Over the memory~時を巡る~
The new view
今日も窓から風の匂いと小鳥の囀ずりが流れてくる清々しい朝。音と風、周りの環境すべてが協調しているような雰囲気。人間の営みをカモフラージュするような勢いで自然のそれは強調し始める。
それがまさに人間は自然に劣るという真髄なのだろう。
人工的に創られたアラームなどを用いずに目覚めるのは日常的な風景。
重たい上半身を起こし、その荘厳の装飾品に包まれたベッドから立ち上がる。
今日も同じような風景。
どこからともなく聞こえてくる声。安心するぐらい居心地が良い声。
「先に行ってるわよーー」
おぼつかない足でバルコニーに出ると、庭先に見えるのは私の憧れの存在の人。
私の私以上の存在の大切な人。
あの人は二階の私に聞こえるような大きさの声で私を呼び起こす。
「ふぁ~い」
私は眠気眼の瞼を擦りながら応えた。
ヴィクトリア朝時代を醸し出す長卓と華美な椅子。軽く10人は座れるような大きさ。
だけど、今座っているのは私独りだけ。
勿論寂しいという感情もあるのだけど、慣れがそれを許してくれる筈がなかった。
そもそも両親なんて人達にそんな思いはなかったから、寂しく思わなかったのかもしれないけど。
ただ、あの人とは一時も離れたくはなかった。
いつも一緒にいてくれて。怒ってくれて。誉めてくれて。私の構成要素の一部の人。
やっと、あの人とまた一緒に過ごせる。それだけが高校に行ける唯一の理由だった。
登校を終え、昇降口に入ろうとした時。
「おはよーー、鈴音。今日も相変わらずね……」
そう言って私の背後を伺おうとするのは、この学校に来て初めて友達になった弓原心海。
とは思いつつ、結局のところここに来た昔からの付き合いの友達はいないわけで。
中学の頃の知り合いは皆無。
「いつものことだからね。もう平気」
私の周りには見知らぬ男女数人が付いており、幾度となく声を掛けてくる。これももう日常的なもの。
「今日はこんなものを用意しました!」
と言って記憶に一切無い女生徒が花束を渡してきた。
「ありがとう。お気持ちだけ受け取らせてもらうわね」
私はそのまま教室に入り席に着く。
「ねえ。毎朝プレゼントとか持ってくるけど何で受け取らないのさ」
「心海は分かってないなあ。受け取ったら他の人のも受け取らなくちゃならなきゃないでしょ。だからいつもこうしているのよ」
全くの正論を語られてどうしようもなく感じているのか、
 
「それもそうだけどさ……」
いかにも納得していない顔だった。
「うん。でも、あなたが立場上そうしなきゃならないのもあるしね」
だけど、心海は自分で唱えた問題は自己処理を済ませたらしい。
立場――私は本校の生徒会副会長兼学級委員長で成績優秀、校内一位を誇る学力とも呼ばれており、それなりに色々な人達から期待されている。
そのため、見知らぬ人が話し掛けてきたり物を渡してくるのはある意味日常的になっている。
しかもスタイル抜群、容姿端麗であるので余計に注目を浴びてしまう。
「まあね」
私自身、注目されるのは嫌なことでも何でもないので平然と過ごしている。
むしろ、あの人が振り返ってくれるのなら喜んで引き受けたいぐらい。
そういえば、あの人は忘れ物をしていたのだっけ。
「あと10分……遅れちゃったな……」
四時間目が終わった後、私はあの人に会うために食堂に行くつもりだった。
しかし、貴重な昼休みもまた削れてしまった。
実験の片付けや、先生との世間話が思いの外時間がかかったのだ。
「これじゃ、あの人もいないだろうな」
独り歩く廊下。実験室から教室に戻った頃には食事している人すら少なくなっていた。
食堂は教室がある棟に付随しているように位置しているので、外廊下を通る。
廊下には食事を済ませた人々ばかり。そんな人達でさえ私を一瞥して帰っていくのは気にしなくても分かってしまう。
