
-
-
2.1万
-
7万
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
1.2万
-
4.8万
-
-
1万
-
2.3万
-
-
9,711
-
1.6万
-
-
9,545
-
1.1万
-
-
9,448
-
2.4万
-
-
9,173
-
2.3万
コメント