Fランク冒険者なのに、最強すぎませんか❓ 世界最強の魔王は、自分をFランク冒険者だと思い込んでいる⁉️
3-3.弱肉強食
「アラクネの群れを倒したと聞いたときは、ちょっとヒヤッとしたが、たいしたことねェな」
ガルダリア・ゴルゴンはそう言った。
ゴルゴンはこの『かがやける暁』のリーダーであり、前衛のタンクである。主流武器はタワーシールド。装備は鎖帷子となっている。場合によっては、さらに硬い防具を採用することもあるが、今回は機動力を重視した。
「あれで吾輩たちと張りあおうなんて笑わせてくれるニャーね」
そう答えるのは、獣人族のニャルニャルだ。
赤毛に赤い目をしており、髪はみじかくしている。なによりも特徴的なのは、その頭上から生えているネコ耳だ。
母方が獣人族で、父方は人間だった。その父はと言うと、王国12傑の最強剣士とうたわれる者だった。ニャルニャルには、大槌をつかった前衛の戦士を担当してもらっている。
「しかし見事なまでにFランクのザコばかりで固めたものですね」
と言ったのは、青髪の青年だ。
名をマフマット・レリクス。
目元は包帯でおおわれている。役回りは魔術師。『かがやける暁』の冒険者でありながら、マホ教の司祭も担当している。マホ教仕込みの魔法は、上級冒険者にも匹敵するほどだ。
「あんまり言っちゃカワイソウよ。あの黒髪のボウヤ。けっこう私の好みだったわ。ああいうヘタレな子を見ると、イジメてやりたくなるのよねぇ」
艶めかしい声で言ったのは、エルフのベベだ。
紫の髪を長く伸ばしている。役回りは射手。エルフらしい長い耳が垂れており、葉っぱを継ぎはぎしたような服を着ている。その葉っぱのあいまから胸の谷間が露出しているため、やたらと男の目を引く。
「しかし、どことなく編成が似ているな」
たとえばアリル・クラインは、伝説の冒険者である勇者が父親である。一方で『かがやける暁』の戦士であるニャルニャルも父親は、王国12傑最強の剣士といわれている。
「まさか、似てなどおりませんよ」
と、マフマットは言いかえした。
「お前もマホ教出身だろ」
「それはそうですが。向こうにいるノウノは、教皇に捨てられた娘ですよ。こっちは正真正銘の現役の司祭です。一緒にしないでいただきたいですね」
「そう怒るな。エルフがいるのも同じだ」
「『黄金のたまご』に属しているピピは、怠け者で有名なエルフの娘よ」
と、ベベが言った。
高名な戦士を父親に持つ者。
マホ教にゆかりのある者。
エルフ族の者。
そういった共通点はある。
「まさか、あんなザコ連中を敵対視しているニャーか?」
とニャルニャルがたずねてきた。
「いいや。出身が似ているなと思っただけだ。しかし、あんなザコ連中がどうやってアラクネの群れを倒したのかは、気になるな」
「気にすることないニャーよ。まぐれに決まってるニャ」
「そうだな」
『黄金のたまご』がゴブリンと戦っている場面は見させてもらった。ゴブリンごときで苦戦しているようでは、正直、相手にならない。あの新参者の黒髪の男には警戒していたが、さきほどの様子を見るかぎり、たいしたことはない。
しかし――。
だからこそ、アラクネの群れを倒したことが釈然としないのだ。
ゴルゴンたちは偶然にもミミックを見つけることが出来た。ミミックは高額なアイテムを腹にかかえていることが多い。そのドロップアイテムのおかげで、3プラチナという高得点をたたき出すことが出来た。
もし、ミミックと出会えていなかったら、暫定1位を取ることは出来なかった。そのときはあの『黄金のたまご』の後塵を拝することになっていたのだ。暫定とはいえ、それは屈辱的だった。
想像するだけで、心臓に氷を当てられたような気持になる。
なにせ『黄金のたまご』は、このパーティにもともといたアリルを追放しているのだ。そのアリルに先を越されるのは我慢ならないものがある。暫定2位に位置どられているだけでも不愉快だ。
「おっと、チョウド良い敵を見つけたニャ」
と、ニャルニャルが立ち止った。
細い横穴を抜けて、大きな空洞へと抜けた。空洞の中央あたりにはグリフォンがいた。上半身が鳥のワシになっており、下半身は獅子になっている。虫でもついばんでいるのか、その甲冑のようなクチバシで地面をほじっていた。
「おおっ」
と、思わずその荘厳さに声が漏れた。
上半身の羽毛が金色にかがやいていた。たいして下半身は獅子の名に恥じない筋肉の盛り上がりをしている。
