俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。
125.これから始まる物語のフォアシュピール Game1
始業式が明日に迫る中、俺や水無月、神無月の文芸部員三人は相変わらず部室で混迷低迷している。夏休みの課題は休暇が始まる前から手を付けていたので学生特有の焦燥感に駆られることは無かったのだが……
「それで、恋愛パートはどうすんだ。疑似恋愛でもギャルゲーでも乙女ゲーでもプレイしてみれば『恋愛とは何たるか』を理解することが出来ると思ったが、俺はこれっぽっちも解せないぞ」
「そうね。私も同意せざるを得ないわ。〆切日程を破ってはならないルールがあるぐらい理解不能よ」
短編小説を書く際に必要な「恋愛」という概念について、つまりは恋とはどういったものなのか知ることに焦りを感じていた。
「生々しいこと言わないでください水無月さん。間違ってもあなたは俺の担当だということ忘れないでくれ」
確かに作者でもあり編集者でもある水無月は双方の立場というか、大変さを身に持って実感しているが。
「あら……そんなことを言わなくてもあなたは当然の如く破るのかと思ってたわ」
まだ一度も延滞したことないのにその言い草は酷いなおい。
「俺への信用ってそんなミニマムサイズだったのかよ。分厚い辞書みたいな本だって数日で読み終えたんだぞ、睡眠時間削ってまで死にそうになったのは分かってないだろ」
「あら、そうだったの。私はてっきり冒頭だけ読んで『こんな本つまんねえな』って投げ出してネットのレビュー欄に書いてあることを鵜呑みにしたのだと思ったわ」
スマホを手に取るとそのまま画面を俺の顔に押し付ける、近い近い。
「『作者の悩みシリーズベストセラー!!この本を読まなくては人生損するだけ』、なるほど胡散臭いな」
水無月は眉間に皺を寄せると俺の右手の甲の皮膚をつねった。痛い痛いねじらないでくれ。
「よしよし一回落ち着こう、な?今やるべきことを思い出すんだ」
「そうだよ、みな。マガトの言っているコトなんて無視してさ早く問題解決した方がいいって」
あれーー、神無月さん。何か俺に当たり強くない?俺の意見に賛同してくれるのは嬉しいけど……
「といっても私にゲームタイトルを選んでって丸投げしたのはマガトなんだけどね」
「すみません神無月さん。申し訳ないです。確かにあなたに責任転嫁しちゃいました」
根に持つタイプなのか神無月は。さっきといい、俺に当たりが強いのは他でもない自分の責任の為なのか。
ならば!!
次は自分でタイトル選びをすればいいということ!!
「じゃあこのゲームなんてどうだ?ネーミング的にも歪んでなさそうだしほら、全年齢版だろ?」
俺が選んだゲームは『彼女がSorMである件について』よりも売り上げランキングで下位の方に位置していた『恋の七日間』というタイトル。Seven days of living.
