俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。
123.恋愛シミュレーションゲームで恋愛を学ぶ部活
恋愛シミュレーションゲーム。
自分が主人公となり作中に登場する人物たちと仮恋愛を楽しめるゲーム。通称、男性向けだと「ギャルゲー」だとか女性向けだと「乙女ゲー」なんて呼ばれるそれは、プレイ人口の大半は恋愛下手な人間層が多く占めていると言っても過言ではない(個人主観より)。
どうにかして彼女いない歴=年齢という腐ったレッテルを己から剥がすため、その練習の一環としてプレイする人間が多いのである。
例えば!!
君が惹かれている女性が隣にいたとしよう。初めての二人きりのショッピングの帰り道、近くのビーチの砂浜に座りながら夕日の沈む光景を目にしている。左をちらりと覗くと、微笑んでいる女性がそこにはいた。
『今日はありがとね。○○くんorさん、たのしかったよ』
夕日から差し込まれる光によって紅に照らされた妖艶な頬は麗しくて美しい。学校で見るクラスメイトの顔ではもうなかった。隣に座っていて存在するだけで太陽のように周囲を照らす人。
そんな人に自分は失礼ながらも恋情を抱いてしまった。そんな後悔だってまだ胸底に漂っている。
この人に、自分の感情をぶつけてもいいのだろうか。
今日は嫌々付き合って貰ってしまっているのではないのだろうか、クラスメイトの一人として、友達としてこの場にいるのではないか。
決断をする時がきた。
『①好きだと伝える』
『②そうだねと同感する』
***
「これは②しか考えられないわね」
「なっ、んでだよ!!」
怒号が飛び散った。俺は意識を仮想空間から部室に戻し、同じ体験をした人物の発言に対して異論を述べる。
「二人で一緒に買い物楽しんで、夕日が海に沈んでいるところを眺めて…………同じ体験を記憶として共有している仲なんだぞ。ここまで来てなんで①!?なんで!?」
「理解……できないのよ」と水無月は言いつつ、机に置かれたタブレットに一瞥すると溜息を溢した。
「行動と意思が一致していないの。マニュアルを読んでただ動かしているだけのロボットのような動きをしているように見えるの私には」
「行動……同じ記憶を共有するために二人でショッピングに行ったのは称賛するわ。男性?として女性がリードする構図で惹かれるところがあるもの」
水無月は俺や神無月が座っている席から離れ、窓の向こうの校庭に視線を移す。
「でも……」
すると体を横に一回転、くるりと俺の方へ向かってきて、体が衝突しない程度のところで急停止した。
「お、おい……どうしたんだよ……」
そうして彼女の反応を確かめた時には遅く、あまりあるエネルギーを声に変換したような怒号が部室中を再び反芻させた。
「どうして告白するかしないか、そんなことで悩む必要があるのよ!!自分からショッピングに誘って肝心の告白はプレイヤーに丸投げ、そんなの動機が無い殺人事件と同程度のレベルよ、物語性も微塵も考えられないわ!!」
「殺人事件ってまた大袈裟な。ゲームなんだから現実と比べようとするなよ……」
一時、暴走する水無月から距離を取る。両足で床に力を入れながら背後にバックするような要領だ。座っている椅子を体と共に水無月から遠ざけた。
だが水無月は、「そんな問題で済む話ではないのよ!!」とそれでも俺との距離を詰めてくる。だから近いって。
「か、神無月さ~~ん……あなたからもこのゲームクリエイターの精神をねじ曲げようとしている人に何か言ってくれませんかね…………」
背後で座っているはずの同じプレイヤー、神無月茜に助けを乞うが反応がない。
「あのーー、無視ってのはちょっと酷すぎるんじゃないですかーー?」
相変わらず反応がない……が、その代わりに目の前に詰め寄っている水無月が声を発した。
「無駄よ、あの子はまだ物語に入り込んでいるもの」
タブレットをのぞき込み、イヤホンを両耳に着けている神無月。その姿は「おお!!」と驚き、頬を紅潮させたり「ああ~~」と惚気たような声を洩らしていて、どっぷり疑似恋愛に漬け込んでいるように見えた。
どうやら俺や水無月が話していた文言は彼女の耳に届いていないようだ。
「恋愛がどういうものなのか、携帯のアプリでシミュレーションをしようとしたのにまさかこうなるとは……というか水無月さん、一度クリエイターからの主観を止めてくれませんかね」
現実とゲームでは恋愛という概念は同類にならない。そんな話なら否定することもない。だが水無月はゲームの設定から台詞、情景描写について事細かに指摘してくるのだ。