その風体は猛々しいとは言っても、モンスターはモンスターだ。狩るべき対象である。冒険者組合ではグリフォンは、Cランク相当と決められている。このグリフォンの羽毛を持ち帰れば、『新狩祭』の優勝は間違いない。
「1匹かしら?」
ベベが疑問の声をあげた。
「1匹だろうな」
と、ゴルゴンはこたえる。
周囲に目をめぐらせてみるが、ほかにグリフォンの気配はない。さいわいにも1匹のようだ。さすがに、Cランク相当のモンスターが2匹ともなると、ゴルゴンたちでは手に負えない。
スライムとは違って、グリフォンは1匹だけでは繁殖することはない。モンスターというのはもともとは魔界の生き物だ。現界にいるのは、魔界からやってきて、冒険者たちが討ち漏らしたものばかりだ。だから1匹でさまよっていても不思議ではないのだ。
「よしっ、3の構えッ」
と、ゴルゴンは声をあげた。
仲間内で決めた合図だった。3の構え。後衛のマフマットが魔法を放ち、相手を挑発する。跳びかかってきたところをゴルゴンが受け止める。そこを戦士であるニャルニャルがトドメを刺す――というものだ。もしもそれで仕留めきれなかった場合には、ベベの矢が放たれることになる。
すべて手順通りにすすんだ。
マフマットが火球を放ち、グリフォンを怒らせた。突っ込んできたところをゴルゴンが受け止めた。
その突進を受け止めたさいには、「おうっ」と声が漏れた。今までのモンスターとは一味違った威力だったのだ。鉄の板を何枚にも重ねてつくられたタワーシールドがヘコんだほどだ。
その隙に、ニャルニャルが大槌を叩きこんだのだが、グリフォンは翼を広げて後ろに飛びずさった。惜しい。大槌は外れて、地面に亀裂をいれることになった。
「ベベ!」
「わかってるわよ」
ベベが矢を放った。
が――。
グリフォンの羽毛によって、その矢は弾き飛ばされてしまった。
「3の構えでダメなんて、さすがグリフォンなのニャ」
と、ニャルニャルが言った。
「よし。今度は2の構えだ」
マフマットの火球とベベの矢が、グリフォンに襲いかかる。グリフォンは見事にそれをかわしてゆく。それが狙いだ。逃げ場のないほうへと追い込んでゆき、ニャルニャルが大槌を打ち込むというものだ。
「決まった!」
ニャルニャルの大槌が、グリフォンの頭蓋をたたいた――ように見えた。しかし、グリフォンはすかさず横へと跳んでかわしていた。大槌というのは威力がおおきいぶん、外すことが多いのだ。横にかわしたグリフォンは、大槌を振り切ったニャルニャルに逆に襲いかかった。
「うぉぉッ」
ニャルニャルを守るためにゴルゴンが、割って入った。タワーシールドに、またしても腕がしびれるほどの衝撃が走る。
「よしッ。つづいて3の構えにつづけろッ」
グリフォンがゴルゴンの大盾に食らいついている隙をついて、大槌をふりおろす。グリフォンは後ろへ飛びずさって、ベベの矢を弾き返してしまう。その繰り返しだった。
「どうするニャ? 動きが俊敏すぎて、大槌が当たらないのニャ」
「仕方ない。ここは撤退するか」
単純にチカラ不足だ。
盾の硬度。矢と魔法の威力。大槌を振る速度。
どれもグリフォンには及んでいないのだ。Dランク冒険者の身分で、Cランク相当のモンスターを倒せるラッキーはそう何度もつづかないようだ。Cランクという実力を味見できただけでも良しとしよう。
「撤退するぞ」
と、ゴルゴンが合図を出したときだ。洞窟のなかが大きく揺れた。洞窟の壁を突き破って何か巨大な生き物が跳びだしてきた。
あれは――。
バジリスクだ。
蛇の王と言われるモンスターだ。細長い全身を鋼のような鱗で覆われており、黄金のタテガミのようなものが生えている。頭上には王冠のようなトサカが生えている。その禍々しい口は、グリフォンをくわえこんでいた。その大きさは人間すら丸のみできてしまうほどだ。
「……ッ」
と、ゴルゴンは絶句した。
バジリスクはBランク相当のモンスターと認定されている。あれだけ苦戦させられたグリフォンを、いとも簡単にかみ砕いてしまった。グリフォンの上半身と下半身が分断されて地面へと落とされた。
(そうか)
このダンジョン。
やけに細長い横穴が多いと思ったら、バジリスクが住みついていたのだ。
勝てるとか、負けるとか……そういったことを考えられる相手ではなかった。どうやって逃げるか――である。
「に、逃げるぞッ」
