俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。
068.似すぎた二人 2days continue...
「まっさか君が例の出雲流さんだったんだ!!こんな明るい子だとは想像とかけ離れてたよ~~」
「私もまさかプロの編集者さんにお会いできるとは思ってもみませんでした!!」
白黒の制服を着こなした店員、世に言うウェイトレスという人々が縦横無尽に駆け巡る店内。高校の最寄駅から一駅離れた一際都市風景が似つかわしいこの場所、盛田駅構内ビルの七階に俺はいた。
詳しく説明すると、俺と神無月、そして明嵜がビル内のファミリーレストランのボックス席テーブルに座っていることになる。
午後六時であるからか食事時のこの時間帯にはぞろぞろと客が増えてきている。そんな中でアイスコーヒーとシフォンケーキ以外、ドリンクバーしか頼まないことに罪悪感を覚えているのは俺だけなのか。ちなみにアイスコーヒーは俺、シフォンケーキは神無月、そして残ったドリンクバーを明嵜が注文したわけだ。
「でさでさ、早苗月先生ってば打診が来て気分が高揚したのか知らないけどね、いきなり出版社に電話して実名言ったんだよ??だよ?」
「そうなんですか!!」
俺を蚊帳の外に出して話す彼女ら、仮イラストレーター神無月とプロ編集者明嵜は何故か意気投合している。水無月のことを話しに来たはずなのに話題はいつしか俺の愚行へと移り、笑い話へと仕立て上げている。
「しかもね……早苗月先生ってば焦っていつ出版するのか、尋問してきたりしてさ~~」
「それは言ってないですよ、明嵜さん。俺この場から迅速に帰りたい意欲が急激に湧いてきているんですが、本題始めて良いですか?」
相変わらずスーツ姿が似合わない明嵜に避けられない質問で問い詰めることした。始めるほか、ルートはないと主張するかのように。
そもそも俺がこの場に来たのも明嵜がここへ来るよう提案したからだ。俺が「もしもし……」と会話を始めようとしたのを蹴ってまで「話したいことあるなら直接話そうよ!!6時前にこの前ミーティングやったレストランで落ち合おう」などと言って即座に回線を切ったのだ。
NOと言わせないためなのか、とも考えたがそこまで予想して話すような人柄ではないし、単に俺と話すために慌てて準備しようという心構えなのだろうと信じていた。しかし今この場に来てみれば、まさか世間話ではなく俺の過去を暴露されることになるとは。
「ん??ああそうだったね、いいよ!!って言っても私も何を話したいのか大体把握しているけどね」
なるほど、編集者であるからにはそれなりに現状を知り得ているのか。なら話は早い。
「たぶんそれだと思いますが、そうです。水無月の話です」
「え??なんでなんで??あの子が何かしでかしたの??」
前言撤回。
拍子抜けな表情を醸し出す明嵜、何と間違えたのか見当違いだった俺が言わんとしたことを逆に聞きたいところだが。今はそれよりも俺の編集者の方が先決だ。
「明嵜さん、自分の作家なのに事情を知らないんですか…………?」
「全く」と応える明嵜の顔を見ると嘘をついているようにも思えない、神無月とキャラが似ているといっても編集者は編集者のようだ。驚嘆し、目を見開いたとも思いきや「やはりね……」と呟くばかりに穏やかな顔つきに戻っていた。
「その表情だと知っていたけど知らなかった、いいや知らされなかったという感じですかね」
今度は俺の代わりに神無月が蚊帳の外へ放り出される、やむを得まい。具体的に説明するよりも自分から知ってくれなければ。
「まさかマガト君に影響してくるとはね…………そうなんだ、ここ最近水無月さんと連絡が取れなくて、それだけじゃないんだ。あの子とこの頃もう一週間ほど会ってないの。前は毎日のように編集の付き合いをしていたんだけど、なんだか跳ね返すような感じで。学校には行ってるの?」
「一応昨日は来てましたけど今日は風邪で休みとか」
「そう、なら良かったけど」と気落ちしながら溢す明嵜の姿はどことなく寂しげに切なさに、そして罪を背負っているようにも見えた。
「こんなことは編集者の私が知るべきで、何より訊くべきだったんだろうけどさ、今はそんなプライドなんて捨てて訊くよ……何か、あったの?」
