俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。
050.小説と新聞の違いに奔走するイラストレーター
小説を書くことと新聞記事を書くことは表裏一体。確かに小説といっても伝記などといったノンフィクション的な作品や作者が頭の中で描いたストーリーを文に投影するようなフィクションなど、幅広い。
対して新聞は基本的にはノンフィクションのみを掲載するのが一般的だ、アメリカでよく見るフェイクニュースを記事にしてしまったら何を信用すればいいのかパニックになってしまうからだ。
言うならば小説と新聞に似通っているというのは恐らく一部分だということ。
「これは駄目だろ……見せても何も言わずに返されるのがオチだ」
「えーーそんなあ。一応二時間はかけて描いたんだけどな~~」
至極残念そうに俺を見つめてくるのは神無月茜。俺達二人はとある諸事情で恒例の喫茶店の四人用テーブル席に座っていた。
案の定、高校最寄り駅の隣駅のビル内であるはずなのに高校生の姿は俺と神無月のみだ。というのもここに集合させた当の本人はそれを見越してのことだろうが。
「ほら」と言って俺は渡された一枚の絵を再び作者の元、神無月茜に返す。一枚の紙それは。
「これじゃあ新聞に使う画像には合わないだろ!!どうして街灯がこんな西洋チックになってるんだよ。しかも住民の移動手段が馬車って……」
「だってえ~~、あんまり書きなれてないしぃ、それにさ現実をそのまま映すってつまらないじゃん?」
「『つまらないじゃん?』じゃねーーよ!!この新聞見て明治維新思い出しても意味ないだろうがっ」
俺がそこまで熱くなるのは俺自身の性格のせいではないだろう。新聞記事に使用される写真をわざわざ絵にすることになったのだが、これまた問題発生ということだ。
「そう?マガトの小説にはこんなのいつも出てくるじゃん」
「こんなのとはなんだ!!と言いたいところだが……小説のことを今この場で話してもキリが無いから止めておこう……抑える抑える」
と、俺は深呼吸してから答える。
「んで、重要なのは小説と新聞とはわけが違うってことだ。普通にしても新聞記事に絵を使うなんてあまりないんだからな」
そう、小説と新聞は違うのだ。イラストの面からしては、だ。
そのまま写真として掲載すればいいものを手間をかけてまで絵にするのだ、本来あるべきはずの姿を変えるというのはご法度だ。
しかもそのクオリティこそ良いものの、信号機が消されたり、ビル街がレンガ造りの建物になっていたりと、そこにあるものないものがごった返している。これでは水無月に見せても返ってくる返事は決まったものだ……
そしてその水無月はというと。
「って、みなはまだ来ないんだね。いつ来るんだろーー?」
『みな』とはどうやら水無月の愛称であるようだが、使っているのはここにいる神無月しか見たことが無い。
「そうだな、そもそもあいつがここに集合って言ったのによ。なんで部室じゃないのか聞いてるか?」
「ううん」と首を振りながら答える神無月。
高校では行えない理由でもあるのだろうか、といっても行う部会自体機密事項やら他人に聴かれたまずいことなんてないと思うが。
そうして、くだらないことでも(主に神無月の感想について)喋りながら数十分ほど経った後、当事者は来訪したのだ。
「お待たせ。と言った方が良いかしら。それとも『あらお邪魔になってしまうから私はお暇させていただくわ』との方が適しているかしら」
背中を少しばかりヒヤリとさせるような冗談を吐く、この編集者兼記事作成者の共人、水無月桜だ。
「おっせーーよ。ってか勘違いをするような発言は止めろよな、言っていい冗談とそうじゃないのがあるんだ」
「あら、それはごめんなさい。あなたも一応人格はあるものね」
「ねえ!!今さっき俺を単なる野蛮人というか酷い話、野生動物にしか見ていなかったようにも捉えられるんだけどっ」
「……そうだけど?」
「正気だったァァ」と俺。ここまでは恒例文句というかいつもの流れで来たわけだ。何でも例えはあるのだが、一つ挙げるとするならアレだ、よくあるバトル物で負かされた適役が放つ言葉。「ちくしょう!!覚えてろよ」というような決まったフレーズだ。常套手段の言葉、要するに常套句というところか。
「それで何を話していたのかしら?あ、私に話せないような個人的話だったらしなくてもいいのだけど」