ゴルゴンは、タワーシールドを放棄して全速力で逃げ出すことにした。
ガルダリア・ゴルゴンはそう言った。
ゴルゴンはこの『かがやける暁』のリーダーであり、前衛のタンクである。主流武器はタワーシールド。装備は鎖帷子となっている。場合によっては、さらに硬い防具を採用することもあるが、今回は機動力を重視した。
「あれで吾輩たちと張りあおうなんて笑わせてくれるニャーね」
そう答えるのは、獣人族のニャルニャルだ。
赤毛に赤い目をしており、髪はみじかくしている。なによりも特徴的なのは、その頭上から生えているネコ耳だ。
母方が獣人族で、父方は人間だった。その父はと言うと、王国12傑の最強剣士とうたわれる者だった。ニャルニャルには、大槌をつかった前衛の戦士を担当してもらっている。
「しかし見事なまでにFランクのザコばかりで固めたものですね」
と言ったのは、青髪の青年だ。
名をマフマット・レリクス。
目元は包帯でおおわれている。役回りは魔術師。『かがやける暁』の冒険者でありながら、マホ教の司祭も担当している。マホ教仕込みの魔法は、上級冒険者にも匹敵するほどだ。
「あんまり言っちゃカワイソウよ。あの黒髪のボウヤ。けっこう私の好みだったわ。ああいうヘタレな子を見ると、イジメてやりたくなるのよねぇ」
艶めかしい声で言ったのは、エルフのベベだ。
紫の髪を長く伸ばしている。役回りは射手。エルフらしい長い耳が垂れており、葉っぱを継ぎはぎしたような服を着ている。その葉っぱのあいまから胸の谷間が露出しているため、やたらと男の目を引く。
「しかし、どことなく編成が似ているな」
たとえばアリル・クラインは、伝説の冒険者である勇者が父親である。一方で『かがやける暁』の戦士であるニャルニャルも父親は、王国12傑最強の剣士といわれている。
「まさか、似てなどおりませんよ」
と、マフマットは言いかえした。
「お前もマホ教出身だろ」
「それはそうですが。向こうにいるノウノは、教皇に捨てられた娘ですよ。こっちは正真正銘の現役の司祭です。一緒にしないでいただきたいですね」
「そう怒るな。エルフがいるのも同じだ」
「『黄金のたまご』に属しているピピは、怠け者で有名なエルフの娘よ」
と、ベベが言った。
高名な戦士を父親に持つ者。
マホ教にゆかりのある者。
エルフ族の者。
そういった共通点はある。
「まさか、あんなザコ連中を敵対視しているニャーか?」
とニャルニャルがたずねてきた。
「いいや。出身が似ているなと思っただけだ。しかし、あんなザコ連中がどうやってアラクネの群れを倒したのかは、気になるな」
「気にすることないニャーよ。まぐれに決まってるニャ」
「そうだな」
『黄金のたまご』がゴブリンと戦っている場面は見させてもらった。ゴブリンごときで苦戦しているようでは、正直、相手にならない。あの新参者の黒髪の男には警戒していたが、さきほどの様子を見るかぎり、たいしたことはない。
しかし――。
だからこそ、アラクネの群れを倒したことが釈然としないのだ。
ゴルゴンたちは偶然にもミミックを見つけることが出来た。ミミックは高額なアイテムを腹にかかえていることが多い。そのドロップアイテムのおかげで、3プラチナという高得点をたたき出すことが出来た。
もし、ミミックと出会えていなかったら、暫定1位を取ることは出来なかった。そのときはあの『黄金のたまご』の後塵を拝することになっていたのだ。暫定とはいえ、それは屈辱的だった。
想像するだけで、心臓に氷を当てられたような気持になる。
なにせ『黄金のたまご』は、このパーティにもともといたアリルを追放しているのだ。そのアリルに先を越されるのは我慢ならないものがある。暫定2位に位置どられているだけでも不愉快だ。
「おっと、チョウド良い敵を見つけたニャ」
と、ニャルニャルが立ち止った。
細い横穴を抜けて、大きな空洞へと抜けた。空洞の中央あたりにはグリフォンがいた。上半身が鳥のワシになっており、下半身は獅子になっている。虫でもついばんでいるのか、その甲冑のようなクチバシで地面をほじっていた。
「おおっ」
と、思わずその荘厳さに声が漏れた。
上半身の羽毛が金色にかがやいていた。たいして下半身は獅子の名に恥じない筋肉の盛り上がりをしている。
その風体は猛々しいとは言っても、モンスターはモンスターだ。狩るべき対象である。冒険者組合ではグリフォンは、Cランク相当と決められている。このグリフォンの羽毛を持ち帰れば、『新狩祭』の優勝は間違いない。
