チビでドジな私の従魔士道

ノベルバユーザー487211

4レインの食欲

僕は今、僕は今、猛烈に感動している。

ガツガツガツガツガツガツッ
モッシャモッシャモッシャモッシャ。ゴクリ。
ガツガツガツガツガツガツッ
モッシャモッシャモッシャモッシャ。ゴクリ。

「そんなに美味しそうに食べてくれるなら作った甲斐があるねー」
「母さんのご飯はいつでも最高だよ」
「ねぇ。もう少し綺麗に食べなさいよ」

レインが出された皿やお椀に顔を突っ込むようにして食事をしている。あーあぁ。顔も羽も汚して…。

僕は臓物系なんて絶対に美味しくないと思っていた。側で見たけどグロい汚い臭い。てっきり捨てるもんだと思ってた。それをマロンのお母さんが調理を始めた時、今日の晩ご飯は最悪だなと1人諦めた。

なんて思った過去の僕に言ってやりたい。臓物のコッテリとした炒め物。臭みもなくプゥルンプゥルンに柔らかく煮込まれたスープ。さっぱりと塩で焼いたコリコリ食感。マロンの冷たい視線なんて僕は気にならない!

「ほら、香草焼き焼けたけど食べれるかい?」

マロン母が皿に乗せた香草焼きを持ってくる。ツヤツヤ光る油のベールをまとったお肉に装飾品を着飾るように振りかけられた香辛料。これを食べないと僕は食べても食べきれない!置かれかけた皿をマロンが取り上げる。

「ねぇレイン。美味しいのはわかる!でもさ、もうちょっと綺麗に食べようよ?みんな食べてるんだよ!」
『返してよ!!』

キュィーキュィーと鳴く僕の声に、良いじゃないかとマロン母と父が言う。

「良くない!甘やかすのとしつけは違うの。レイン!ちゃんとあなたの周りを見て」
『やだ!返してよ!!』
「見なさいレイン。見てわかれば返してあげるわ」

いつもと違う雰囲気のマロンの声に周りを見れば、僕が散らかした残骸が飛び散っていた。

「レイン。美味しいのはとてもわかるわ。私も母さんのご飯が大好きよ。でも、こんなふうに食べられると一緒に食べる人は不快なの。わかってもらえる?」
『ごめんなさい。気をつける』
「良い子ね。はいどうぞ」

その後のレインは美味しい美味しいと食べても周りを散らかすことはなかった。うん!やれば出来る子なんだからうちの子は。
私もパクリ。あぁ~幸せぇ~。その後のレインは食べ過ぎて飛べずに私に運ばれて布団で潰れていた。



「これでしばらくは、お肉に困りそうにないわね」

食後のコーヒーをマロンの父ダイナーの前に出しテーブルに腰掛けるマロン母のディナ。

「あぁ。不思議なこともあるもんだ。それにマロンが根を上げずに着いてこれるとは」
「意地があったんでしょ。普段からドッジに張り合っているしねぇ。勝てるわけもないのに」
「まぁなぁ」

それにしてもマロンが甘えとしつけは違うとか言った時には吹き出しそうになった。甘えん坊のマロンがなぁ…。俺の後ろをテチテチついてきてたマロンがなぁ…。

「マロンが連れてきたレインは不思議だね。なんでも食べるから面白くてついつい出してしまうけど、見事に完食だから気持ちが良いよ」
「にしても、アレをどこで拾ったんだ?長い事この地に住んでるけど見た事ないぞ」
「さぁ。羊の世話の後に連れて帰ったからそこら辺じゃないかい?」

マロンとあれだけ仲良しなんだ。特段気にせる事でもないと2人は食後のコーヒーを楽しんだ。

~翌朝~

「おはよぉー」
「ふぉふぁよー」

またドッジが口の中に詰め込みながら話している。その横でレインもムシャムシャと食べていた。
今朝の朝ご飯は母さん特製!猪に肉の腸詰。夜道具出してたから期待してたんだよね~。

