Fランク冒険者なのに、最強すぎませんか❓ 世界最強の魔王は、自分をFランク冒険者だと思い込んでいる⁉️
4.アリル・クライン
(まぁ、Fランク冒険者にしては、勇気だけはあったわね)
と、アリル・クラインは思った。
もう少し強ければ、パーティに誘ってもよかった。だが、足手まといを仲間にくわえる気はなかった。ただでさえ、問題児だらけのパーティなのだ。
レイ・アーロンと名乗った男の肉体は、ミノタウロスの突進をマトモに受けた。ミノタウロスの角がレイの腹にふかぶかと突き刺さった。死んだな。確認する間でもない。レイの肉体が宙に放り投げられていた。放り捨てられたと言うべきか。血を宙に撒き散らしていた。
ミノタウロスが、勝鬨をあげるかのように吠えた。それにあわせて、周囲にいたゴブリンやオークもけたたましく叫んだ。血なまぐさい喧騒である。
みじかい付き合いだったが、レイの死には静かな痛みがあった。
「ふーっ」
と、恐怖を吐きだすかのように、呼吸を吐きだした。
全身が逃げ出したいという気持ちに駆られている。
間違いなく勝てない。挑むのはバカらしいことだ。だが、逃げることすら許してはくれなさそうだ。オークたちは性欲が強く、女を殺す前に凌辱すると聞いたことがある。逃げるどころか、楽に殺してくれるかすらわからない。
それでも――。
「敵に背中を向けることだけは、私の矜持に反するッ。せめて勇者の娘に恥じぬように散って見せるッ!」
剣を向けた。
父――勇者。
冒険者のなかで最強の称号を冠する者につけられる称号だ。アリルは父にあこがれて冒険者になった。
その道は順風満帆とは言えなかった。すこし前には、とある冒険者パーティから役立たずと追放されたところだ。ひとつ、父の顔に泥を塗ってしまった。
だから、名誉を挽回したかった。
此度の『新狩祭』を、その機会にしようと思っていたのだが、出場すらかなわなかった。
「ぶぉぉ――ッ」
と、ミノタウロスが突進してくる。
その角先には血が付着していた。レイ・アーロンのものだろう。ミノタウロスが1歩踏み出すたびに、土砂が派手にしぶきをあげていた。大地そのものが揺れているようにしら感じる。
(どうする?)
右に転んでかわすか? 左に転んでかわすか? それともジャンプしてミノタウロスの頭上を跳び越えるか? しかし、そのどれも出来なかった。自分でも思いのほか恐怖に駆られていたのだ。
足が震えている。
死が、正面から迫ってくる。
(私は勇者の娘、私は勇者の娘。ブザマなマネだけは出来ないッ)
心のなかでそう叱咤してみるものの、剣先が恐怖で震えるのを止めることはできなかった。
「厭だ」
死にたくない、死にたくない、死にたくない。
勇猛であることをかたく誓ったにもかかわらず、ミノタウロスの突進を前にすれば、その決意はもろくも崩れ去った。
自分よりもはるかに強大な存在が、禍々しい存在が、突っ込んでくるのだ。怖れ怯えることを、誰が責められようか。アリルの怯懦をあざ笑うがごとく、周囲のモンスターたちが不気味な声をあげていた。
こんなところで死ぬわけにはいかないのだ。
父に――。
お前は立派な冒険者だ、とホめてもらうまでは、死にたくない。
「お父さんっ」
そう呟いて、目を固く閉ざした。
来るべき痛みにそなえて、身を固くしていた。しかし、いつまでたっても痛みは襲って来ない。よもや慰み者にするために、人質にするつもりなのだろうか、オークに弄ばれることをかんがえると、身の毛がよだつ。マブタひとつ開けるのにも、気持ちを鼓舞する必要があった。
信じられない光景が跳びこんできた。
アリルの目の前にあったのは、ミノタウロスの角でもなければ、オークの下卑た顔でもなかった。
レイ・アーロンの背中だった。
と、アリル・クラインは思った。
もう少し強ければ、パーティに誘ってもよかった。だが、足手まといを仲間にくわえる気はなかった。ただでさえ、問題児だらけのパーティなのだ。
レイ・アーロンと名乗った男の肉体は、ミノタウロスの突進をマトモに受けた。ミノタウロスの角がレイの腹にふかぶかと突き刺さった。死んだな。確認する間でもない。レイの肉体が宙に放り投げられていた。放り捨てられたと言うべきか。血を宙に撒き散らしていた。
ミノタウロスが、勝鬨をあげるかのように吠えた。それにあわせて、周囲にいたゴブリンやオークもけたたましく叫んだ。血なまぐさい喧騒である。
みじかい付き合いだったが、レイの死には静かな痛みがあった。
「ふーっ」
と、恐怖を吐きだすかのように、呼吸を吐きだした。
全身が逃げ出したいという気持ちに駆られている。
間違いなく勝てない。挑むのはバカらしいことだ。だが、逃げることすら許してはくれなさそうだ。オークたちは性欲が強く、女を殺す前に凌辱すると聞いたことがある。逃げるどころか、楽に殺してくれるかすらわからない。
それでも――。
「敵に背中を向けることだけは、私の矜持に反するッ。せめて勇者の娘に恥じぬように散って見せるッ!」
剣を向けた。
父――勇者。
冒険者のなかで最強の称号を冠する者につけられる称号だ。アリルは父にあこがれて冒険者になった。
その道は順風満帆とは言えなかった。すこし前には、とある冒険者パーティから役立たずと追放されたところだ。ひとつ、父の顔に泥を塗ってしまった。
だから、名誉を挽回したかった。
此度の『新狩祭』を、その機会にしようと思っていたのだが、出場すらかなわなかった。
「ぶぉぉ――ッ」
と、ミノタウロスが突進してくる。
その角先には血が付着していた。レイ・アーロンのものだろう。ミノタウロスが1歩踏み出すたびに、土砂が派手にしぶきをあげていた。大地そのものが揺れているようにしら感じる。
(どうする?)
右に転んでかわすか? 左に転んでかわすか? それともジャンプしてミノタウロスの頭上を跳び越えるか? しかし、そのどれも出来なかった。自分でも思いのほか恐怖に駆られていたのだ。
足が震えている。
死が、正面から迫ってくる。
(私は勇者の娘、私は勇者の娘。ブザマなマネだけは出来ないッ)
心のなかでそう叱咤してみるものの、剣先が恐怖で震えるのを止めることはできなかった。
「厭だ」
死にたくない、死にたくない、死にたくない。
勇猛であることをかたく誓ったにもかかわらず、ミノタウロスの突進を前にすれば、その決意はもろくも崩れ去った。
自分よりもはるかに強大な存在が、禍々しい存在が、突っ込んでくるのだ。怖れ怯えることを、誰が責められようか。アリルの怯懦をあざ笑うがごとく、周囲のモンスターたちが不気味な声をあげていた。
こんなところで死ぬわけにはいかないのだ。
父に――。
お前は立派な冒険者だ、とホめてもらうまでは、死にたくない。
「お父さんっ」
そう呟いて、目を固く閉ざした。
来るべき痛みにそなえて、身を固くしていた。しかし、いつまでたっても痛みは襲って来ない。よもや慰み者にするために、人質にするつもりなのだろうか、オークに弄ばれることをかんがえると、身の毛がよだつ。マブタひとつ開けるのにも、気持ちを鼓舞する必要があった。
信じられない光景が跳びこんできた。
アリルの目の前にあったのは、ミノタウロスの角でもなければ、オークの下卑た顔でもなかった。
レイ・アーロンの背中だった。
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