俺の小説家人生がこんなラブコメ展開だと予想できるはずがない。
06.必要ではないのですか……?
俺の半生は余程のことが無い限り他人との関係を必要最低限にして生きることになるだろう。
余程のことというのは俺が運悪くも国民的超有名人になるだとかテレビで騒がれるような人間になるという嫌がらせにしか成りえないケース。そんなことあるわけないと思うかもしれないが、運悪く起こってしまうことがままあるのがここ、現実世界の成り行き。
T〇○○erとか、In〇ta〇ramとか。
本人からしてみれば些細な、くだらないことしか投稿していないのに急激にネット上に拡散されてしまういわゆる、バズるという現象。
面倒なことが何よりも毛嫌いする俺は恐怖の対象だ。 
そして俺が嫌うことはもう一つある。
「なあなあ、どの部活に行った?」
「俺はサッカー部、お前は野球部だよな」
クラスに溶け込むために、自分の顔に偽りの仮面を被ること。俺は本能的にそれが大嫌いだった。だって面倒じゃないか。担任にはこの顔、部活のコーチにはあの顔って一々切り替える方がエネルギー使うし。
だから、教室中で嘘を振り撒くのを見ていると鬱憤が溜まってきてしまうのである。
それに俺は朝早くに起床、登校したため、さらに憂鬱レベルが高まっていた。
ではいったいなぜ、早く高校に来たのか、それは一時間前まで遡る話だ。
――1時間前――
今日、朝早く起床したのは一人、教室であの鬼教官から送られた赤文字の改訂を予定していたからだ。
以上、って終わったらまたつまらない話となってしまうので、少しだけその時の現状を話すと、人がいたのだ。
通学路、電車、高校の門、玄関、廊下まで誰一人として生徒に遭遇せず、登校してきたというのに。
誰だか名前も知らないクラスメイトが教室でカードゲームをやっていたのだ。
そこまではいいよ、なんとか許すよ。まあ、高校に入ってすぐだ、中学時代の名残が残っているのもやむを得ないしね。
「俺のターン!!マイカードをここに召喚ッ。こ、これはまさか……」
いやいやいやそれはなくない?「こ、これは……」じゃないでしょ。自分が持ってきたカードでそこまでのオーバーリアクションを何故取るんだよ。それはどうやったってアニメだよね、その反応って二次元しかないと思ってたよ。
しかも、それだけではなかったのが、これまた驚いたところだった。
「や、やばい。このカードは……ぐわああああ」
なんて時には自分がダメージを受けているようなモーションを取っていたのだ。いやいやリアルに影響したらまずいよね。結構自分で痛いことしてるよね。
というわけだ。
つまり、中二感溢れる台詞ばかりに気が散って執筆どころではなくなったということ。ま、本当のところは自分以外の他人が同じ部屋にいる状況では作業が進みづらいということだったけど。
逆にこんな状況を甘んじて受け入れようと思ったのだ。だって、彼らが小説のネタになりそうなことを言うかもしれないし、それはそれで作品のためになるのならこのまま俯瞰していた方が得だし。
以後、何もせずに俺は、そのまま机に頭と顔をくっつけて寝たふりをすることにしたのだ。
いやしかし、一人、また一人と教室に入ってくるクラスメイトらしき人々が増える度に、思い返されるものだ。新しい校舎、教室に居合わせた顔知らぬ生徒、これから1年間しか同じ部屋で生活しないというのに、決まって同じ行動を取るということを。
――現在に戻る――
「そうだそうだ、沢村は中学でもやってたもんな。ところでさ……」
数席ほど離れたところから聞こえてきた。これは直視しなくても分かる。中学、高校と顔見知りがいるから、友達がいるから、同じ場所に行こうってグループだ。
俺は机に突っ伏しながら胸中で呟く。
集団を作らなければ、あるいは自分以外の同調する他人が傍にいなければ安心出来ない人々。俺とは過ごす場所が違う、なら猶更あいつらを理解するなんて行為は安易に出来たもんじゃない。
なんて、他人との隔絶を開こうとする方が面倒なのでこれとは別グループ、廊下側の窓付近に関心を逸らした。
「好きなやつ出来た?」
これはその逆。お互いのことを全く知らなかった連中である。新しい境地に入り浸り、自分の居場所を未だに作っていない場合、話すテーマというのは決まっている。
