Over the memory~時を巡る~
The true view
フラッシュバックが起こった。
「せーいーかーい」
彼女の綻んだ表情。何にも変えられないようなこの世でただ一つしかないとも言える思い出。それに今までの関係を打破したこともあって余計印象深いものとなった。
俺があの日、あのまま見過ごしていたらどうなっていたのだろうか。
時と並行したこの世界の事象を変えられようになった俺は、人並みから逸脱した罪は無いのだろうか。
心の奥深くで疑問が飛び交う中、俺はいつも迷走している。
答えがいつか分かってしまうのに。
携帯の着信音がポケットの中で鳴り響く。
三時間目の授業に飽き、日曜の彼女と何を話したかどんな仕草だったか思い返していた。
机に突っ伏していた上半身を起こす。前髪が跳ね上がってしまうのがだらしなさを目立たせる。
起きて早々携帯を触るのは目が疲れるというか、簡単に言えば面倒だったが。
横に付いている電源ボタンを押し、スクリーンを眺める。
そもそもメッセージの受信だとすると、家族や斎藤ぐらいしか可能性は無いのだが、
稀な連絡音に心を躍らせていたのかもしれない。
――今日のお昼空いてる?――
ある意味、連絡が来るのが当たり前の人からの呼び出しだったので期待通りの結果なのだろう。
先日連絡先を交換した彼女――佐藤瀬名からの誘いだった。
喫茶店に似た店から出ようとした時のこと。
「ねえ。私たちって何か一段踏んでいないことない?」
「また何か言ってほしいことでもあるのか?」
疑問を疑問で返す俺の言葉にさぞかし嫌気が差したのだろう。彼女は眉間に皺を寄せている。
「ふん。分からないならいいよ」
「そうだな……」
思考に集中するために固まる。それはまるでロダンの考える像のよう。
だが、忘れていたことを思い出したかのように「あっ」と声を出してしまった。
「そういえば連絡先を交換していないな」
「…………珍しく当たるのね」
正解を叩き出したのに納得していない彼女。彼女の言動と表情が矛盾しているのがまた……
それはともかく、この一件のお陰で俺と佐藤はようやく何処にいても繋がることが出来るようになったのである。
「昼に何の用だ?」
『一緒にお昼を食べないかって誘っているのよ。それくらい察しなさい』
「俺は構わんが、そっちは良いのか?」
俺が彼女の立場を考えるのは学校で噂されるかもしれないのを危惧したためだった。
一息ついたのか、一瞬会話が止まるがそのまま続く。
『その辺は平気よ。ただ時間を遅らせれば良いだけ。そうすれば他の生徒も少なくなるし周りを気にする必要もないわ』
あまりにも現実的な彼女の言い分。
昼休みに屋上で一緒に……なんてよくあるシチュエーションを想像していたのが馬鹿だった。
「分かった」
とりあえず、承諾の意思を示し四時間目を迎える時間となった。
結果ここに至る。事実上二人きりの食堂で食事をするのは初めてだ。
そも、この場に来たこともあまり無かったので新鮮さを感じる。
「で、どうしていきなり?」
俺は付き合ってから一度も高校で食事を誘われたことがなかったので正直に理由を聞くことにした。
「弁当を忘れたのよ。何よ、ベタな話でつまらなかった?」
「いや……そういうわけじゃないんだが……何となく深い意味があるのかと思っていたんだ」
「悪かったわね。期待を無視しちゃって」
顔を右に向け、不満そうな面持ちの彼女。
「別に期待していたわけじゃないぞ」
その彼女をなだめようとする俺。
これが日常的な慣習。学校では見られない彼女を見れる機会が俺にとってかけがえのない物だ。
対する彼女はというと。
ん?背後に誰か知らない人物が話しかけようとしている。俺は声をかけた方が良いのだろうか。
背後の人物――長い黒髪をツインテールにし、面持ちは幼げな憧憬を抱いているような姿。しかし同じ制服を着ているのにもかかわらず、この人だけエレガントさを強めている。
屋敷のお嬢様という例えがこの場合一番似合っているだろう。
だが……
「やっとーー、会えましたァ!ずーーっと探してたんですからあ」
俺と彼女しかいないこの部屋で甲高い声が反芻する。
姿と言動が一致しないことに俺は呆気に取られていたが、それよりも謎の人物の正体が気になる他なかった。
「……この人は知り合いか?……佐藤」
無言で頷いた彼女は、何とも言いがたい表情を作り、
「うん……というか私の妹……」
彼女の胸中を汲み取れた俺は、そのまま黙るしかなかった。
それが俺と佐藤瀬名の妹――佐藤鈴音との忘れたくても忘れられない初対面だった。
