東大卒でコミュ症持ちの僕が魔王の息子として転生した結果〜魔王の力を受け継いでいる僕ですが人間界で勇者のパーティメンバーとして楽しく暮らしていこうと思います〜

皇城咲依

3.6歳の家出

「お父様、お兄様!おかえりなさい!」

僕らが家に帰るなり、可愛らしく走ってきたのは4歳になる僕の妹、リンファエーラ・ラウスラだ。
何故僕と名字が違うのかを説明しよう。
この世界では息子が父の名を継ぎ、娘が母の名を継ぐというような仕組みになっている。
僕の父の名前はボルトワーク・ガウル・ジ・ゴルファイズ。
母の名前はサシエラ・ラウスア

「二人ともおかえりなさい。」

と母が現れ、リンファエーラを肩に手を乗せる。

「ご飯できてますよ。今日は私の手作りです!」
「リンファも手伝ったのです!」
「うん!りんごの皮むき頑張ったもんねー!」
「はい!」

すると母は僕に顔を向けると、

「ヴァンティ、今年も誕生日会出来なくてごめんなさい。来年こそは…。」

僕は横に顔を振り、言う。

「お仕事なら…仕方ない。」

すると母と父は悲しげに顔を見合わせる。

「全く…。ヴァンティはいい子ですね…。」
「あぁ。お前が私達の息子で良かった…。」

二人は僕をぎゅっと抱きしめる。

僕は軽く頷いた。

(僕なんかをこんなに愛してくれるんだ…。今はリンファのお世話で忙しいけど、いつかは僕を見てくれるかもしれない…。)

そんなことを思ったが、その夜、僕は絶望に駆られることになる。

喉が渇いたのでキッチンへ行こうとしたところだった。

「…な…。」
「そ…ね……。」

父の部屋から父と母の声が聞こえた。

なにかな?

僕は興味が湧き、ドアに耳を当てる。

「ヴァンティの事だが…。どう思う?」

どくん、と心臓が跳ねた。

「…あの子はとてもいい子よ。でも…。喋ることができないことで辛い思いをしているから、可哀想…ね…。」

そんな母の言葉に父が言う。

「あぁ。ヴァンティは喋れるようになったのが早かったが、他の人と話すとなると全然喋ることはなくなる。」

ええ、と母の同意が聞こえる。

「しかし、今日私がヴァンティの悪口を聞いたのでな、かっとなってしまったんだ。本気で殺そうと思ったよ…。」
「あなた…。」

父の言葉に母は慰めるように夫を呼ぶ。

「しかし、な。ヴァンティが声を出して言ったんだ。『魔王が民を殺してはだめだ』、『僕はこんなの望まない』とな。決して他人の前で声を出すことは無かったヴァンティが私のために声を出してくれたんだ。」

母は驚いたように息を呑む。

「まぁ!ヴァンティったら、可愛いんだから!」

はははははは。

笑い声が漏れてくる。

「だが…。」

父の声が硬くなった。

「魔王は恐怖の対象だ。あの子がこんなに優しすぎるとこの魔界は統一出来ない。」

母の同意が聞こえる。
僕は俯く。

「私は…どうすればいいのか…。あの子への不満が私に向けられているのは…別に良い。だが、あの子が辛い思いするのは…嫌だな。」

僕は顔を勢いよく上げた。『あの子への不満が私に向けられている』。
そう聞こえた。

僕は絶望した。
自分の存在が魔王である父の威厳が損なわれていることを知ってしまったから。

僕は喉の乾きなど忘れ、駆け出すと部屋に戻った。

僕はベッドに倒れ込むと声にならない悔しさが渦巻いてきた。

僕がいたから。
僕が居たせいで。

ここから居なくなりたかった。
自分が居なくなれば父は昔のままでいることができる。

僕はそこで一大決心をした。
反動をつけてベッドから起き上がる。
そして、両手を広げ、叫ぶ。

「アイテムボックス!」

アイテムボックス。
それは別空間に物を入れておくことができる便利魔法である。(容量99999999kgまで)。
注 生きている生物を入れないで下さい。

すると、僕の右手と左手の間にボックスとは言い難い黒い穴が目の前に現れた。

「よし!」

僕はそこに色々躊躇なく入れ始める。

(内訳)
金貨×26950、銀貨×369854、銅貨×3607128、魔法の杖×1、長剣×3、短剣×6、ナイフ×10、弓×3、矢×300、防具(胸当て×5、小手×6ペア)、蝋燭×32、火打ち石×35928、タオル×6、紐×12。

野宿に必要な色々なものを揃えた僕は窓を開ける。
手ぶらで旅行に行けるなんて、異世界に来た人しか味わえない楽しさだね!

僕はそこでふと思いついて羽ペンにインクをつけ、紙に文字を書き連ねる。
書き終わると、そこに重りを置き、飛ばされないようにする。

「…さよなら。」

僕は窓から身を乗り出すと、飛び降りる。

僕の部屋は5階である。
その為、いくら僕でもそこから飛び降りたら死ぬだろう。
なので…。

「ふっ!」

僕は下向きに風を放出する。

(杖を使ったほうがもっと上手に魔法を使える事ができるんだよな…。)

魔法の杖がなくても当然魔法は使える。
しかし、魔法の杖は魔法を使うために必要な魔力を調整してくれ、また、狙いが定めやすい。

なので、戦闘には魔法の杖は必要不可欠なものである。

僕が買った杖はその中でも最上級品であった。
魔王と同等な魔力量を持つ(らしい)僕はこの杖でなければ耐えることができなかったらしい。

そう知ったのは家に帰ってきてからだけど。

ストン、と地面に着地した僕はふぅ、と息を吐く。

あー!緊張したぁー!
落ちたら僕、死ぬもんね!
まだ6歳なんだから死にたくないし!(精神年齢はほぼ40代だけど!)

僕は一通り心で感想を吐露すると、しゃがみ込む。
今はまだ11時頃だ。
だから誰かが僕の部屋に来ることはない。
なので、今バレると言う事は今のところは無いだろう。

僕は立ち上がると、息を大きく吸い、吐く。

そして走り出す。

僕、ヴァンティエール・ガウル・ジ・ゴルファイズは6歳にして家出に成功した。

そして僕は一人で魔界を抜け、人間の国へと急いだのだった。

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