アプリのロゴもハートの形の中に恋愛という文字の、ベタなパッケージ。そしてそれを見た水無月は、
「異論はないわ、外見からでは何も言えないから始めてみましょう」とこれといって特別な感情を起こさず。
「うん、そだね。マガトのゲーム選択とくと見せてもらおうではないか」
神無月も了承した。
ということで二作目の「恋の七日間」をプレイすることになった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ーー恋の七日間ーー
アプリ説明欄には七日間で恋の行き先が運んでいくようで時間が惜しいプレイヤーにとっては十二分程相性が良いゲームとされている。プレイヤーは男女性別から選ぶことが出来るのも人気が高い理由の一つらしい。
「選択肢とかは俺が勝手に選んでもいいのか?」
「性別だけはあなたに任せるわ、神無月さんはどう?」
「それでOK!!」と親指と人差し指で輪を作ったので俺は男性を選択した。
***
第一日目。
僕は何の変哲もない、それこそ飛び切り超能力だって何一つ持ち合わせていない男子高校生。中学の卒業式と何ら変わらない入学式を今さっき終えて自分の教室に戻ったところだ。学力に関して名門と呼ばれていた中学から遠く離れた高校からか周りは知らない人だらけだ。
「おーーい、キミは一人なのかい?知り合いはいないのかい?」
僕の一つ前の席、無造作でぼさぼさになった髪が目立つ男が話しかけてきた。
そうなんだ。と返す。孤独を心象したつもりはないけれど、彼は優しさを含んだ声で答えた。
「奇遇だねぇ。これまた俺もいないんだわ。親の仕事の都合でこっちにまだ引っ越したばかりでさ、この高校に来るしかなかったんだよ」
「これが入学式と被らなければ転校生としてチヤホヤされたかもしんねーのによ」
ちぇっ、と彼は残念そうに語る。僕とは考え方が逆みたいだけれど、きっと悪い仲にはならないのだと心の底で感じられた。
HRが始まるらしい。どこかで見覚えのある先生らしき人物が教室に入ると同時に「号令」と声を挙げた。しかし教室は突然しんと静まってしまった。あたかもテストが開始したかのような静寂に僕は滑稽と感じたのだけれど。
「先生。まだ号令係決まってません」
教卓に近い生徒が告げる。なんだ気付いていたのか。
HRが始まった時、僕の隣の席は空席だった。
***
「なんだ、なんなんだこのノベルゲーム」
俺は違和感を覚える。違和感という名のデジャブ、経験したことがあると思う俺がいてそれを信じない俺。
「一般的な男子が主人公に成ると言うのは典型的なケースなのだけれど、それ以上につまらないわね。この男に何の魅力も感じられないわ、こんな人間が女性と恋愛していくのか些か疑問だわ」
辛辣な言葉を洩らす水無月。なんだろう。やけに俺の心が痛む。このプレイしている主人公を生み出した作者でもないのに、古傷を掘られたような感じがする。
「そ、それがゲームの醍醐味ってやつだろう?何もかも、友人も金も権力も持ってる人間が女性と恋愛するのを見てもつまらないし、ある程度性格とかマイナスな部分がある方がいいんだよ」
「その余裕がどこまで持つかしらね」
「ねーーえーー早く続きやろうよーー」
神無月が急かすので再度物語に没入することになった。なんだろう。本当に嫌な予感というか胸騒ぎがしてならない。
「それで、恋愛パートはどうすんだ。疑似恋愛でもギャルゲーでも乙女ゲーでもプレイしてみれば『恋愛とは何たるか』を理解することが出来ると思ったが、俺はこれっぽっちも解せないぞ」
「そうね。私も同意せざるを得ないわ。〆切日程を破ってはならないルールがあるぐらい理解不能よ」
短編小説を書く際に必要な「恋愛」という概念について、つまりは恋とはどういったものなのか知ることに焦りを感じていた。
「生々しいこと言わないでください水無月さん。間違ってもあなたは俺の担当だということ忘れないでくれ」
確かに作者でもあり編集者でもある水無月は双方の立場というか、大変さを身に持って実感しているが。
「あら……そんなことを言わなくてもあなたは当然の如く破るのかと思ってたわ」
まだ一度も延滞したことないのにその言い草は酷いなおい。
「俺への信用ってそんなミニマムサイズだったのかよ。分厚い辞書みたいな本だって数日で読み終えたんだぞ、睡眠時間削ってまで死にそうになったのは分かってないだろ」
「あら、そうだったの。私はてっきり冒頭だけ読んで『こんな本つまんねえな』って投げ出してネットのレビュー欄に書いてあることを鵜呑みにしたのだと思ったわ」
スマホを手に取るとそのまま画面を俺の顔に押し付ける、近い近い。
「『作者の悩みシリーズベストセラー!!この本を読まなくては人生損するだけ』、なるほど胡散臭いな」
水無月は眉間に皺を寄せると俺の右手の甲の皮膚をつねった。痛い痛いねじらないでくれ。
「よしよし一回落ち着こう、な?今やるべきことを思い出すんだ」
「そうだよ、みな。マガトの言っているコトなんて無視してさ早く問題解決した方がいいって」
あれーー、神無月さん。何か俺に当たり強くない?俺の意見に賛同してくれるのは嬉しいけど……
「といっても私にゲームタイトルを選んでって丸投げしたのはマガトなんだけどね」
「すみません神無月さん。申し訳ないです。確かにあなたに責任転嫁しちゃいました」
根に持つタイプなのか神無月は。さっきといい、俺に当たりが強いのは他でもない自分の責任の為なのか。
ならば!!