「母さん早く頂戴!」
「それがねぇ。もう無いのよ」
「パンが?なら腸詰だけでも良いよ」
「だからその腸詰が」

え。だって今レインとドッジが食べてるじゃん。私の目線に気づいた2人が慌てて腸詰を口に詰め込む。

「20本は作ったんだけど、父さんとドッジとレインで食べちゃったのよ」
「全部!?」
「そ。全部」

一部始終を目撃していた母は言う。朝1番に起きた父が4本。一緒に食事を取った母が2本。この時点で14本残っている。ドッジが朝ごはんを食べに来た頃、レインが下に降りてきた。母は4本ずつレインとドッジに出した。それでもまだ6本残ることになる。そこからだ。

4本食べ終えたレインがまだ頂戴と言うため母が1本追加で渡した。それを見たドッジがなら俺も!と。そこから競い合うように食べた結果、残り0。

「あんたたちー!!レイン昨日あんなに食べたじゃない!ドッジも何してんのよ!」
「だって…。新入りに負けるなんて男として悔しいだろ!」
「食べ物で競うな!レインもなんでそんなに食べたのよ!」

キュイキュイ鳴きながらレインが答える。

『僕は成長期なの!お腹が空いてるの!これでも足りないぐらいだよ…』
「残す優しさとかなかったわけ!?」
『だって、まだあるかと思ってたんだもん』
「私だって食べたかったのに…」

私とレインのやりとりを見ていた母が、はいはいそこまでねと止めに入る。

「レインに当たっても仕方ないでしょ。また作ってあげるから諦めなさい」
「だってぇ…」

さぁ、手伝いに行っておいでと言うのでパンとスープだけお腹におさめて家を出た。ドッジは私がレインにやいのやいの言ってる間に逃げた。絶対に許さん。

どしどし歩きながら馬小屋へと向かう。レインは食べ足りないからなんか食べてくるとどこかへ行った。

「ドッジィィー」
「遅いぞマロン。早く手伝え」
「なんか一言あるでしょ!」

少し考えるそぶりをして

「早く起きろよ」
「ちがぁう!!」

ドッジは何事もなげに馬達へ飼馬を配る。私も一緒に配るけど、食べ物の恨みから滲み出るオーラに馬達がどしたどした?と言う感じがする。

「あのさぁ。全部食べたのは悪かったよ。でも、肉を運んだのは誰だよ?」
「父さんとドッジだけど?」
「それで皮を剥いで捌いて料理したのは?」
「父さんとドッジと母さんだけど…」
「だろ?マロンはただ付いてきて見学してただけ。そして寝坊助。謝ったしこれで文句なし!」

謝ったしって謝ったの!?あれで!?でも、見学してただけと言われると言葉が返しづらい。絶対次こそは早起きしてやる!

昼頃になってレインが戻ってきた。そろそろご飯でしょ?だって。

「なんか食べてきたんじゃないの?」
「食べてきたけどお腹には入るよ」
「それ食べてきたって言うの?」

ドッジは羊の放牧に行っていないので今は直接会話をしている。レインを見ると爪の間に白い毛のようなものがあるし、なんか汚れてる。なにしてたんだろ。

「なんか汚いね。なにしてたの?」
「ご飯食べた後水遊びしてた。かぶりついたら血がついちゃったからね」

かぶりついた?血?いったい何の話し?

「ちなみに何食べてきたのよ」
「木の実やウサギや猪」
「はぃ?」

昨日食べた猪の臓物が美味しかったから、生でも美味しいんじゃないかとかぶりついたら不味かった。しかも毛が口の中でモシャモシャして邪魔だった。
だから次からは捕まえて炎で毛を燃やして内臓出して焼いて食べたら、食べれなくはなかった。でも私の母さんのご飯を食べた後だと味気ない。

鱗繕いをし終わったレインは固まる私をほっといて、馬小屋の隅に積んであった藁の上で昼寝を始めようとしていた。

「ねぇ。それレインの普通なの」
「もぅ。食後の睡眠は成長を促すんだよ。普通ってなんの話?」
「いや、だから焼いて食べたって」
「マロン達だって焼いて食べてるでしょ。もう終わり。僕眠い」

そう言われればそっか。じゃぁ問題ないか。ないのか?

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