それは「誰もが当たり前のように興味があって会話可能な議題」。さっきのように互いを知っている仲でもこれを行うことが大半だ、通過儀礼のように。
「出来てねーよ」
微笑混じりに返答する男の声だ。これはそうだ、YESのYを自分で言っているにも関わらず自分では気づかない現象。
無言。
普通、この際返すのは「嘘だろーー、いるんじゃねえのーー」だとか冗談めいた語り口調なはずなのにそうじゃない。
どうやらYを語った方の男も口を噤んでいるようだ。何かあったのだろうか。
そしていつの間にか、そう、知らないうちに教室の至る所でペチャクチャ話している連中も第二氷河期が到来している。
一体何が起こったのか、というのは建前で何となく理解していたのだ。
だから、俺はここで意識ありません、寝ていますと意志を表明すべきだったのだ。俺は関係ありません、クラスの中に溶け込んでいるだけです、と。
そう決心したはずなのに、「気になる」という単純で不確かな動機で俺は不貞寝から起き上がるという失態を犯してしまったのだ。
知っている顔のお嬢様のお通りだ。
会話最中の人々のド真ん中を悠然と歩くその姿はどうも自分が法だと主張しているとしか見えない。
教室前方のドアから直進、教卓の横をそのまま素通りして一番左の列まで来る。
それは俺の席の列でもあるのだが、うん、そんなことはないだろう。あるはずがない。俺は一つ深呼吸して奴がどこに落ち着くのか見てみることにした。
黒板に近い席から二番目、三番目と何事もなく平然と過ぎ去り、そこで俺は嫌でもこいつの目線がそこにあるのだと信じたくもないものを信じなくてはならないと諦めの決心がついた。
静寂と殺伐とした最中、その女は俺の横の席を今一度確認し着席した。俺はというと数少ない人生経験の中で会得した相手の眼中から存在を消すという秘技を繰り出した。ただ目線を外へ逸らしていただけだが。
「なあなあ、あいつって……」
「入学式そうそう抜け出して授業もほったらかしにしたって話だよ」
おいおい、めでたく入学して早々陰口かよ、と内心呟きつつ俺はあくまでも第三者として事の成り行きを温かく見守る他無いと傍観者としての立ち位置を確立する。
が、それは許容されない行為だと主張し俺の足を掴む執念深い女のように俺に問いかけてきた。
「なぜあなたがここにいるの?」
「それはこっちの台詞だっつーの」
やはり棘が無数に常備されたのは変わりないようで安心するが、それでも俺の身の上の保身として小声で話す。
「なんでお前というやつはあんな堂々と人の群れに突っ込むんだよ」
私?そんなこと私に聞かれても知らないわよ。俺にはそうにしか見えない態度だ。
「は?あなたわざわざ人の気ばかり気にしているの?やはりあなたは愚者でこそこそと生きる影者、まるでドブネズミね」
「ちょおいおい、お前にそこまで言われる筋合いはないだろ。そういえば何で昨日出席しなかったんだ?お前部室には来てたじゃないか」
「私にとってこの場所は必要ないもの。そこまでして来ても何も得られない場に来て何になるのよ」
あーー、これは何をやっても集中力が消失してエネルギー切れになるニート生活を過ごす典型的な例だ。
「そもそもここにいる理由やら概念なんて要らねえんじゃねーか?」
俺は義務教育という、受動態に媚びたものを提言する。そうではないと自分でも分かっているからこそ問うのだ。
「それだからあなたは伸びようとも伸びないのよ」
「あ?何の話だ?」
「あなたがそこにいる訳よ、言っておくけど私はあなたのようにフリーで楽に過ごしているような人ではないの」
どういうことだ?と俺が反論する間もなく担任の「ショート始めるよーー」という掛け声によって打ち消された。ショートとはよくある朝礼で校長が話す、あのつまらない腐れ話を語る代役が担任に変わっただけのもの。
だから興味なんてないし、気にもしないだろうと思っていた、しかも如月の言葉が普段のような冷たく突き放す言葉ではないような気がしてならなかったし、ともかくどうしてか何か違和感を感じ取ったのである。
しかし、別の方向、ベクトルが違いすぎて意識せざるを得なかった。それは珍しさというよりかは未知な人物だったためだろうか。俺はとにかく目線が自然と担任の方へ行っていたのである。