かくかくしかじか、まだ会って一日しか経過していない女性に抱き着かれた現場を目撃されたあの日のことを語る。ところであの人:由井先輩がこの問題の元凶なのに俺にばかり非があるというのはいかがなものか……もう不幸中の幸いというより災難だ
しかし明嵜は俺の考えとは真反対のようで。
「うっわぁぁ、そりゃあ傷つくでしょう。あたかも自分が作業していた現場で見知らぬ人とイチャイチャラブコメディ楽しんでんだから~~」
「すいません人の話聞いてました?俺は嬉しくてそんな状況になったわけじゃないんですよ、むしろ逆、俺としては苦痛ですから」
明嵜は人差し指を自分の頬に当てつけ「んーー」と何か考えている模様。
「でもあいつが責任を取らなきゃならないようにさせてしまったのは作家である俺の罪ですし、結局原因は俺にあったと認めてます」
「そうじゃないんだと思うんだけどねーー」と言葉を濁す明嵜、そうじゃない、とはどういうことなのか?しかし、水中で泡が出来たのに一瞬で水面に浮かんで空気と混ざってしまったかのように、俺の疑問は解消せずに露と消された。
「ま、その件については今は置いといて。早苗月先生自身に非があることを認めているのなら問題は解決するはずだけどーー、そうはいかないんだね?」
「そっちも?」と俺の隣に座る神無月に問いかけると神無月は「はい」とまるで意気消沈するように答えた。さっきまでの話を聞けば何もそこまで落胆しなくても……というわけにはいかないのか。
神無月もさながらあの編集者を引き戻せなかったことに罪悪感を感じ取っているのか。それとも俺だけに罪を背負わせないように、との計らいなのか。いやそんな節介ではないだろう、きっと。
「でもまあ二人ともありがとね。私の責任でもあるのにそれを背負わせるようなことをしてしまって、私からもごめんなさい、と言わせて欲しいんだ」
「…………?どうして明嵜さんが謝る必要があるんです?」
戸惑うしかなかった。俺が引き起こした原因でそれを頼っているという状況で、どうしたって相談役の人に何の非もないはずだ。
「決して責任転嫁させて欲しいだとかを思っているわけではないの。だって早苗月先生に恩は無いし、そんな義理も受けたこともないし」
「ちょいちょい出してくる本音止めて欲しいんですけど…………」
「ん??ああごめん、言いたいことが知らぬ間に口から出ちゃってさぁ。今日に限ったことじゃないってことで許して、ね?」
「それ許したらダメなやつじゃないですか……?って話の路線がまた逸れたんですけど」
この人と話すことは疲れる……無限に投げてくるボケにいつまで突っ込めばいいのか、終わらないサイクル。だから俺はその輪廻の輪からあえて逃げ出した。
「うん。私はあの子のことはよく知っているつもりだったんだけどね」
つもりとはこのアクシデントを生み出してしまったことへの彼女なりの贖罪なのだろう。最終的には何を考えているのか、成りたいのか、理解出来なかった、ということ。
「その口ぶりだとただの作家と編集者の関係ではなさそうですね。別に深入りしたいわけじゃないですが、よかったら教えていただけると幸いです」
他人に干渉するなんて物珍しいことだ、俺自身の脳内もやけに騒がしいのがその証。
「珍しいね、他人の情報を聞き出そうとするなんて」と神無月。いやこれは特殊なケースだからだ。まったくの無知で無関係なクラスメイトの情報を聞き出すなんて学級委員ぐらいの役目。
だが、無知ではないしもちろん無関係でもないのだ。つまり、もう他人行儀ではいられない俺にとってそんなこと何の関係もない。
「これは水無月自身の問題でもあるし、俺自身の問題でもある」
「それは水無月さんがいなくなったら自分の作品が出版出来なくなってしまうから?そうなのかな?かな??」
明嵜からの問いに俺は聞くまでもなく瞬時に答える。
「違う、それだけは言える」
「よしきたっ!!それなら、そう言い切れるのなら話そうじゃないか」
俺の目の前に座る明嵜は緩やかで穏やかだった目付きを一変、凛々しいものへと変化させた。知らず知らずに俺が座っているボックス席周囲の時が静止し、辺りを包む空気が物々しさを語るような雰囲気へと。
