Over the time ~時を見る~

薪槻暁

the time of heart

「ぐはぁーー」


 教室に着いたそうそう聞き取れた言葉は昨晩というか今朝の結果だ。


「なんだ?また寝不足か?」


「ああそうだよ、お前が稚拙な戦い方するからな」


 昨夜、対戦した戦い方に今もなお恨んでいるらしい。


「だから、お前がいる場所がわかったのは運が良かっただけだって」


 昨日されたことをそっくりそのまま返してやる。


「それはないな!絶対に分かってて俺を撃ったんだ」


「あーーはいはい。そうだよ」


 あっさり嘘だと白状し前回と同じ情景が写し出される。


「ほらっ、やっぱり‼」


 ただ違うのはそんな蛇足は吐いていないことだけだった。と男子高校生のとりとめもない会話は昼休みまで続いた。いやもう終わらせたかったんだが斎藤は恐ろしく根に持つタイプだった。
















 ある者は机を向かい合わせて弁当を頬張り、またある者は食欲を数分で満たしたらしい、机に向かって何やら数式を解いている。


 それに対しさ斎藤はというとやはり昨晩の異議を申し込んでいた。自分に対してだが。




 「はいはい。もうその話はいいから。飯を食おうぜ」


 なんとか話の話題を変えようと努力するが防戦一方だ。だがここで思わぬ描写が彼に写し出される。


 彼の目線の先には赤の他人である男女が向かい合って立っていた。二人はこれからいかにも一方から告白すると予想できるような雰囲気だった。それはそう、両者の頬は紅潮し掌とその指先は今にも汗で吹き出しそうだったのだ。


「おいおい。あいつら良い感じじゃないか?」


 いかにも下心丸出しな恋の邪魔物の発言を平然と受け流す。リアルは本当に興味ないんだよ。




「そうなんじゃないか」


 心の内では知らないと呟くがそれは言わないで置くことにした。あまり深い意味はないが暇だったのでもう一度彼らの動きを確かめようとした瞬間だった。


 昨夜感じたものと同じ感触が訪れた。


 再び脳裏に焼き付いてくる映像は今まさに告白をしたであろう男の悲壮な表情だった。


 要するに振られたってことじゃないか?それは予想に過ぎないが。


 今感じ取った情景を口に出してみる。


「あーー、あいつ多分振られるな」


「…………はぁ!?なんで男が告るって分かるんだよ」


 内心そこかよって反論したくなるのは置いといて。


「いやなんとなく」




 案の定、男が振られてその場は終演となった。斎藤がなぜ告白が男からなのか疑問に思うのは仕方ないことだった、なにせ言葉を出そうと必死さが目に見えたのは女の方だったのだ。






「お前よー、未来が見えるんじゃないか?」


 一般人だったらまず信じないだろうその冗談を真に受けてしまうのは仕方のないことだった。


「そうみたいだな」


「本当かっ!」


 思ってもみなかった彼の正直な反応に少し驚かせられるが、まずは彼を落ち着かせる。


「嘘だよ」


 一気に落胆した表情を見せるのは見ていてつまらないものではなかったので少々からかってみることにした。


「なんだよ」


「いややっぱ本当」


「からかうな」


 彼からのストップがかかり弄ぶのはそこでやめた。


「これは本当の話だ。たまにだが先の事が分かる時がある」


 真剣な自分の眼差しに事の重大さが伝わったようだった。


「なんでも見えるのか?」


「そうじゃない。見えるのは本当にたまにだ。俺はなぜ起こるのか原因すらわからん」


 昨日から起こる出来事を今まさに初めて他人に説明した。


「じゃあなんだ、テスト、ゲームと最近お前の調子がおかしいのはそのせいってか?」


 調子がおかしいとはなんだという戯れ言は置いといて。


「かもしれないな」


「ちょっと待ってくれ」


 そう言って徐に取り出したのはトランプだった。


「それじゃあ始めようか」


 無造作に並べられたカードを眺めながら問いた。すると


「見れば分かるだろ、神経衰弱だよ」


 やっと彼の意図が掴めた。


「未来が見えるんだろ?だったらどのカードがどこにあるかぐらい朝飯前だろうが」




 なるほど、実際にその目で見せて証明してみろってか。




「分かった。やってみよう」
























 数分後…………




 「全然違うじゃねーか!やっぱ嘘だな」


 見事に全て外してしまった。もちろんこれはわざとじゃないし、むしろ未来を見ようとした。だが一切合切何も見ることが出来なかった。


「なぜだ…………」


 困惑している表情を見せるのをよそに斎藤は語りかけてくる。


「全部、お前の思い違いだってことだろ」


 否定したい気持ちはあったのだが、論より証拠だ。斎藤は人の言うことなんて全く気にも止めないようだった。




「本当にそうなのか……?」 


 心の中で自問自答をしていると昼休みの時間はとっくに過ぎていた。

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