婚約破棄の事実は意外なものでした
19
あれ以来、フランソワは野菜売り場に再雇用されることになった。心優しい主人は、解雇した時からずっと底知れぬ罪悪感に駆られていたようであるのだ。それにもかかわらず先日、フランソワがロイドを自分の店に招待してくれたということに感激し、目を覚ましたらしい。
とても嬉しかった。収入源が増えたことも勿論そうだが、主人がいつも自分を気にかけてくれていたということもだ。
なんて優しい人なんだ、と心の底から感激し、この店のために一所懸命に働こうと奮起するのだった。
この日も午前中からせっせと働き、夕方の店仕舞いの時間まで動き回っていた。
「フランソワー、今日はもう店仕舞いだ。
あがっていいぜ」
「分かりました。お疲れ様です」
次の工場での仕事があるため、フランソワはすぐに帰りの支度を始める。
挨拶をし、工場に向かうべく野菜売り場を立ち去ろうとすると、主人に呼び止められた。
「フランソワ、ちょいと待ってくれ」
「はい。なんでしょう」
主人はそそくさと店の裏に入っていき、数分ほどフランソワを待たせた。
戻ってくる時には、両手に沢山の野菜が入った紙袋を持っていた。
「今日こんなにあまっちまってさ。このまま捨てられるにはかわいそうだから、フランソワ、残りもんで申し訳ねえが、もらってくれねえか」
「良いんですか!!ありがとうございます!!!」
野菜がかわいそう、という言葉を口実に、フランソワは遠慮なくそれを頂いた。
しかしこれは後で気づいたことだが、心の優しい主人はフランソワが断らずに受け取りやすいよう、気を遣ってそう言ってくれていたのだ。
何故なら、家に帰りそれを食すと、それらには全て残りものとは思えない新鮮な味わいがあったからだ。
主人に心から感謝し、暖かい気持ちで工場の仕事へと移る。心なしか、気分が良かった。
ロイドとの食事のことや、野菜売り場の主人の優しいに触れたこと。
工場での単純作業をこなしながら、フランソワは楽しい思い出に耽っていた。
自分は決して豊かであるとは言えないが、宮殿において生活していた時よりもよっぽど暖かく、よっぽど幸せだと思った。
豪華な住居がなかろうと、豪華な服がなかろうと、豪華な食事がなかろうと、人間的な暖かみがあればそれで良い。
この生活がいつまでも続いて欲しいとさえ思った。
夜も遅くなり、工場での仕事も終わり、帰宅する。工場での単純作業は、ついつい考え事をする余裕を脳に与えるものだ。
工場においてずっと幸せな考えごとをしていたため、フランソワは異様にテンションが高かった。1人でいるにもかかわらず、だ。
しかし、夜も深いので。家にいるナタリーはもう既に床についていることだろう。
ハイテンションで帰宅して起こしてしまうと申し訳ないため家に着くとフランソワはテンションを鎮め、そうっと部屋に入る。
すると、意外にもフランソワの心配は無用だった。ナタリーは珍しくこの時間まで起きていたのだ。
「あら、お母様。まだ、起きていたのね。
丁度良かったわ、野菜」
「フランソワ…おわりよ…」
フランソワの話を遮り、ナタリーは妙なことを言い出す。不思議に思い、フランソワは聞き返す。
「え?どうしたの?お母様」
「増税よ…」
「増税?増税ならこの間、国税が引き上げられたわね。本当につらいことだわ」
「違うの。フランソワ」
「え?」
ナタリーは、この世に絶望しきったような表情でフランソワを見つめた。
「ど、どうしたの?お母様」
「ガイヤ村にだけ、50%さらに税金を引き上げるそうよ」
「え……?50%?!?!?!」
真夜中だということも忘れ、フランソワは彼女らしくない、大きな声を出してしまった。
それくらいナタリーの言葉は現実的なものではなかったのである。
とても嬉しかった。収入源が増えたことも勿論そうだが、主人がいつも自分を気にかけてくれていたということもだ。
なんて優しい人なんだ、と心の底から感激し、この店のために一所懸命に働こうと奮起するのだった。
この日も午前中からせっせと働き、夕方の店仕舞いの時間まで動き回っていた。
「フランソワー、今日はもう店仕舞いだ。
あがっていいぜ」
「分かりました。お疲れ様です」
次の工場での仕事があるため、フランソワはすぐに帰りの支度を始める。
挨拶をし、工場に向かうべく野菜売り場を立ち去ろうとすると、主人に呼び止められた。
「フランソワ、ちょいと待ってくれ」
「はい。なんでしょう」
主人はそそくさと店の裏に入っていき、数分ほどフランソワを待たせた。
戻ってくる時には、両手に沢山の野菜が入った紙袋を持っていた。