つまるところ、ようやく俺と水無月との間に隠された秘密が明かされるということの前兆なのだと俺は知った。
「私もまさかプロの編集者さんにお会いできるとは思ってもみませんでした!!」
白黒の制服を着こなした店員、世に言うウェイトレスという人々が縦横無尽に駆け巡る店内。高校の最寄駅から一駅離れた一際都市風景が似つかわしいこの場所、盛田駅構内ビルの七階に俺はいた。
詳しく説明すると、俺と神無月、そして明嵜がビル内のファミリーレストランのボックス席テーブルに座っていることになる。
午後六時であるからか食事時のこの時間帯にはぞろぞろと客が増えてきている。そんな中でアイスコーヒーとシフォンケーキ以外、ドリンクバーしか頼まないことに罪悪感を覚えているのは俺だけなのか。ちなみにアイスコーヒーは俺、シフォンケーキは神無月、そして残ったドリンクバーを明嵜が注文したわけだ。
「でさでさ、早苗月先生ってば打診が来て気分が高揚したのか知らないけどね、いきなり出版社に電話して実名言ったんだよ??だよ?」
「そうなんですか!!」
俺を蚊帳の外に出して話す彼女ら、仮イラストレーター神無月とプロ編集者明嵜は何故か意気投合している。水無月のことを話しに来たはずなのに話題はいつしか俺の愚行へと移り、笑い話へと仕立て上げている。
「しかもね……早苗月先生ってば焦っていつ出版するのか、尋問してきたりしてさ~~」
「それは言ってないですよ、明嵜さん。俺この場から迅速に帰りたい意欲が急激に湧いてきているんですが、本題始めて良いですか?」
相変わらずスーツ姿が似合わない明嵜に避けられない質問で問い詰めることした。始めるほか、ルートはないと主張するかのように。
そもそも俺がこの場に来たのも明嵜がここへ来るよう提案したからだ。俺が「もしもし……」と会話を始めようとしたのを蹴ってまで「話したいことあるなら直接話そうよ!!6時前にこの前ミーティングやったレストランで落ち合おう」などと言って即座に回線を切ったのだ。
NOと言わせないためなのか、とも考えたがそこまで予想して話すような人柄ではないし、単に俺と話すために慌てて準備しようという心構えなのだろうと信じていた。しかし今この場に来てみれば、まさか世間話ではなく俺の過去を暴露されることになるとは。
「ん??ああそうだったね、いいよ!!って言っても私も何を話したいのか大体把握しているけどね」
なるほど、編集者であるからにはそれなりに現状を知り得ているのか。なら話は早い。
「たぶんそれだと思いますが、そうです。水無月の話です」
「え??なんでなんで??あの子が何かしでかしたの??」
前言撤回。
拍子抜けな表情を醸し出す明嵜、何と間違えたのか見当違いだった俺が言わんとしたことを逆に聞きたいところだが。今はそれよりも俺の編集者の方が先決だ。
「明嵜さん、自分の作家なのに事情を知らないんですか…………?」
「全く」と応える明嵜の顔を見ると嘘をついているようにも思えない、神無月とキャラが似ているといっても編集者は編集者のようだ。驚嘆し、目を見開いたとも思いきや「やはりね……」と呟くばかりに穏やかな顔つきに戻っていた。
「その表情だと知っていたけど知らなかった、いいや知らされなかったという感じですかね」
今度は俺の代わりに神無月が蚊帳の外へ放り出される、やむを得まい。具体的に説明するよりも自分から知ってくれなければ。
「まさかマガト君に影響してくるとはね…………そうなんだ、ここ最近水無月さんと連絡が取れなくて、それだけじゃないんだ。あの子とこの頃もう一週間ほど会ってないの。前は毎日のように編集の付き合いをしていたんだけど、なんだか跳ね返すような感じで。学校には行ってるの?」
「一応昨日は来てましたけど今日は風邪で休みとか」
「そう、なら良かったけど」と気落ちしながら溢す明嵜の姿はどことなく寂しげに切なさに、そして罪を背負っているようにも見えた。
「こんなことは編集者の私が知るべきで、何より訊くべきだったんだろうけどさ、今はそんなプライドなんて捨てて訊くよ……何か、あったの?」
かくかくしかじか、まだ会って一日しか経過していない女性に抱き着かれた現場を目撃されたあの日のことを語る。ところであの人:由井先輩がこの問題の元凶なのに俺にばかり非があるというのはいかがなものか……もう不幸中の幸いというより災難だ