クリエイターの性なのか知らないが、一度、何もかも忘れて体験するといったことをしてくれないだろうか。さっきから何度も俺はそう思っているのである。
「主観ではないわ。これは客観的に見て当然の判断よ。告白だけじゃない、このショッピングに誘う時も同じ、どうして重要な選択はこちら側に投げてくるのかしら?」
「それもう疑似恋愛じゃないから‼‼第三者の目線で見ていること自体、それプレイを放棄しているからな」
「やっぱりゲームというのは私には合わないのかしらね。どうしても私には物語に欠陥を生み出した中途半端な産物にしか見えないわ」
「今さらっと世界中のゲームプレイヤーを敵に回したようなことを言いやがったよ……」
水無月にはノベルゲームは合わない。そういうことだろう。主人公の内面が自分の選択によってどのように変化するか。そして思いを寄せる人物にどうアプローチをしていくかがこのゲームの醍醐味。
だからゲーム全てを批判していることではないから前言撤回としよう、もしかしたら「あらゲーム全般一色単に嫌っているわけではないのよ」とか言われかねないからな。
「アクションゲームもただ飛び回ったり攻撃するだけ、頭脳ゲームと言っても名ばかりのただのパズルや謎かけばかり。本当に陳腐としか考えようがない概念よ」
「ゲーム全般拒絶したよこの人!!ってか、こんなゲームにヘイト溜まってる人初めて見たよ」
そこまでゲームという娯楽を否定するのは何か理由があるのだろうか。嫌悪感を抱く際、人は苦い思い出や記憶を呼び起こすことが多い。それは小さい頃に噛まれたことがあるから犬が嫌い、猫が嫌いだとか、経験則によるものだ。
あるいは強制的に嫌うように仕向けられたのだろうか。検索欄に「ゲーム 嫌う」と入力すると真っ先に親が子供にゲームを止めさせる方法について書かれたブログやらなにやらが上がってくることが確たる証拠、俺が根拠とするソースだ。
だがしかし、水無月が幼少期にゲームをプレイしていたというのは些か疑問が残るところ。ゆえに可能性は低いだろう。
ならば。
「ところで、そこまでゲームを否定するのなら逆に気に入ったものはあるのか?その言い方だと全くやってこなかったという感じではなさそうだが……」
「あら、ごめんあそばせ。私、一度でもゲームをプレイしたことがあるなんて言ったかしら?」
「ということは……」
「やってないわ。全部受け売りの情報よ、ブログとか通販のレビューを覗いたり、プレイ動画を見ただけね」
絶句。まさか本当に今まで一度もゲームを遊んだことがないとは。窓の向こうで静かに佇むお嬢様ですかあなたは。
「初めてのゲームだから期待してみたのだけれど、高評価ではないわね」
むしろバッドよ、と右手を握り親指を下に向ける仕草をする水無月。携帯のアプリなんだからそんなレベル高いゲームを求めては元も子もないだろう……
それに無料だぞ。普通ゲームというのは創ってくれたゲームクリエイターに金銭を払うことが一般的だろう。だが、今回は払わなくても楽しめるという破格なる慈悲が享受されたのだぞ、っておい。
「うはぁぁ……はぁ…………ってふへっ!?うわうわうわうわ、NONO」
水無月の背後にいて一言も発していなかった神無月が突然唸りだした。いや、これは突然ではない、俺がただ水無月のゲームへの向き方に異を唱えようとしていて気が付かなかっただけだ。俺や水無月がタブレットから離れてからも今に至るまで神無月はゲームに熱中していたのだ。
「どう……したんだ、神無月?」
勿論、神無月はイヤホンを両耳に着けているため、俺の呼びかけには応じない。代わりに水無月が歩み寄り、神無月がじっと睨んでいるタブレットを覗き込む。
「そんなに集中して変な声を出してどうしたのかしら、かんな……づき……さん」
近づいた時だった。神無月が見つめているタブレットを目にした時。水無月は閉口した。口にチャックでもついているのかと驚くほど声を発することも無かった。
そういうわけで俺が何度も彼女らに声を掛けても応答が無くなってしまったので同じくタブレットを覗き込んのだった。
(continue)
自分が主人公となり作中に登場する人物たちと仮恋愛を楽しめるゲーム。通称、男性向けだと「ギャルゲー」だとか女性向けだと「乙女ゲー」なんて呼ばれるそれは、プレイ人口の大半は恋愛下手な人間層が多く占めていると言っても過言ではない(個人主観より)。
どうにかして彼女いない歴=年齢という腐ったレッテルを己から剥がすため、その練習の一環としてプレイする人間が多いのである。
例えば!!