「今日こんなにあまっちまってさ。このまま捨てられるにはかわいそうだから、フランソワ、残りもんで申し訳ねえが、もらってくれねえか」
「良いんですか!!ありがとうございます!!!」
野菜がかわいそう、という言葉を口実に、フランソワは遠慮なくそれを頂いた。
しかしこれは後で気づいたことだが、心の優しい主人はフランソワが断らずに受け取りやすいよう、気を遣ってそう言ってくれていたのだ。
何故なら、家に帰りそれを食すと、それらには全て残りものとは思えない新鮮な味わいがあったからだ。
主人に心から感謝し、暖かい気持ちで工場の仕事へと移る。心なしか、気分が良かった。
ロイドとの食事のことや、野菜売り場の主人の優しいに触れたこと。
工場での単純作業をこなしながら、フランソワは楽しい思い出に耽っていた。
自分は決して豊かであるとは言えないが、宮殿において生活していた時よりもよっぽど暖かく、よっぽど幸せだと思った。
豪華な住居がなかろうと、豪華な服がなかろうと、豪華な食事がなかろうと、人間的な暖かみがあればそれで良い。
この生活がいつまでも続いて欲しいとさえ思った。
夜も遅くなり、工場での仕事も終わり、帰宅する。工場での単純作業は、ついつい考え事をする余裕を脳に与えるものだ。
工場においてずっと幸せな考えごとをしていたため、フランソワは異様にテンションが高かった。1人でいるにもかかわらず、だ。
しかし、夜も深いので。家にいるナタリーはもう既に床についていることだろう。
ハイテンションで帰宅して起こしてしまうと申し訳ないため家に着くとフランソワはテンションを鎮め、そうっと部屋に入る。
すると、意外にもフランソワの心配は無用だった。ナタリーは珍しくこの時間まで起きていたのだ。
「あら、お母様。まだ、起きていたのね。
丁度良かったわ、野菜」
「フランソワ…おわりよ…」
フランソワの話を遮り、ナタリーは妙なことを言い出す。不思議に思い、フランソワは聞き返す。
「え?どうしたの?お母様」
「増税よ…」
「増税?増税ならこの間、国税が引き上げられたわね。本当につらいことだわ」
「違うの。フランソワ」
「え?」
ナタリーは、この世に絶望しきったような表情でフランソワを見つめた。
「ど、どうしたの?お母様」
「ガイヤ村にだけ、50%さらに税金を引き上げるそうよ」
「え……?50%?!?!?!」
真夜中だということも忘れ、フランソワは彼女らしくない、大きな声を出してしまった。
それくらいナタリーの言葉は現実的なものではなかったのである。
「婚約破棄の事実は意外なものでした」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
星乙女の天秤~夫に浮気されたので調停を申し立てた人妻が幸せになるお話~
-
34
-
-
婚約者を寝取られたけど割とどうでもいいです
-
23
-
-
冷徹御曹司の無駄に甘すぎる豹変愛
-
89
-
-
嫁ぎ先の旦那様に溺愛されています。
-
76
-
-
身代わり婚約者は生真面目社長に甘く愛される
-
160
-
-
異母妹に婚約者を奪われ、義母に帝国方伯家に売られましたが、若き方伯閣下に溺愛されました。しかも帝国守護神の聖女にまで選ばれました。
-
23
-
-
きみのとなり
-
13
-
-
どうにもならない社長の秘密
-
128
-
-
わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
-
75
-
-
視線が絡んで、熱になる
-
27
-
-
お見合い相手は大嫌いな同級生だった!
-
14
-
-
スノーホワイトは年下御曹司と恋に落ちない
-
50
-
-
【完結】苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
-
96
-
-
【完結】私の赤点恋愛~スパダリ部長は恋愛ベタでした~
-
50
-
-
【完結】契約書は婚姻届
-
81
-
-
羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。
-
31
-
-
溺愛誓約~意地悪なカレの愛し方~
-
133
-
-
自称身体の弱い聖女の妹に、婚約者の王太子を奪われ、辺境に追放されてしまいました。
-
29
-
-
【完結】幼馴染の専業ニセ嫁始めましたが、どうやらニセ夫の溺愛は本物のようです
-
142
-
-
ただいま冷徹上司を調・教・中・!
-
58
-
コメント