「切り返し早いな。まあ、その方が俺としても事が早く進んで嬉しいが……」
個人的な話とは何だ、と訊いてもどうせこの女ならばさっきと同じような返しで螺旋階段のように続いてしまうだろうから、俺は訊くことを止めておいた。その代わり、ここに来た当初の理由を思い出し答えた。
「新聞記事に使う絵についてだ。一応神無月が描いてここに持ってきてくれたらしいんだが……」
俺は机に置いてあったはずの一枚の紙を探すとどこにも見つからなかった。どうしてか、それは俺と対面する水無月の左隣の神無月がその手に抱きかかえていたからだ。
「おいおい、なんで隠そうとするんだよ。さっき俺に見せてくれたじゃないか」
焦点があちらこちらに移動し、ふためきながら神無月は言った。
「だ、だって。マガトにあそこまで言われたから今日のところは止めておこうかなって……」
睨んではいないのだがどこか蔑むような目つきで俺をじっと眺める水無月。
「どこまで言ったのかしら。たといあなたでも神無月さんを貶すようなことでも言ったのだったら、白状しなさい。許さないから」
「それ、言っても言わなくても結果は変わらなくないか…………?」
「?白状しなかったら縁を切るわ」
「それはやめてください、すみませんすみません。ってなんだか俺が酷なことを神無月に言った前提で話しているが、それ自体ないんだよ」
「まあ……少しは厳しいことを言ったかもしれないが。助言のつもりなんだがな」
俺が意図の汲み違いを謝罪しながらそう言うと、神無月は閉じていた口を開け「分かった」と机の上に彼女が描いた絵を広げた。
すると水無月が逆に口を噤み始め、黙り込んでしまった。俺が記事を見せた時と同じ光景だ。
机の上に絵をさらけ出してから数分後、何か言いたいことでもまとまったのか納得したような表情で水無月は微笑んだ。
これはまさか、OKなのか?あの水無月が?俺がここまでNOと言っているのに水無月はこれを認めてしまうのか?
「却下」
「なんでええええ!!」
喫茶店には似つかわない泣きわめくような声が小さな店内に反芻する。周囲を見回すとこの場に居る三人だけしか客がいないことに安心した。ってもマスターは怪訝そうな目でこちらを見てきたのだが…………
普段相槌を打つように会話をする水無月の考えていることが垣間見れて良かったと、初めて思った瞬間だった。
対して新聞は基本的にはノンフィクションのみを掲載するのが一般的だ、アメリカでよく見るフェイクニュースを記事にしてしまったら何を信用すればいいのかパニックになってしまうからだ。
言うならば小説と新聞に似通っているというのは恐らく一部分だということ。
「これは駄目だろ……見せても何も言わずに返されるのがオチだ」
「えーーそんなあ。一応二時間はかけて描いたんだけどな~~」
至極残念そうに俺を見つめてくるのは神無月茜。俺達二人はとある諸事情で恒例の喫茶店の四人用テーブル席に座っていた。
案の定、高校最寄り駅の隣駅のビル内であるはずなのに高校生の姿は俺と神無月のみだ。というのもここに集合させた当の本人はそれを見越してのことだろうが。
「ほら」と言って俺は渡された一枚の絵を再び作者の元、神無月茜に返す。一枚の紙それは。
「これじゃあ新聞に使う画像には合わないだろ!!どうして街灯がこんな西洋チックになってるんだよ。しかも住民の移動手段が馬車って……」
「だってえ~~、あんまり書きなれてないしぃ、それにさ現実をそのまま映すってつまらないじゃん?」
「『つまらないじゃん?』じゃねーーよ!!この新聞見て明治維新思い出しても意味ないだろうがっ」
俺がそこまで熱くなるのは俺自身の性格のせいではないだろう。新聞記事に使用される写真をわざわざ絵にすることになったのだが、これまた問題発生ということだ。
「そう?マガトの小説にはこんなのいつも出てくるじゃん」
「こんなのとはなんだ!!と言いたいところだが……小説のことを今この場で話してもキリが無いから止めておこう……抑える抑える」
と、俺は深呼吸してから答える。
「んで、重要なのは小説と新聞とはわけが違うってことだ。普通にしても新聞記事に絵を使うなんてあまりないんだからな」
そう、小説と新聞は違うのだ。イラストの面からしては、だ。
そのまま写真として掲載すればいいものを手間をかけてまで絵にするのだ、本来あるべきはずの姿を変えるというのはご法度だ。