余程のことというのは俺が運悪くも国民的超有名人になるだとかテレビで騒がれるような人間になるという嫌がらせにしか成りえないケース。そんなことあるわけないと思うかもしれないが、運悪く起こってしまうことがままあるのがここ、現実世界の成り行き。
T〇○○erとか、In〇ta〇ramとか。
本人からしてみれば些細な、くだらないことしか投稿していないのに急激にネット上に拡散されてしまういわゆる、バズるという現象。
面倒なことが何よりも毛嫌いする俺は恐怖の対象だ。 
そして俺が嫌うことはもう一つある。
「なあなあ、どの部活に行った?」
「俺はサッカー部、お前は野球部だよな」
クラスに溶け込むために、自分の顔に偽りの仮面を被ること。俺は本能的にそれが大嫌いだった。だって面倒じゃないか。担任にはこの顔、部活のコーチにはあの顔って一々切り替える方がエネルギー使うし。
だから、教室中で嘘を振り撒くのを見ていると鬱憤が溜まってきてしまうのである。
それに俺は朝早くに起床、登校したため、さらに憂鬱レベルが高まっていた。
ではいったいなぜ、早く高校に来たのか、それは一時間前まで遡る話だ。
――1時間前――
今日、朝早く起床したのは一人、教室であの鬼教官から送られた赤文字の改訂を予定していたからだ。
以上、って終わったらまたつまらない話となってしまうので、少しだけその時の現状を話すと、人がいたのだ。
通学路、電車、高校の門、玄関、廊下まで誰一人として生徒に遭遇せず、登校してきたというのに。
誰だか名前も知らないクラスメイトが教室でカードゲームをやっていたのだ。
そこまではいいよ、なんとか許すよ。まあ、高校に入ってすぐだ、中学時代の名残が残っているのもやむを得ないしね。
「俺のターン!!マイカードをここに召喚ッ。こ、これはまさか……」
いやいやいやそれはなくない?「こ、これは……」じゃないでしょ。自分が持ってきたカードでそこまでのオーバーリアクションを何故取るんだよ。それはどうやったってアニメだよね、その反応って二次元しかないと思ってたよ。
しかも、それだけではなかったのが、これまた驚いたところだった。
「や、やばい。このカードは……ぐわああああ」
なんて時には自分がダメージを受けているようなモーションを取っていたのだ。いやいやリアルに影響したらまずいよね。結構自分で痛いことしてるよね。
というわけだ。
つまり、中二感溢れる台詞ばかりに気が散って執筆どころではなくなったということ。ま、本当のところは自分以外の他人が同じ部屋にいる状況では作業が進みづらいということだったけど。
逆にこんな状況を甘んじて受け入れようと思ったのだ。だって、彼らが小説のネタになりそうなことを言うかもしれないし、それはそれで作品のためになるのならこのまま俯瞰していた方が得だし。
以後、何もせずに俺は、そのまま机に頭と顔をくっつけて寝たふりをすることにしたのだ。
いやしかし、一人、また一人と教室に入ってくるクラスメイトらしき人々が増える度に、思い返されるものだ。新しい校舎、教室に居合わせた顔知らぬ生徒、これから1年間しか同じ部屋で生活しないというのに、決まって同じ行動を取るということを。
――現在に戻る――
「そうだそうだ、沢村は中学でもやってたもんな。ところでさ……」
数席ほど離れたところから聞こえてきた。これは直視しなくても分かる。中学、高校と顔見知りがいるから、友達がいるから、同じ場所に行こうってグループだ。
俺は机に突っ伏しながら胸中で呟く。
集団を作らなければ、あるいは自分以外の同調する他人が傍にいなければ安心出来ない人々。俺とは過ごす場所が違う、なら猶更あいつらを理解するなんて行為は安易に出来たもんじゃない。
なんて、他人との隔絶を開こうとする方が面倒なのでこれとは別グループ、廊下側の窓付近に関心を逸らした。
「好きなやつ出来た?」
これはその逆。お互いのことを全く知らなかった連中である。新しい境地に入り浸り、自分の居場所を未だに作っていない場合、話すテーマというのは決まっている。
それは「誰もが当たり前のように興味があって会話可能な議題」。さっきのように互いを知っている仲でもこれを行うことが大半だ、通過儀礼のように。