君が惹かれている女性が隣にいたとしよう。初めての二人きりのショッピングの帰り道、近くのビーチの砂浜に座りながら夕日の沈む光景を目にしている。左をちらりと覗くと、微笑んでいる女性がそこにはいた。
『今日はありがとね。○○くんorさん、たのしかったよ』
夕日から差し込まれる光によって紅に照らされた妖艶な頬は麗しくて美しい。学校で見るクラスメイトの顔ではもうなかった。隣に座っていて存在するだけで太陽のように周囲を照らす人。
そんな人に自分は失礼ながらも恋情を抱いてしまった。そんな後悔だってまだ胸底に漂っている。
この人に、自分の感情をぶつけてもいいのだろうか。
今日は嫌々付き合って貰ってしまっているのではないのだろうか、クラスメイトの一人として、友達としてこの場にいるのではないか。
決断をする時がきた。
『①好きだと伝える』
『②そうだねと同感する』
***
「これは②しか考えられないわね」
「なっ、んでだよ!!」
怒号が飛び散った。俺は意識を仮想空間から部室に戻し、同じ体験をした人物の発言に対して異論を述べる。
「二人で一緒に買い物楽しんで、夕日が海に沈んでいるところを眺めて…………同じ体験を記憶として共有している仲なんだぞ。ここまで来てなんで①!?なんで!?」
「理解……できないのよ」と水無月は言いつつ、机に置かれたタブレットに一瞥すると溜息を溢した。
「行動と意思が一致していないの。マニュアルを読んでただ動かしているだけのロボットのような動きをしているように見えるの私には」
「行動……同じ記憶を共有するために二人でショッピングに行ったのは称賛するわ。男性?として女性がリードする構図で惹かれるところがあるもの」
水無月は俺や神無月が座っている席から離れ、窓の向こうの校庭に視線を移す。
「でも……」
すると体を横に一回転、くるりと俺の方へ向かってきて、体が衝突しない程度のところで急停止した。
「お、おい……どうしたんだよ……」
そうして彼女の反応を確かめた時には遅く、あまりあるエネルギーを声に変換したような怒号が部室中を再び反芻させた。
「どうして告白するかしないか、そんなことで悩む必要があるのよ!!自分からショッピングに誘って肝心の告白はプレイヤーに丸投げ、そんなの動機が無い殺人事件と同程度のレベルよ、物語性も微塵も考えられないわ!!」
「殺人事件ってまた大袈裟な。ゲームなんだから現実と比べようとするなよ……」
一時、暴走する水無月から距離を取る。両足で床に力を入れながら背後にバックするような要領だ。座っている椅子を体と共に水無月から遠ざけた。
だが水無月は、「そんな問題で済む話ではないのよ!!」とそれでも俺との距離を詰めてくる。だから近いって。
「か、神無月さ~~ん……あなたからもこのゲームクリエイターの精神をねじ曲げようとしている人に何か言ってくれませんかね…………」
背後で座っているはずの同じプレイヤー、神無月茜に助けを乞うが反応がない。
「あのーー、無視ってのはちょっと酷すぎるんじゃないですかーー?」
相変わらず反応がない……が、その代わりに目の前に詰め寄っている水無月が声を発した。
「無駄よ、あの子はまだ物語に入り込んでいるもの」
タブレットをのぞき込み、イヤホンを両耳に着けている神無月。その姿は「おお!!」と驚き、頬を紅潮させたり「ああ~~」と惚気たような声を洩らしていて、どっぷり疑似恋愛に漬け込んでいるように見えた。
どうやら俺や水無月が話していた文言は彼女の耳に届いていないようだ。
「恋愛がどういうものなのか、携帯のアプリでシミュレーションをしようとしたのにまさかこうなるとは……というか水無月さん、一度クリエイターからの主観を止めてくれませんかね」
現実とゲームでは恋愛という概念は同類にならない。そんな話なら否定することもない。だが水無月はゲームの設定から台詞、情景描写について事細かに指摘してくるのだ。
クリエイターの性なのか知らないが、一度、何もかも忘れて体験するといったことをしてくれないだろうか。さっきから何度も俺はそう思っているのである。