しかもそのクオリティこそ良いものの、信号機が消されたり、ビル街がレンガ造りの建物になっていたりと、そこにあるものないものがごった返している。これでは水無月に見せても返ってくる返事は決まったものだ……
そしてその水無月はというと。
「って、みなはまだ来ないんだね。いつ来るんだろーー?」
『みな』とはどうやら水無月の愛称であるようだが、使っているのはここにいる神無月しか見たことが無い。
「そうだな、そもそもあいつがここに集合って言ったのによ。なんで部室じゃないのか聞いてるか?」
「ううん」と首を振りながら答える神無月。
高校では行えない理由でもあるのだろうか、といっても行う部会自体機密事項やら他人に聴かれたまずいことなんてないと思うが。
そうして、くだらないことでも(主に神無月の感想について)喋りながら数十分ほど経った後、当事者は来訪したのだ。
「お待たせ。と言った方が良いかしら。それとも『あらお邪魔になってしまうから私はお暇させていただくわ』との方が適しているかしら」
背中を少しばかりヒヤリとさせるような冗談を吐く、この編集者兼記事作成者の共人、水無月桜だ。
「おっせーーよ。ってか勘違いをするような発言は止めろよな、言っていい冗談とそうじゃないのがあるんだ」
「あら、それはごめんなさい。あなたも一応人格はあるものね」
「ねえ!!今さっき俺を単なる野蛮人というか酷い話、野生動物にしか見ていなかったようにも捉えられるんだけどっ」
「……そうだけど?」
「正気だったァァ」と俺。ここまでは恒例文句というかいつもの流れで来たわけだ。何でも例えはあるのだが、一つ挙げるとするならアレだ、よくあるバトル物で負かされた適役が放つ言葉。「ちくしょう!!覚えてろよ」というような決まったフレーズだ。常套手段の言葉、要するに常套句というところか。
「それで何を話していたのかしら?あ、私に話せないような個人的話だったらしなくてもいいのだけど」
「切り返し早いな。まあ、その方が俺としても事が早く進んで嬉しいが……」
個人的な話とは何だ、と訊いてもどうせこの女ならばさっきと同じような返しで螺旋階段のように続いてしまうだろうから、俺は訊くことを止めておいた。その代わり、ここに来た当初の理由を思い出し答えた。
「新聞記事に使う絵についてだ。一応神無月が描いてここに持ってきてくれたらしいんだが……」
俺は机に置いてあったはずの一枚の紙を探すとどこにも見つからなかった。どうしてか、それは俺と対面する水無月の左隣の神無月がその手に抱きかかえていたからだ。
「おいおい、なんで隠そうとするんだよ。さっき俺に見せてくれたじゃないか」
焦点があちらこちらに移動し、ふためきながら神無月は言った。
「だ、だって。マガトにあそこまで言われたから今日のところは止めておこうかなって……」
睨んではいないのだがどこか蔑むような目つきで俺をじっと眺める水無月。
「どこまで言ったのかしら。たといあなたでも神無月さんを貶すようなことでも言ったのだったら、白状しなさい。許さないから」
「それ、言っても言わなくても結果は変わらなくないか…………?」
「?白状しなかったら縁を切るわ」
「それはやめてください、すみませんすみません。ってなんだか俺が酷なことを神無月に言った前提で話しているが、それ自体ないんだよ」
「まあ……少しは厳しいことを言ったかもしれないが。助言のつもりなんだがな」
俺が意図の汲み違いを謝罪しながらそう言うと、神無月は閉じていた口を開け「分かった」と机の上に彼女が描いた絵を広げた。
すると水無月が逆に口を噤み始め、黙り込んでしまった。俺が記事を見せた時と同じ光景だ。
机の上に絵をさらけ出してから数分後、何か言いたいことでもまとまったのか納得したような表情で水無月は微笑んだ。
これはまさか、OKなのか?あの水無月が?俺がここまでNOと言っているのに水無月はこれを認めてしまうのか?
「却下」
「なんでええええ!!」
喫茶店には似つかわない泣きわめくような声が小さな店内に反芻する。周囲を見回すとこの場に居る三人だけしか客がいないことに安心した。ってもマスターは怪訝そうな目でこちらを見てきたのだが…………
普段相槌を打つように会話をする水無月の考えていることが垣間見れて良かったと、初めて思った瞬間だった。
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