Fランク冒険者なのに、最強すぎませんか❓ 世界最強の魔王は、自分をFランク冒険者だと思い込んでいる⁉️
2.ゴブリン
この世界――ヴェルワールドには「現界」「魔界」の2つの世界があった。かつてその2つは同じ空間にあったとされている。いまやその2つは完全に隔離されている。しかし、ときおりつながるのだ。トビラが出現して、世界をつなげる。
「出てくるわッ」
「どうしてこんな時にッ」
開いたトビラからは、ゴブリンやオークの大群があふれ出してきた。魔界とはモンスターたちのいる世界だ。そのトビラからやって来るのは、人間を襲わんとするケダモノたちだ。
オレとアリルの2人は、森のなかを駆けた。
「ダメよ。追いつかれる」
振り向く。
ゴブリンが3匹。
樹木の根っこで盛り上がった足場の悪い道を、軽快に駆けていた。ゴブリンは俗に「緑の子鬼」と呼ばれたりもする。緑色の皮膚をしており、その背丈は成人男性の半分ほどしかない。しかし頭がやたらと大きく、魚のような目をギョロつかせている。殺気というよりも、狂気がひそんだような目をしている。
「モンスターと戦った経験は?」
と、オレはアリルに問う。
「多少ならあるけど、大群を相手にしたことなんてないわよ」
目視できるのはとりあえず3匹だが、後ろにはまだまだ控えているはずだ。魔界のトビラからは、もっと大量のモンスターが出て来ていた。
「Fランク冒険者なら、そんなもんか」
「そっちも似たようなもんでしょーが。なんだか大層な剣を持ってるみたいだけど」
「冒険者を3年やって貯めた金で買ったものだよ」
と、ロングソードを抜いた。
「3年も冒険者をやってて、いまだFランクってことに感動をおぼえちゃうわ」
「どうも」
「ホめてないわよ」
と、アリルも腰に佩していた剣を抜いた。オレの剣よりも刀身がみじかい。ショートソードと言われるものだ。
「だと思った。ゴブリンを1匹まかせても良いか?」
「1匹ならまぁ……。私がヤツらのエサになりそうだったら、助けなさいよね」
「こっちも余裕があるかわからないけどね」
「頼りないわねぇ」
ゴブリンが3匹、オレたちを取り囲むように位置どった。1匹は行く手を遮るように、もう2匹は後ろへ逃げられないように。
オレとアリルは背中合わせになった。自分の背中にアリルの体温を感じた。トクン……トクン……と脈打っているのが自分の心臓なのか、アリルの動悸がつたわってきているのかわからなかった。一瞬、アリルの全裸が脳裏をよぎったのだが、あわてて打ち消した。
その油断を突くように
「キシャァァ――ッ」
と、オレのほうに1匹のゴブリンが跳びかかってきた。
長い爪を上段から振り下ろしてきた。剣で受け流す。キン、と金属音がひびきわたる。
ゴブリンはオレの剣にぶら下がるようなカッコウになっていた。ゴブリンは剣にぶら下がったまま、もう1方の手でオレの顔を狙ってきた。
首をそらして、攻撃をかわした。爪が頬をかすめる。鋭い痛みが走る。その手首をつかんで、ゴブリンを地面に叩きつけた。
「ぐへっ」
と、ゴブリンが絶息した。
とどめに、その胸元に剣を突きいれた。緑色の血がふきだした。
「キシャァァ――ッ」
もう1匹のゴブリンが、仲間がやられたことに激昂したかのように鳴き叫んだ。身をかがめて疾駆してくる。剣を下段に構え直して、いっきに斬りあげた。ゴブリンは横に跳んでそれをかわした。
「ちッ」
跳びはねたゴブリンは樹木と水平に足をつけると、真っ直ぐこっちに跳びかかってきた。反応できなかった。剣を構えるよりもさきに、ゴブリンに押し倒された。小さいくせに物凄い怪力で顔面を殴りつけてくる。
しかし、ピタリとその暴行がやんだ。どうやらアリルがゴブリンの背中にショートソードを突き刺してくれたようだ。
「た、助かったよ」
「3年も冒険者をやってるのに、ゴブリンに負けることに感動するわ」
と、アリルはあきれたような表情で言った。そのあからさまな侮蔑に、オレは赤面を覚えざるをえなかった。
「仕方ないだろ。余裕でモンスターを倒せるのなら、回復草を摘んだりしてないって」
と、オレは拗ねるように言う。
「まぁ、私も人のことは言えないんだけど」
アリルはそう言って、右のワキバラをおさえていた。
「ケガしたのか?」
「たいしたことないわよ」
「これを使うと良い」
布袋に詰め込んでいた回復草をさしだした。
「セッカク集めたものなんでしょ。私なんかに使っても良いの?」
と、アリルは右の眉だけもちあげて、うかがうような表情をして見せた。
「冒険者組合まで持ち帰れるかわからないからな。こんな重たいものを持っていたら、逃げ切れもしない」
「助かるわ」
アリルは布の鎧をまくりあげると、白い肌を露出させた。けっこうな量の血が出ている。アリルは回復草を口にふくんで咀嚼してドロドロにした。それを傷口にこすりつけた。ホントウはすり鉢で潰したほうが良いのだが、応急手当として冒険者がよくやる手段だった。
「立てるか?」
「チョット休みたいわ」
「なら、休もう」
「レイは先に行きなさいよ。さっきのゴブリンはやり過ごせたけど、まだどんどん来るわよ」
オレの名前をチャント覚えてくれていたことが、うれしかった。
「そういうわけにはいかないだろ。助けてもらった身だ」
「レイが居ても足手まといよ」
「……っ」
そう言われると、ショックだった。
弱いことは自覚しているのだが、他人から指摘されると堪えるものがある。