「1匹かしら?」
ベベが疑問の声をあげた。
「1匹だろうな」
と、ゴルゴンはこたえる。
周囲に目をめぐらせてみるが、ほかにグリフォンの気配はない。さいわいにも1匹のようだ。さすがに、Cランク相当のモンスターが2匹ともなると、ゴルゴンたちでは手に負えない。
スライムとは違って、グリフォンは1匹だけでは繁殖することはない。モンスターというのはもともとは魔界の生き物だ。現界にいるのは、魔界からやってきて、冒険者たちが討ち漏らしたものばかりだ。だから1匹でさまよっていても不思議ではないのだ。
「よしっ、3の構えッ」
と、ゴルゴンは声をあげた。
仲間内で決めた合図だった。3の構え。後衛のマフマットが魔法を放ち、相手を挑発する。跳びかかってきたところをゴルゴンが受け止める。そこを戦士であるニャルニャルがトドメを刺す――というものだ。もしもそれで仕留めきれなかった場合には、ベベの矢が放たれることになる。
すべて手順通りにすすんだ。
マフマットが火球を放ち、グリフォンを怒らせた。突っ込んできたところをゴルゴンが受け止めた。
その突進を受け止めたさいには、「おうっ」と声が漏れた。今までのモンスターとは一味違った威力だったのだ。鉄の板を何枚にも重ねてつくられたタワーシールドがヘコんだほどだ。
その隙に、ニャルニャルが大槌を叩きこんだのだが、グリフォンは翼を広げて後ろに飛びずさった。惜しい。大槌は外れて、地面に亀裂をいれることになった。
「ベベ!」
「わかってるわよ」
ベベが矢を放った。
が――。
グリフォンの羽毛によって、その矢は弾き飛ばされてしまった。
「3の構えでダメなんて、さすがグリフォンなのニャ」
と、ニャルニャルが言った。
「よし。今度は2の構えだ」
マフマットの火球とベベの矢が、グリフォンに襲いかかる。グリフォンは見事にそれをかわしてゆく。それが狙いだ。逃げ場のないほうへと追い込んでゆき、ニャルニャルが大槌を打ち込むというものだ。
「決まった!」
ニャルニャルの大槌が、グリフォンの頭蓋をたたいた――ように見えた。しかし、グリフォンはすかさず横へと跳んでかわしていた。大槌というのは威力がおおきいぶん、外すことが多いのだ。横にかわしたグリフォンは、大槌を振り切ったニャルニャルに逆に襲いかかった。
「うぉぉッ」
ニャルニャルを守るためにゴルゴンが、割って入った。タワーシールドに、またしても腕がしびれるほどの衝撃が走る。
「よしッ。つづいて3の構えにつづけろッ」
グリフォンがゴルゴンの大盾に食らいついている隙をついて、大槌をふりおろす。グリフォンは後ろへ飛びずさって、ベベの矢を弾き返してしまう。その繰り返しだった。
「どうするニャ? 動きが俊敏すぎて、大槌が当たらないのニャ」
「仕方ない。ここは撤退するか」
単純にチカラ不足だ。
盾の硬度。矢と魔法の威力。大槌を振る速度。
どれもグリフォンには及んでいないのだ。Dランク冒険者の身分で、Cランク相当のモンスターを倒せるラッキーはそう何度もつづかないようだ。Cランクという実力を味見できただけでも良しとしよう。
「撤退するぞ」
と、ゴルゴンが合図を出したときだ。洞窟のなかが大きく揺れた。洞窟の壁を突き破って何か巨大な生き物が跳びだしてきた。
あれは――。
バジリスクだ。
蛇の王と言われるモンスターだ。細長い全身を鋼のような鱗で覆われており、黄金のタテガミのようなものが生えている。頭上には王冠のようなトサカが生えている。その禍々しい口は、グリフォンをくわえこんでいた。その大きさは人間すら丸のみできてしまうほどだ。
「……ッ」
と、ゴルゴンは絶句した。
バジリスクはBランク相当のモンスターと認定されている。あれだけ苦戦させられたグリフォンを、いとも簡単にかみ砕いてしまった。グリフォンの上半身と下半身が分断されて地面へと落とされた。
(そうか)
このダンジョン。
やけに細長い横穴が多いと思ったら、バジリスクが住みついていたのだ。
勝てるとか、負けるとか……そういったことを考えられる相手ではなかった。どうやって逃げるか――である。
「に、逃げるぞッ」
ゴルゴンは、タワーシールドを放棄して全速力で逃げ出すことにした。
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