俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。
078.神無月茜、突然の来訪
「ああ!!やっぱりみなだーー、いえーーい✌」
真夏、ではなく初夏に催される地元の花火大会に、今まさに俺と水無月の二人で訪れているわけだが。
突如、人混みの中からピースサインを掲げてこちらに向かってきたのは、同じ高校に通う生徒ーー神無月茜だった。
人がごった返す中、よく俺と水無月を見つけられたものだ。満員電車レベルの人口密度超過であり、屋台を見つけるのも歩くことすら一苦労だというのに、まさかその中で誰か特定の人物を発見することが出来るとは。
あやつーー神無月茜は探偵にでもなれるのではないか。
といってあいつのことを過大評価している場合ではない。それに半袖Tシャツにジーンズ姿では探偵らしい服装ではないのではないか。
まぁ、そんなことはともかく、俺の方は面を被っているのだからきっと気付かないとは思うが……って言ってもこれはまずくないか?俺と神無月が会った時と比べれば顔は覆っている部分を除いて、他の着ている服は同じだ。
「あら神無月さんも来ていたのね、奇遇だわ」
「まあねーー。はとこに呼ばれたから来たんだってのもあるんだけど、呼ばれなくても多分来てたよ」
おい、さっきいとこに呼ばれたって言ってたぞ。いとこと、はとこを普通間違えるか。
「あ、そうだ。はとこじゃなくていとこだったーー」
間違えただと……って突っ込んでいる場合じゃない、どうにかして自分の影を薄くしなくては。俺はすかさず後ろを振り向き他人を装うとする。
が……。
「あれ、マガト?」
まずい‼これは危機的状況。声をかけられたからには振り向かなくては余計に怪しまれる可能性が高まるが、正面から見て服装が同じだということが知られたらこれこそ絶体絶命だ。
いやしかし、だからといってこのまま何もしないわけにはいかないのでゆっくりと旋回しながら面越しに神無月の表情を伺うことにした。
さあ、どう来るか。
もし「やっぱりマガトじゃんーー」と服装でバレてしまうのなら仕方ない。振り向かなければバレずに済んだのに、と後で水無月に説教されそうだが。
今この場合で神無月の問いかけに何も反応しないのは、質問に否定しないということは、肯定の意味として捉えます、なんて裁判所でよくある光景と同じだ。
いや待てよ。
神無月はさっき俺のことを「マガト」と呼ばなかっただろうか。面を被って後ろを向いている俺の姿を顔を直視で確認せずにあだ名で呼ばなかったか。
それってつまり、水無月の隣にいる俺のことを俺だと分かったうえで名前で呼んだということにならないか?
焦燥感に駆られたの如く心臓の鼓動が加速し、初夏の蒸し暑さでも人口密度の高さによる熱気からでもない熱が発汗作用を促進させ、
そよ風がふと吹き冷たく感じる。
俺は十分に時間をかけながら振り向くと、神無月の顔が目の前にーー無かった。
「全然気が付かないけど見間違いだったのかな、こっち振り向かなったよ」
どこ見てんだああああ。
神無月は俺を背に向け、射的屋に入ろうとしている俺に似ても似つかない少年のことを呼びとどめようとしている。バレなくて嬉しいというのもあるが、いやあの中学一年生ぐらいの少年と一緒にされては嫌な思いしかしない。
しかしながら神無月はそんな俺の思いが分かるはずもないので、
「ちょっと声かけてくるね‼‼」と好奇心旺盛な神無月はエセ俺の元へ走って行ってしまった。
「これで一件落着……でいいのかしらね?神無月さんには悪いけど向こうの方へ行ってしまったから、先に進むわよ」
一件落着ではあるし、芳しい結果でもあるが、そこまでに至った過程というか副産物が酷すぎる。これでは本来の作用よりも副作用がよく効く薬のようではないか。
しかし、俺は分かったと苦汁をなめるように頷くと水無月と共に再び人混みに紛れることになった。
