Over the memory~時を巡る~
He and me(her)
なあ、俺と俺以外の人間の違いってなんだ?
答えが見えそうもない問いを自分自身に投げ掛けている。
ここのところ毎日そればかりだ。
喫茶店の前に立地する歩道橋。
俺と同じ高校を通う生徒は利用しない道。普段の俺は一般的な登校ルートから外れているのでそこを通るのだ。
ただ一人の例外を除いて。
「おおーー、沢田あ!ここにいたのか!っと佐藤さんもこんにちは」
俺と彼女との談話を遮るように現れた。
今日、運悪く共に登校してきた彼――斎藤優人は行きと同じ道で下校していたようだった。
彼女との話が続かなかったので、こういったちょっとしたイベントがあるのは良いが……
「なぜここにいる?」
「なぜって言われてもな~、たまたまってやつだよ」
よりによって一番会ってはいけない人と遭遇してしまったのはまずい……
だが、彼女の方はというと態度を丸っきり変えて、
「すごい偶然だね!」
今日俺と二人で会ってから一度もしていなかった笑顔を見せる。
俺にはその笑顔は、不思議でたまらなかった。そして彼に対する羨望も抱いていた。
彼は俺をよそに佐藤に話しかけていた。
「ここへはいつも彼と?」
普段では使わない斎藤の敬語に新鮮さを覚えるも、
「そうです!」
彼女にはクラス、広く言えば学校で用いる言葉遣いにはそんな新鮮味は抱かなかった。
それからというものの、彼女と斎藤との話は盛り上がり俺は独り取り残されるような状況だった。
不思議と会話に取り残された空しさ、空虚感はなかった。
ひとしきり話し終えた後、
「じゃあ、俺はこのへんで帰るよ。あんまり邪魔すると悪いしね」
斎藤は自ら店を出ていった。
再び二人だけの空間が作られ、そこだけが時間が経つのが遅いと感じる。
彼がこの場所を出た後、彼女も普段の彼女に戻っていた。
なんとなく喫茶店の彼女と、クラスで過ごす彼女の姿に差異が生じていることに気が付き始めたのは付き合ってすぐのころ。
確かに彼氏という立場からすると嬉しい気もするが……
「ねえ、何か特別なことはないの?」
「……あると言えばあるし、無いと言えば無い」
「何よー意味分かんないーー」
「じゃあ、言おうか?」
すると、彼女は体ごとテーブルに乗りだし、
「えっ!なになに?」
目を一杯に開きながら俺を見つめてきた。
 
「今週の日曜に二人で出掛けないか?」
「いいよっ!」
彼女は親指を上に向けて了承を示した、要するにグッドサインである。
さっきまでと全く違う、しかしながら俺にしか知らないであろう彼女の姿。
まるで別人。
「じゃあ、その日に着る服を買いに行かない?」
無言で承諾する俺の意向を察したのか、すでに店を後にしている。
結局、俺は彼女の服選びに時間を取られ今日という日も幕を閉じたのだった。
翌日、俺は相談事をするために隣町の大型ショッピングモールに来ていた。
今日は休日で殆どの店は混み合っている。
その中に溶け込むように俺たちは二人歩く。
カップル、家族連れ、意外にもそのバリエーションが多彩なことに驚くが、
この状況ではまさに異物混入と言うべきだろう。
「俺ここに来たの初めてだぜーー」
俺の隣を歩くのは可憐に振る舞う女子……ではなく、
「沢田は来たことあるのか?」
なにかと付きまとってくる旧友の斎藤優人。
「ないよ。ここへはあまり来ないんだ」
「っとあったあった。ここだ」
俺が答えた瞬間、目的の場所に到達した。
そう。ここへはショッピングを楽しみに来たのではないのだ。
「ここで良いか?」
二人ちょうど座れる席を見つけて、荷物を置く。
「何か食うか?」
彼はこの場で最も正確な手段を選ぶ。
「じゃあ、何か飲み物を買ってきてくれ」
「おっけ」
彼に買い出しを頼んだ俺は席に座り、今日ここに訪れた意味を思い出す。
辺りを見回すと食事中の人々が大多数を示すが中には話だけが盛り上がっているところもあるようだ。
つまりここはショッピングモール三階のフードコート。
周囲に気をそらしていると、彼も戻ってきた。
「コーヒーと紅茶どっちがいいか?」
「コーヒーをくれ」
彼は右手に持っているコーヒーを差し出して席に座った。
やがて、彼は真剣な眼差しで俺を見つめて、
「……で何を知りたいんだ?言っておくが俺は物知りじゃないからな」
「ああ」
俺は彼に相談するためにここに訪れたのだ。
ということで早速本題に入ることにした。
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