「主観ではないわ。これは客観的に見て当然の判断よ。告白だけじゃない、このショッピングに誘う時も同じ、どうして重要な選択はこちら側に投げてくるのかしら?」
「それもう疑似恋愛じゃないから‼‼第三者の目線で見ていること自体、それプレイを放棄しているからな」
「やっぱりゲームというのは私には合わないのかしらね。どうしても私には物語に欠陥を生み出した中途半端な産物にしか見えないわ」
「今さらっと世界中のゲームプレイヤーを敵に回したようなことを言いやがったよ……」
水無月にはノベルゲームは合わない。そういうことだろう。主人公の内面が自分の選択によってどのように変化するか。そして思いを寄せる人物にどうアプローチをしていくかがこのゲームの醍醐味。
だからゲーム全てを批判していることではないから前言撤回としよう、もしかしたら「あらゲーム全般一色単に嫌っているわけではないのよ」とか言われかねないからな。
「アクションゲームもただ飛び回ったり攻撃するだけ、頭脳ゲームと言っても名ばかりのただのパズルや謎かけばかり。本当に陳腐としか考えようがない概念よ」
「ゲーム全般拒絶したよこの人!!ってか、こんなゲームにヘイト溜まってる人初めて見たよ」
そこまでゲームという娯楽を否定するのは何か理由があるのだろうか。嫌悪感を抱く際、人は苦い思い出や記憶を呼び起こすことが多い。それは小さい頃に噛まれたことがあるから犬が嫌い、猫が嫌いだとか、経験則によるものだ。
あるいは強制的に嫌うように仕向けられたのだろうか。検索欄に「ゲーム 嫌う」と入力すると真っ先に親が子供にゲームを止めさせる方法について書かれたブログやらなにやらが上がってくることが確たる証拠、俺が根拠とするソースだ。
だがしかし、水無月が幼少期にゲームをプレイしていたというのは些か疑問が残るところ。ゆえに可能性は低いだろう。
ならば。
「ところで、そこまでゲームを否定するのなら逆に気に入ったものはあるのか?その言い方だと全くやってこなかったという感じではなさそうだが……」
「あら、ごめんあそばせ。私、一度でもゲームをプレイしたことがあるなんて言ったかしら?」
「ということは……」
「やってないわ。全部受け売りの情報よ、ブログとか通販のレビューを覗いたり、プレイ動画を見ただけね」
絶句。まさか本当に今まで一度もゲームを遊んだことがないとは。窓の向こうで静かに佇むお嬢様ですかあなたは。
「初めてのゲームだから期待してみたのだけれど、高評価ではないわね」
むしろバッドよ、と右手を握り親指を下に向ける仕草をする水無月。携帯のアプリなんだからそんなレベル高いゲームを求めては元も子もないだろう……
それに無料だぞ。普通ゲームというのは創ってくれたゲームクリエイターに金銭を払うことが一般的だろう。だが、今回は払わなくても楽しめるという破格なる慈悲が享受されたのだぞ、っておい。
「うはぁぁ……はぁ…………ってふへっ!?うわうわうわうわ、NONO」
水無月の背後にいて一言も発していなかった神無月が突然唸りだした。いや、これは突然ではない、俺がただ水無月のゲームへの向き方に異を唱えようとしていて気が付かなかっただけだ。俺や水無月がタブレットから離れてからも今に至るまで神無月はゲームに熱中していたのだ。
「どう……したんだ、神無月?」
勿論、神無月はイヤホンを両耳に着けているため、俺の呼びかけには応じない。代わりに水無月が歩み寄り、神無月がじっと睨んでいるタブレットを覗き込む。
「そんなに集中して変な声を出してどうしたのかしら、かんな……づき……さん」
近づいた時だった。神無月が見つめているタブレットを目にした時。水無月は閉口した。口にチャックでもついているのかと驚くほど声を発することも無かった。
そういうわけで俺が何度も彼女らに声を掛けても応答が無くなってしまったので同じくタブレットを覗き込んのだった。
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