ある意味、向こう側からは人脈豊かな人だと見られているのかもしれない。けど私が私を思うと元来孤独だった。友達も家族もいない、頼れる人さえいなかった。
だからこそ、あの人と巡り会えたとき千載一遇の出会いだと感じた。あの時、助けてくれたのはあの人しかいなかったのだから。
人の気配が感じられないぐらい閑静な食堂。
私はドアを開け、顔だけを出すように部屋を覗いた。
長テーブルが5、6個もあるにも関わらず座っている人がいない。
食堂で働く人達も食事の片付けを初めているようで、まるで店じまいした直後だった。
昼食も食べ損ね、あの人にも会えなかった私が落胆したときだった。
「まだ食べていないのなら何か作ってあげようか?」
片付けていた最中に話しかけてくれたのだった。
迷惑をかけてしまうと気兼ねした私は断ろうとしたが。
「大丈夫ですよ。私一人のために片付けのご迷惑をおかけしても悪いので」
「なに言ってるのよー。まだあそこでも食べている人がいるんだから気にしないで」
そう言って見た方向には人影。あの人だった。
背中だけで分かるくらい何度もあの人を追いかけてきた。
朝から一度も会えなかったあの人とやっと会えたこの喜びはきっと誰にも理解できないだろう。
食事など気にせずに、あの人の傍まで駆けて行く。
そして、
「やっとーー、会えましたァ!ずーーっと探してたんですからあ」
半日といえども会えなかった間の時間は長く感じるもので、やっとのことで安堵に包まれた私は気を緩めてしまった。
そう。ここは学校なのだ。気を改めて念のため周りを確認すると、
「……この人は知り合いか?……佐藤」
記憶にない男に自分の氏を呼ばれた私は戸惑うしかなかった。
しかしあの人が口を開き、
「うん……というか私の妹……」
私の紹介をされていることに気づいたときにはもう遅かった。
改めて私はあの人の正真正銘の妹、佐藤鈴音である。
それがまさに人間は自然に劣るという真髄なのだろう。
人工的に創られたアラームなどを用いずに目覚めるのは日常的な風景。
重たい上半身を起こし、その荘厳の装飾品に包まれたベッドから立ち上がる。
今日も同じような風景。
どこからともなく聞こえてくる声。安心するぐらい居心地が良い声。
「先に行ってるわよーー」
おぼつかない足でバルコニーに出ると、庭先に見えるのは私の憧れの存在の人。
私の私以上の存在の大切な人。
あの人は二階の私に聞こえるような大きさの声で私を呼び起こす。
「ふぁ~い」
私は眠気眼の瞼を擦りながら応えた。
ヴィクトリア朝時代を醸し出す長卓と華美な椅子。軽く10人は座れるような大きさ。
だけど、今座っているのは私独りだけ。
勿論寂しいという感情もあるのだけど、慣れがそれを許してくれる筈がなかった。
そもそも両親なんて人達にそんな思いはなかったから、寂しく思わなかったのかもしれないけど。
ただ、あの人とは一時も離れたくはなかった。
いつも一緒にいてくれて。怒ってくれて。誉めてくれて。私の構成要素の一部の人。
やっと、あの人とまた一緒に過ごせる。それだけが高校に行ける唯一の理由だった。
登校を終え、昇降口に入ろうとした時。
「おはよーー、鈴音。今日も相変わらずね……」
そう言って私の背後を伺おうとするのは、この学校に来て初めて友達になった弓原心海。
とは思いつつ、結局のところここに来た昔からの付き合いの友達はいないわけで。
中学の頃の知り合いは皆無。
「いつものことだからね。もう平気」
私の周りには見知らぬ男女数人が付いており、幾度となく声を掛けてくる。これももう日常的なもの。
「今日はこんなものを用意しました!」
と言って記憶に一切無い女生徒が花束を渡してきた。
「ありがとう。お気持ちだけ受け取らせてもらうわね」
私はそのまま教室に入り席に着く。