真夏、ではなく初夏に催される地元の花火大会に、今まさに俺と水無月の二人で訪れているわけだが。
突如、人混みの中からピースサインを掲げてこちらに向かってきたのは、同じ高校に通う生徒ーー神無月茜だった。
人がごった返す中、よく俺と水無月を見つけられたものだ。満員電車レベルの人口密度超過であり、屋台を見つけるのも歩くことすら一苦労だというのに、まさかその中で誰か特定の人物を発見することが出来るとは。
あやつーー神無月茜は探偵にでもなれるのではないか。
といってあいつのことを過大評価している場合ではない。それに半袖Tシャツにジーンズ姿では探偵らしい服装ではないのではないか。
まぁ、そんなことはともかく、俺の方は面を被っているのだからきっと気付かないとは思うが……って言ってもこれはまずくないか?俺と神無月が会った時と比べれば顔は覆っている部分を除いて、他の着ている服は同じだ。
「あら神無月さんも来ていたのね、奇遇だわ」
「まあねーー。はとこに呼ばれたから来たんだってのもあるんだけど、呼ばれなくても多分来てたよ」
おい、さっきいとこに呼ばれたって言ってたぞ。いとこと、はとこを普通間違えるか。
「あ、そうだ。はとこじゃなくていとこだったーー」
間違えただと……って突っ込んでいる場合じゃない、どうにかして自分の影を薄くしなくては。俺はすかさず後ろを振り向き他人を装うとする。
が……。
「あれ、マガト?」
まずい‼これは危機的状況。声をかけられたからには振り向かなくては余計に怪しまれる可能性が高まるが、正面から見て服装が同じだということが知られたらこれこそ絶体絶命だ。
いやしかし、だからといってこのまま何もしないわけにはいかないのでゆっくりと旋回しながら面越しに神無月の表情を伺うことにした。
さあ、どう来るか。
もし「やっぱりマガトじゃんーー」と服装でバレてしまうのなら仕方ない。振り向かなければバレずに済んだのに、と後で水無月に説教されそうだが。
今この場合で神無月の問いかけに何も反応しないのは、質問に否定しないということは、肯定の意味として捉えます、なんて裁判所でよくある光景と同じだ。
いや待てよ。
神無月はさっき俺のことを「マガト」と呼ばなかっただろうか。面を被って後ろを向いている俺の姿を顔を直視で確認せずにあだ名で呼ばなかったか。
それってつまり、水無月の隣にいる俺のことを俺だと分かったうえで名前で呼んだということにならないか?
焦燥感に駆られたの如く心臓の鼓動が加速し、初夏の蒸し暑さでも人口密度の高さによる熱気からでもない熱が発汗作用を促進させ、
そよ風がふと吹き冷たく感じる。
俺は十分に時間をかけながら振り向くと、神無月の顔が目の前にーー無かった。
「全然気が付かないけど見間違いだったのかな、こっち振り向かなったよ」
どこ見てんだああああ。
神無月は俺を背に向け、射的屋に入ろうとしている俺に似ても似つかない少年のことを呼びとどめようとしている。バレなくて嬉しいというのもあるが、いやあの中学一年生ぐらいの少年と一緒にされては嫌な思いしかしない。
しかしながら神無月はそんな俺の思いが分かるはずもないので、
「ちょっと声かけてくるね‼‼」と好奇心旺盛な神無月はエセ俺の元へ走って行ってしまった。
「これで一件落着……でいいのかしらね?神無月さんには悪いけど向こうの方へ行ってしまったから、先に進むわよ」
一件落着ではあるし、芳しい結果でもあるが、そこまでに至った過程というか副産物が酷すぎる。これでは本来の作用よりも副作用がよく効く薬のようではないか。
しかし、俺は分かったと苦汁をなめるように頷くと水無月と共に再び人混みに紛れることになった。
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