「せーいーかーい」
彼女の綻んだ表情。何にも変えられないようなこの世でただ一つしかないとも言える思い出。それに今までの関係を打破したこともあって余計印象深いものとなった。
俺があの日、あのまま見過ごしていたらどうなっていたのだろうか。
時と並行したこの世界の事象を変えられようになった俺は、人並みから逸脱した罪は無いのだろうか。
心の奥深くで疑問が飛び交う中、俺はいつも迷走している。
答えがいつか分かってしまうのに。
携帯の着信音がポケットの中で鳴り響く。
三時間目の授業に飽き、日曜の彼女と何を話したかどんな仕草だったか思い返していた。
机に突っ伏していた上半身を起こす。前髪が跳ね上がってしまうのがだらしなさを目立たせる。
起きて早々携帯を触るのは目が疲れるというか、簡単に言えば面倒だったが。
横に付いている電源ボタンを押し、スクリーンを眺める。
そもそもメッセージの受信だとすると、家族や斎藤ぐらいしか可能性は無いのだが、
稀な連絡音に心を躍らせていたのかもしれない。
――今日のお昼空いてる?――
ある意味、連絡が来るのが当たり前の人からの呼び出しだったので期待通りの結果なのだろう。
先日連絡先を交換した彼女――佐藤瀬名からの誘いだった。
喫茶店に似た店から出ようとした時のこと。
「ねえ。私たちって何か一段踏んでいないことない?」
「また何か言ってほしいことでもあるのか?」
疑問を疑問で返す俺の言葉にさぞかし嫌気が差したのだろう。彼女は眉間に皺を寄せている。
「ふん。分からないならいいよ」
「そうだな……」
思考に集中するために固まる。それはまるでロダンの考える像のよう。
だが、忘れていたことを思い出したかのように「あっ」と声を出してしまった。
「そういえば連絡先を交換していないな」
「…………珍しく当たるのね」
正解を叩き出したのに納得していない彼女。彼女の言動と表情が矛盾しているのがまた……
それはともかく、この一件のお陰で俺と佐藤はようやく何処にいても繋がることが出来るようになったのである。
「昼に何の用だ?」
『一緒にお昼を食べないかって誘っているのよ。それくらい察しなさい』
「俺は構わんが、そっちは良いのか?」
俺が彼女の立場を考えるのは学校で噂されるかもしれないのを危惧したためだった。
一息ついたのか、一瞬会話が止まるがそのまま続く。
『その辺は平気よ。ただ時間を遅らせれば良いだけ。そうすれば他の生徒も少なくなるし周りを気にする必要もないわ』
あまりにも現実的な彼女の言い分。
昼休みに屋上で一緒に……なんてよくあるシチュエーションを想像していたのが馬鹿だった。
「分かった」
とりあえず、承諾の意思を示し四時間目を迎える時間となった。
結果ここに至る。事実上二人きりの食堂で食事をするのは初めてだ。
そも、この場に来たこともあまり無かったので新鮮さを感じる。
「で、どうしていきなり?」
俺は付き合ってから一度も高校で食事を誘われたことがなかったので正直に理由を聞くことにした。
「弁当を忘れたのよ。何よ、ベタな話でつまらなかった?」
「いや……そういうわけじゃないんだが……何となく深い意味があるのかと思っていたんだ」
「悪かったわね。期待を無視しちゃって」
顔を右に向け、不満そうな面持ちの彼女。
「別に期待していたわけじゃないぞ」
その彼女をなだめようとする俺。
これが日常的な慣習。学校では見られない彼女を見れる機会が俺にとってかけがえのない物だ。
対する彼女はというと。
ん?背後に誰か知らない人物が話しかけようとしている。俺は声をかけた方が良いのだろうか。
背後の人物――長い黒髪をツインテールにし、面持ちは幼げな憧憬を抱いているような姿。しかし同じ制服を着ているのにもかかわらず、この人だけエレガントさを強めている。
屋敷のお嬢様という例えがこの場合一番似合っているだろう。
だが……
「やっとーー、会えましたァ!ずーーっと探してたんですからあ」
俺と彼女しかいないこの部屋で甲高い声が反芻する。
姿と言動が一致しないことに俺は呆気に取られていたが、それよりも謎の人物の正体が気になる他なかった。
「……この人は知り合いか?……佐藤」
無言で頷いた彼女は、何とも言いがたい表情を作り、
「うん……というか私の妹……」
彼女の胸中を汲み取れた俺は、そのまま黙るしかなかった。
それが俺と佐藤瀬名の妹――佐藤鈴音との忘れたくても忘れられない初対面だった。
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