しかし明嵜は俺の考えとは真反対のようで。
「うっわぁぁ、そりゃあ傷つくでしょう。あたかも自分が作業していた現場で見知らぬ人とイチャイチャラブコメディ楽しんでんだから~~」
「すいません人の話聞いてました?俺は嬉しくてそんな状況になったわけじゃないんですよ、むしろ逆、俺としては苦痛ですから」
明嵜は人差し指を自分の頬に当てつけ「んーー」と何か考えている模様。
「でもあいつが責任を取らなきゃならないようにさせてしまったのは作家である俺の罪ですし、結局原因は俺にあったと認めてます」
「そうじゃないんだと思うんだけどねーー」と言葉を濁す明嵜、そうじゃない、とはどういうことなのか?しかし、水中で泡が出来たのに一瞬で水面に浮かんで空気と混ざってしまったかのように、俺の疑問は解消せずに露と消された。
「ま、その件については今は置いといて。早苗月先生自身に非があることを認めているのなら問題は解決するはずだけどーー、そうはいかないんだね?」
「そっちも?」と俺の隣に座る神無月に問いかけると神無月は「はい」とまるで意気消沈するように答えた。さっきまでの話を聞けば何もそこまで落胆しなくても……というわけにはいかないのか。
神無月もさながらあの編集者を引き戻せなかったことに罪悪感を感じ取っているのか。それとも俺だけに罪を背負わせないように、との計らいなのか。いやそんな節介ではないだろう、きっと。
「でもまあ二人ともありがとね。私の責任でもあるのにそれを背負わせるようなことをしてしまって、私からもごめんなさい、と言わせて欲しいんだ」
「…………?どうして明嵜さんが謝る必要があるんです?」
戸惑うしかなかった。俺が引き起こした原因でそれを頼っているという状況で、どうしたって相談役の人に何の非もないはずだ。
「決して責任転嫁させて欲しいだとかを思っているわけではないの。だって早苗月先生に恩は無いし、そんな義理も受けたこともないし」
「ちょいちょい出してくる本音止めて欲しいんですけど…………」
「ん??ああごめん、言いたいことが知らぬ間に口から出ちゃってさぁ。今日に限ったことじゃないってことで許して、ね?」
「それ許したらダメなやつじゃないですか……?って話の路線がまた逸れたんですけど」
この人と話すことは疲れる……無限に投げてくるボケにいつまで突っ込めばいいのか、終わらないサイクル。だから俺はその輪廻の輪からあえて逃げ出した。
「うん。私はあの子のことはよく知っているつもりだったんだけどね」
つもりとはこのアクシデントを生み出してしまったことへの彼女なりの贖罪なのだろう。最終的には何を考えているのか、成りたいのか、理解出来なかった、ということ。
「その口ぶりだとただの作家と編集者の関係ではなさそうですね。別に深入りしたいわけじゃないですが、よかったら教えていただけると幸いです」
他人に干渉するなんて物珍しいことだ、俺自身の脳内もやけに騒がしいのがその証。
「珍しいね、他人の情報を聞き出そうとするなんて」と神無月。いやこれは特殊なケースだからだ。まったくの無知で無関係なクラスメイトの情報を聞き出すなんて学級委員ぐらいの役目。
だが、無知ではないしもちろん無関係でもないのだ。つまり、もう他人行儀ではいられない俺にとってそんなこと何の関係もない。
「これは水無月自身の問題でもあるし、俺自身の問題でもある」
「それは水無月さんがいなくなったら自分の作品が出版出来なくなってしまうから?そうなのかな?かな??」
明嵜からの問いに俺は聞くまでもなく瞬時に答える。
「違う、それだけは言える」
「よしきたっ!!それなら、そう言い切れるのなら話そうじゃないか」
俺の目の前に座る明嵜は緩やかで穏やかだった目付きを一変、凛々しいものへと変化させた。知らず知らずに俺が座っているボックス席周囲の時が静止し、辺りを包む空気が物々しさを語るような雰囲気へと。
つまるところ、ようやく俺と水無月との間に隠された秘密が明かされるということの前兆なのだと俺は知った。
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