「出来てねーよ」
微笑混じりに返答する男の声だ。これはそうだ、YESのYを自分で言っているにも関わらず自分では気づかない現象。
無言。
普通、この際返すのは「嘘だろーー、いるんじゃねえのーー」だとか冗談めいた語り口調なはずなのにそうじゃない。
どうやらYを語った方の男も口を噤んでいるようだ。何かあったのだろうか。
そしていつの間にか、そう、知らないうちに教室の至る所でペチャクチャ話している連中も第二氷河期が到来している。
一体何が起こったのか、というのは建前で何となく理解していたのだ。
だから、俺はここで意識ありません、寝ていますと意志を表明すべきだったのだ。俺は関係ありません、クラスの中に溶け込んでいるだけです、と。
そう決心したはずなのに、「気になる」という単純で不確かな動機で俺は不貞寝から起き上がるという失態を犯してしまったのだ。
知っている顔のお嬢様のお通りだ。
会話最中の人々のド真ん中を悠然と歩くその姿はどうも自分が法だと主張しているとしか見えない。
教室前方のドアから直進、教卓の横をそのまま素通りして一番左の列まで来る。
それは俺の席の列でもあるのだが、うん、そんなことはないだろう。あるはずがない。俺は一つ深呼吸して奴がどこに落ち着くのか見てみることにした。
黒板に近い席から二番目、三番目と何事もなく平然と過ぎ去り、そこで俺は嫌でもこいつの目線がそこにあるのだと信じたくもないものを信じなくてはならないと諦めの決心がついた。
静寂と殺伐とした最中、その女は俺の横の席を今一度確認し着席した。俺はというと数少ない人生経験の中で会得した相手の眼中から存在を消すという秘技を繰り出した。ただ目線を外へ逸らしていただけだが。
「なあなあ、あいつって……」
「入学式そうそう抜け出して授業もほったらかしにしたって話だよ」
おいおい、めでたく入学して早々陰口かよ、と内心呟きつつ俺はあくまでも第三者として事の成り行きを温かく見守る他無いと傍観者としての立ち位置を確立する。
が、それは許容されない行為だと主張し俺の足を掴む執念深い女のように俺に問いかけてきた。
「なぜあなたがここにいるの?」
「それはこっちの台詞だっつーの」
やはり棘が無数に常備されたのは変わりないようで安心するが、それでも俺の身の上の保身として小声で話す。
「なんでお前というやつはあんな堂々と人の群れに突っ込むんだよ」
私?そんなこと私に聞かれても知らないわよ。俺にはそうにしか見えない態度だ。
「は?あなたわざわざ人の気ばかり気にしているの?やはりあなたは愚者でこそこそと生きる影者、まるでドブネズミね」
「ちょおいおい、お前にそこまで言われる筋合いはないだろ。そういえば何で昨日出席しなかったんだ?お前部室には来てたじゃないか」
「私にとってこの場所は必要ないもの。そこまでして来ても何も得られない場に来て何になるのよ」
あーー、これは何をやっても集中力が消失してエネルギー切れになるニート生活を過ごす典型的な例だ。
「そもそもここにいる理由やら概念なんて要らねえんじゃねーか?」
俺は義務教育という、受動態に媚びたものを提言する。そうではないと自分でも分かっているからこそ問うのだ。
「それだからあなたは伸びようとも伸びないのよ」
「あ?何の話だ?」
「あなたがそこにいる訳よ、言っておくけど私はあなたのようにフリーで楽に過ごしているような人ではないの」
どういうことだ?と俺が反論する間もなく担任の「ショート始めるよーー」という掛け声によって打ち消された。ショートとはよくある朝礼で校長が話す、あのつまらない腐れ話を語る代役が担任に変わっただけのもの。
だから興味なんてないし、気にもしないだろうと思っていた、しかも如月の言葉が普段のような冷たく突き放す言葉ではないような気がしてならなかったし、ともかくどうしてか何か違和感を感じ取ったのである。
しかし、別の方向、ベクトルが違いすぎて意識せざるを得なかった。それは珍しさというよりかは未知な人物だったためだろうか。俺はとにかく目線が自然と担任の方へ行っていたのである。
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