「ねえ。毎朝プレゼントとか持ってくるけど何で受け取らないのさ」
「心海は分かってないなあ。受け取ったら他の人のも受け取らなくちゃならなきゃないでしょ。だからいつもこうしているのよ」
全くの正論を語られてどうしようもなく感じているのか、
 
「それもそうだけどさ……」
いかにも納得していない顔だった。
「うん。でも、あなたが立場上そうしなきゃならないのもあるしね」
だけど、心海は自分で唱えた問題は自己処理を済ませたらしい。
立場――私は本校の生徒会副会長兼学級委員長で成績優秀、校内一位を誇る学力とも呼ばれており、それなりに色々な人達から期待されている。
そのため、見知らぬ人が話し掛けてきたり物を渡してくるのはある意味日常的になっている。
しかもスタイル抜群、容姿端麗であるので余計に注目を浴びてしまう。
「まあね」
私自身、注目されるのは嫌なことでも何でもないので平然と過ごしている。
むしろ、あの人が振り返ってくれるのなら喜んで引き受けたいぐらい。
そういえば、あの人は忘れ物をしていたのだっけ。
「あと10分……遅れちゃったな……」
四時間目が終わった後、私はあの人に会うために食堂に行くつもりだった。
しかし、貴重な昼休みもまた削れてしまった。
実験の片付けや、先生との世間話が思いの外時間がかかったのだ。
「これじゃ、あの人もいないだろうな」
独り歩く廊下。実験室から教室に戻った頃には食事している人すら少なくなっていた。
食堂は教室がある棟に付随しているように位置しているので、外廊下を通る。
廊下には食事を済ませた人々ばかり。そんな人達でさえ私を一瞥して帰っていくのは気にしなくても分かってしまう。
ある意味、向こう側からは人脈豊かな人だと見られているのかもしれない。けど私が私を思うと元来孤独だった。友達も家族もいない、頼れる人さえいなかった。
だからこそ、あの人と巡り会えたとき千載一遇の出会いだと感じた。あの時、助けてくれたのはあの人しかいなかったのだから。
人の気配が感じられないぐらい閑静な食堂。
私はドアを開け、顔だけを出すように部屋を覗いた。
長テーブルが5、6個もあるにも関わらず座っている人がいない。
食堂で働く人達も食事の片付けを初めているようで、まるで店じまいした直後だった。
昼食も食べ損ね、あの人にも会えなかった私が落胆したときだった。
「まだ食べていないのなら何か作ってあげようか?」
片付けていた最中に話しかけてくれたのだった。
迷惑をかけてしまうと気兼ねした私は断ろうとしたが。
「大丈夫ですよ。私一人のために片付けのご迷惑をおかけしても悪いので」
「なに言ってるのよー。まだあそこでも食べている人がいるんだから気にしないで」
そう言って見た方向には人影。あの人だった。
背中だけで分かるくらい何度もあの人を追いかけてきた。
朝から一度も会えなかったあの人とやっと会えたこの喜びはきっと誰にも理解できないだろう。
食事など気にせずに、あの人の傍まで駆けて行く。
そして、
「やっとーー、会えましたァ!ずーーっと探してたんですからあ」
半日といえども会えなかった間の時間は長く感じるもので、やっとのことで安堵に包まれた私は気を緩めてしまった。
そう。ここは学校なのだ。気を改めて念のため周りを確認すると、
「……この人は知り合いか?……佐藤」
記憶にない男に自分の氏を呼ばれた私は戸惑うしかなかった。
しかしあの人が口を開き、
「うん……というか私の妹……」
私の紹介をされていることに気づいたときにはもう遅かった。
改めて私はあの人の正真正銘の妹、佐藤鈴音である。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
0
-
-
0
-
-
58
-
-
6
-
-
157
-
-
22803
-
-
59
-
-
381
-
-
107
コメント