次は自分でタイトル選びをすればいいということ!!
「じゃあこのゲームなんてどうだ?ネーミング的にも歪んでなさそうだしほら、全年齢版だろ?」
俺が選んだゲームは『彼女がSorMである件について』よりも売り上げランキングで下位の方に位置していた『恋の七日間』というタイトル。Seven days of living.
アプリのロゴもハートの形の中に恋愛という文字の、ベタなパッケージ。そしてそれを見た水無月は、
「異論はないわ、外見からでは何も言えないから始めてみましょう」とこれといって特別な感情を起こさず。
「うん、そだね。マガトのゲーム選択とくと見せてもらおうではないか」
神無月も了承した。
ということで二作目の「恋の七日間」をプレイすることになった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ーー恋の七日間ーー
アプリ説明欄には七日間で恋の行き先が運んでいくようで時間が惜しいプレイヤーにとっては十二分程相性が良いゲームとされている。プレイヤーは男女性別から選ぶことが出来るのも人気が高い理由の一つらしい。
「選択肢とかは俺が勝手に選んでもいいのか?」
「性別だけはあなたに任せるわ、神無月さんはどう?」
「それでOK!!」と親指と人差し指で輪を作ったので俺は男性を選択した。
***
第一日目。
僕は何の変哲もない、それこそ飛び切り超能力だって何一つ持ち合わせていない男子高校生。中学の卒業式と何ら変わらない入学式を今さっき終えて自分の教室に戻ったところだ。学力に関して名門と呼ばれていた中学から遠く離れた高校からか周りは知らない人だらけだ。
「おーーい、キミは一人なのかい?知り合いはいないのかい?」
僕の一つ前の席、無造作でぼさぼさになった髪が目立つ男が話しかけてきた。
そうなんだ。と返す。孤独を心象したつもりはないけれど、彼は優しさを含んだ声で答えた。
「奇遇だねぇ。これまた俺もいないんだわ。親の仕事の都合でこっちにまだ引っ越したばかりでさ、この高校に来るしかなかったんだよ」
「これが入学式と被らなければ転校生としてチヤホヤされたかもしんねーのによ」
ちぇっ、と彼は残念そうに語る。僕とは考え方が逆みたいだけれど、きっと悪い仲にはならないのだと心の底で感じられた。
HRが始まるらしい。どこかで見覚えのある先生らしき人物が教室に入ると同時に「号令」と声を挙げた。しかし教室は突然しんと静まってしまった。あたかもテストが開始したかのような静寂に僕は滑稽と感じたのだけれど。
「先生。まだ号令係決まってません」
教卓に近い生徒が告げる。なんだ気付いていたのか。
HRが始まった時、僕の隣の席は空席だった。
***
「なんだ、なんなんだこのノベルゲーム」
俺は違和感を覚える。違和感という名のデジャブ、経験したことがあると思う俺がいてそれを信じない俺。
「一般的な男子が主人公に成ると言うのは典型的なケースなのだけれど、それ以上につまらないわね。この男に何の魅力も感じられないわ、こんな人間が女性と恋愛していくのか些か疑問だわ」
辛辣な言葉を洩らす水無月。なんだろう。やけに俺の心が痛む。このプレイしている主人公を生み出した作者でもないのに、古傷を掘られたような感じがする。
「そ、それがゲームの醍醐味ってやつだろう?何もかも、友人も金も権力も持ってる人間が女性と恋愛するのを見てもつまらないし、ある程度性格とかマイナスな部分がある方がいいんだよ」
「その余裕がどこまで持つかしらね」
「ねーーえーー早く続きやろうよーー」
神無月が急かすので再度物語に没入することになった。なんだろう。本当に嫌な予感というか胸騒ぎがしてならない。
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