俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。

薪槻暁

115.5.MiB(不審)

「ここのところ不審者が現れるって話聞いたことある?ほら、あそこよ」




 校門から出てまもなく数秒経とうとしたとき、水無月桜は指をさした。言うまでもなく下校風景であるというのはお分かりであろうが、今は二人だけ。すなわち神無月は用があるというので先に帰宅し、二人だけの下校となってしまったのである。




「不審者ってそんな身近にいるもんなのか……?『ほら』じゃないだろ、そんな無気力に言われたら警戒心が薄れるっての」




 といいつつ、俺も水無月も同じ場所に目を移すと、黒服にサングラス、スキンヘッド……とまではいかないが、あたかも政府御用達のボディガードのような様相の人物が道路脇に立っていた。




「あんなSPにしかみえない、むしろSPって主張しているような人間ってそう簡単に現れるもんなのか……?」


「そうね。確かにあなたの言っている通り、初めて冒険して一日ほどで『野生の伝説級モンスターが現れた』と言っているようなものよね」


「すまん、言っている意味が分からん」


「何を言っているの、もしかして聞く耳を持たないというよりも聞ける耳が無いほどあなたの耳は腐っているのかしら?」


「いつもの展開というか、口調に戻ったよ、この人」


「何よ、私は私よ。それ以外に誰もいない。ドッペルゲンガーでも連れてくるのならば事は変わるのかもしれないのだけれど」




 やっぱり今日の水無月はおかしい。神無月の影響で本当に二重人格でも生まれたのだろうか。




「んで、結局あの不審者は何もしてこなかったな」




 ということで俺は彼女の異変はスルーし、ヤクザ……ではなく先ほどの不審者について通り過ぎながら問う。




「そうね、前も、その前もあんな感じだったけど、結局何もしてこなかったわ」


「前って……あんな黒服と何度も会ってるのか?」


「そりゃそうよ。じゃなかったらこんなにも悠長に、たらたらお喋りを愉しんでいるわけないでしょう?」




 そう言われれば納得だ……不審者といって目の前にいるのに落ち着いているのは不自然極まりない。




「ならあいつは何をしているんだ?見たところ誰かを待っているように見えないし、だからといって不審者の情報は全校には流れていない。俺だって今さっき知ったんだ」


「そうね……」




 ふと、思いつめたように地面に視線を逸らし、俯くと、




「いうならば……管理者ね」




 と、どこか懐かしそうに朧げのあるような言い方で呟いたのだった。



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