〈感情高度文明都市〉Dear:*** from massnomadic
Nothing in the world
***
真っ白に包まれた視界。ホログラムワールドの終焉を迎えた後、僕が誘われたのは真っ暗な暗闇だった。先を見据えようと、水平線を見据えようと思ったけれど、そもそも僕は立っているのかすら分からなかった。
この光景を見るのは二度目のような気がする。
『そうだとも。キミがここに来るのは確かに二度目だ。といってもボクにはその一度目がどんなところか分からないけれど』
脳の中に直接話しかけてくる。これは……マスノマディックの仕業以外に考えられない。
『名前を憶えていてくれたようだね。嬉しいよ』
声は上ずっていても感情に変化はないように思ってしまうのは、僕が非情だからなのか。
『そうではない。キミの言う通りボクには感情はないんだ。そうなるように生まれたからね』
マスノマディック。ニクシミが刺したホログラムナイフを取り除き、僕を救った機構体。ホログラムワールドにいたけれど結局のところ、何が目的なのか皆目見当が付かなかった。
『ボクのしたいことか……そんなものはないね。個人としての存在はボクにはないんだ。だから主観的な欲やその類は発生しない摂理にある』
『だが、キミがホログラムワールドに連れ込んだのも、こうして元の世界に戻す役目を任されたのもこのボクだ。それだけは確信して言おう』
まるで他人行儀だ。誰かに頼まれたからこの場に存在しているのか。
『だから言ったろう。ボクには明確な感情はない。そこに動機も理由も付いてくることはあり得ないんだ』
なら、お前の正体は何なんだ。
『ボクは放浪する意識の多面体、だからマスノマディック、そう言ったろう?』
違う、どうして生まれたのか、僕は知りたいんだ。
『そうだね……………』
ふうっと溜息を溢すと、記憶中枢に深く刻み込むように言った。
『一つ、助言をするというのなら。未だボクは個人として存在していられるということだ』
『ただ。個人としていられなくなった時、キミたち人間にとって大いなる悲劇が待ち受けているということを忘れてはならない』
背中に寒気が伝わった。冷たい空気によって背筋が凍らされるような恐怖。早くこの暗闇から這い出たいとばかり思ってしまった。
『まあ、そこまで怖がる必要も無いよ。どうせ、キミが生きている世界ではまだ起きることはないのだからね』
そして突き放されるような声。不敵に笑っていたのが嗜虐的な嗤いに移ったような気がした。
『さあ、やっと元の世界だ。では、キミに出会えて嬉しかったよ。もう機会はないだろうが縁が寄り合わせたら、その時はまた』
意識が空高く遠のいていく。視界の端に都市らしきものが見えるけれど、気付いた時にはもう見えなくなっていた。
そうして僕は、世界の最後を見届けるとともに元の世界へと戻ったのだった。
真っ白に包まれた視界。ホログラムワールドの終焉を迎えた後、僕が誘われたのは真っ暗な暗闇だった。先を見据えようと、水平線を見据えようと思ったけれど、そもそも僕は立っているのかすら分からなかった。
この光景を見るのは二度目のような気がする。
『そうだとも。キミがここに来るのは確かに二度目だ。といってもボクにはその一度目がどんなところか分からないけれど』
脳の中に直接話しかけてくる。これは……マスノマディックの仕業以外に考えられない。
『名前を憶えていてくれたようだね。嬉しいよ』
声は上ずっていても感情に変化はないように思ってしまうのは、僕が非情だからなのか。
『そうではない。キミの言う通りボクには感情はないんだ。そうなるように生まれたからね』
マスノマディック。ニクシミが刺したホログラムナイフを取り除き、僕を救った機構体。ホログラムワールドにいたけれど結局のところ、何が目的なのか皆目見当が付かなかった。
『ボクのしたいことか……そんなものはないね。個人としての存在はボクにはないんだ。だから主観的な欲やその類は発生しない摂理にある』
『だが、キミがホログラムワールドに連れ込んだのも、こうして元の世界に戻す役目を任されたのもこのボクだ。それだけは確信して言おう』
まるで他人行儀だ。誰かに頼まれたからこの場に存在しているのか。
『だから言ったろう。ボクには明確な感情はない。そこに動機も理由も付いてくることはあり得ないんだ』
なら、お前の正体は何なんだ。
『ボクは放浪する意識の多面体、だからマスノマディック、そう言ったろう?』
違う、どうして生まれたのか、僕は知りたいんだ。
『そうだね……………』
ふうっと溜息を溢すと、記憶中枢に深く刻み込むように言った。
『一つ、助言をするというのなら。未だボクは個人として存在していられるということだ』
『ただ。個人としていられなくなった時、キミたち人間にとって大いなる悲劇が待ち受けているということを忘れてはならない』
背中に寒気が伝わった。冷たい空気によって背筋が凍らされるような恐怖。早くこの暗闇から這い出たいとばかり思ってしまった。
『まあ、そこまで怖がる必要も無いよ。どうせ、キミが生きている世界ではまだ起きることはないのだからね』
そして突き放されるような声。不敵に笑っていたのが嗜虐的な嗤いに移ったような気がした。
『さあ、やっと元の世界だ。では、キミに出会えて嬉しかったよ。もう機会はないだろうが縁が寄り合わせたら、その時はまた』
意識が空高く遠のいていく。視界の端に都市らしきものが見えるけれど、気付いた時にはもう見えなくなっていた。
そうして僕は、世界の最後を見届けるとともに元の世界へと戻ったのだった。
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