アリルもさすがに言いすぎだったと思ったのか、困ったような顔をした。
「冗談よ。居てくれると心強いわ」
「酷い冗談だ」
と、オレは肩をすくめた。
「出てくるわッ」
「どうしてこんな時にッ」
開いたトビラからは、ゴブリンやオークの大群があふれ出してきた。魔界とはモンスターたちのいる世界だ。そのトビラからやって来るのは、人間を襲わんとするケダモノたちだ。
オレとアリルの2人は、森のなかを駆けた。
「ダメよ。追いつかれる」
振り向く。
ゴブリンが3匹。
樹木の根っこで盛り上がった足場の悪い道を、軽快に駆けていた。ゴブリンは俗に「緑の子鬼」と呼ばれたりもする。緑色の皮膚をしており、その背丈は成人男性の半分ほどしかない。しかし頭がやたらと大きく、魚のような目をギョロつかせている。殺気というよりも、狂気がひそんだような目をしている。
「モンスターと戦った経験は?」
と、オレはアリルに問う。
「多少ならあるけど、大群を相手にしたことなんてないわよ」
目視できるのはとりあえず3匹だが、後ろにはまだまだ控えているはずだ。魔界のトビラからは、もっと大量のモンスターが出て来ていた。
「Fランク冒険者なら、そんなもんか」
「そっちも似たようなもんでしょーが。なんだか大層な剣を持ってるみたいだけど」
「冒険者を3年やって貯めた金で買ったものだよ」
と、ロングソードを抜いた。
「3年も冒険者をやってて、いまだFランクってことに感動をおぼえちゃうわ」
「どうも」
「ホめてないわよ」
と、アリルも腰に佩していた剣を抜いた。オレの剣よりも刀身がみじかい。ショートソードと言われるものだ。
「だと思った。ゴブリンを1匹まかせても良いか?」
「1匹ならまぁ……。私がヤツらのエサになりそうだったら、助けなさいよね」
「こっちも余裕があるかわからないけどね」
「頼りないわねぇ」
ゴブリンが3匹、オレたちを取り囲むように位置どった。1匹は行く手を遮るように、もう2匹は後ろへ逃げられないように。
オレとアリルは背中合わせになった。自分の背中にアリルの体温を感じた。トクン……トクン……と脈打っているのが自分の心臓なのか、アリルの動悸がつたわってきているのかわからなかった。一瞬、アリルの全裸が脳裏をよぎったのだが、あわてて打ち消した。
その油断を突くように
「キシャァァ――ッ」
と、オレのほうに1匹のゴブリンが跳びかかってきた。
長い爪を上段から振り下ろしてきた。剣で受け流す。キン、と金属音がひびきわたる。
ゴブリンはオレの剣にぶら下がるようなカッコウになっていた。ゴブリンは剣にぶら下がったまま、もう1方の手でオレの顔を狙ってきた。
首をそらして、攻撃をかわした。爪が頬をかすめる。鋭い痛みが走る。その手首をつかんで、ゴブリンを地面に叩きつけた。
「ぐへっ」
と、ゴブリンが絶息した。
とどめに、その胸元に剣を突きいれた。緑色の血がふきだした。
「キシャァァ――ッ」
もう1匹のゴブリンが、仲間がやられたことに激昂したかのように鳴き叫んだ。身をかがめて疾駆してくる。剣を下段に構え直して、いっきに斬りあげた。ゴブリンは横に跳んでそれをかわした。
「ちッ」
跳びはねたゴブリンは樹木と水平に足をつけると、真っ直ぐこっちに跳びかかってきた。反応できなかった。剣を構えるよりもさきに、ゴブリンに押し倒された。小さいくせに物凄い怪力で顔面を殴りつけてくる。
しかし、ピタリとその暴行がやんだ。どうやらアリルがゴブリンの背中にショートソードを突き刺してくれたようだ。
「た、助かったよ」
「3年も冒険者をやってるのに、ゴブリンに負けることに感動するわ」
と、アリルはあきれたような表情で言った。そのあからさまな侮蔑に、オレは赤面を覚えざるをえなかった。
「仕方ないだろ。余裕でモンスターを倒せるのなら、回復草を摘んだりしてないって」
と、オレは拗ねるように言う。
「まぁ、私も人のことは言えないんだけど」
アリルはそう言って、右のワキバラをおさえていた。
「ケガしたのか?」
「たいしたことないわよ」
「これを使うと良い」
布袋に詰め込んでいた回復草をさしだした。
「セッカク集めたものなんでしょ。私なんかに使っても良いの?」
と、アリルは右の眉だけもちあげて、うかがうような表情をして見せた。
「冒険者組合まで持ち帰れるかわからないからな。こんな重たいものを持っていたら、逃げ切れもしない」
「助かるわ」
アリルは布の鎧をまくりあげると、白い肌を露出させた。けっこうな量の血が出ている。アリルは回復草を口にふくんで咀嚼してドロドロにした。それを傷口にこすりつけた。ホントウはすり鉢で潰したほうが良いのだが、応急手当として冒険者がよくやる手段だった。
「立てるか?」
「チョット休みたいわ」
「なら、休もう」
「レイは先に行きなさいよ。さっきのゴブリンはやり過ごせたけど、まだどんどん来るわよ」
オレの名前をチャント覚えてくれていたことが、うれしかった。
「そういうわけにはいかないだろ。助けてもらった身だ」
「レイが居ても足手まといよ」
「……っ」
そう言われると、ショックだった。
弱いことは自覚しているのだが、他人から指摘されると堪えるものがある。
アリルもさすがに言いすぎだったと思ったのか、困ったような顔をした。
「冗談よ。居てくれると心強いわ」
「酷い冗談だ」
と、オレは肩をすくめた。
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