Fランク冒険者なのに、最強すぎませんか❓ 世界最強の魔王は、自分をFランク冒険者だと思い込んでいる⁉️

執筆用bot E-021番 

2.ゴブリン

 この世界――ヴェルワールドには「現界」「魔界」の2つの世界があった。かつてその2つは同じ空間にあったとされている。いまやその2つは完全に隔離されている。しかし、ときおりつながるのだ。トビラが出現して、世界をつなげる。


「出てくるわッ」
「どうしてこんな時にッ」


 開いたトビラからは、ゴブリンやオークの大群があふれ出してきた。魔界ゲヘナとはモンスターたちのいる世界だ。そのトビラからやって来るのは、人間を襲わんとするケダモノたちだ。


 オレとアリルの2人は、森のなかを駆けた。


「ダメよ。追いつかれる」


 振り向く。
 ゴブリンが3匹。


 樹木の根っこで盛り上がった足場の悪い道を、軽快に駆けていた。ゴブリンは俗に「緑の子鬼」と呼ばれたりもする。緑色の皮膚をしており、その背丈は成人男性の半分ほどしかない。しかし頭がやたらと大きく、魚のような目をギョロつかせている。殺気というよりも、狂気がひそんだような目をしている。


「モンスターと戦った経験は?」
 と、オレはアリルに問う。


「多少ならあるけど、大群を相手にしたことなんてないわよ」


 目視できるのはとりあえず3匹だが、後ろにはまだまだ控えているはずだ。魔界ゲヘナのトビラからは、もっと大量のモンスターが出て来ていた。


「Fランク冒険者なら、そんなもんか」


「そっちも似たようなもんでしょーが。なんだか大層な剣を持ってるみたいだけど」


「冒険者を3年やって貯めた金で買ったものだよ」
 と、ロングソードを抜いた。


「3年も冒険者をやってて、いまだFランクってことに感動をおぼえちゃうわ」


「どうも」


「ホめてないわよ」
 と、アリルも腰に佩していた剣を抜いた。オレの剣よりも刀身がみじかい。ショートソードと言われるものだ。


「だと思った。ゴブリンを1匹まかせても良いか?」


「1匹ならまぁ……。私がヤツらのエサになりそうだったら、助けなさいよね」


「こっちも余裕があるかわからないけどね」
「頼りないわねぇ」


 ゴブリンが3匹、オレたちを取り囲むように位置どった。1匹は行く手を遮るように、もう2匹は後ろへ逃げられないように。


 オレとアリルは背中合わせになった。自分の背中にアリルの体温を感じた。トクン……トクン……と脈打っているのが自分の心臓なのか、アリルの動悸がつたわってきているのかわからなかった。一瞬、アリルの全裸が脳裏をよぎったのだが、あわてて打ち消した。


 その油断を突くように
「キシャァァ――ッ」
 と、オレのほうに1匹のゴブリンが跳びかかってきた。


 長い爪を上段から振り下ろしてきた。剣で受け流す。キン、と金属音がひびきわたる。


 ゴブリンはオレの剣にぶら下がるようなカッコウになっていた。ゴブリンは剣にぶら下がったまま、もう1方の手でオレの顔を狙ってきた。


 首をそらして、攻撃をかわした。爪が頬をかすめる。鋭い痛みが走る。その手首をつかんで、ゴブリンを地面に叩きつけた。


「ぐへっ」
 と、ゴブリンが絶息した。
 とどめに、その胸元に剣を突きいれた。緑色の血がふきだした。


「キシャァァ――ッ」


 もう1匹のゴブリンが、仲間がやられたことに激昂したかのように鳴き叫んだ。身をかがめて疾駆してくる。剣を下段に構え直して、いっきに斬りあげた。ゴブリンは横に跳んでそれをかわした。


「ちッ」
 跳びはねたゴブリンは樹木と水平に足をつけると、真っ直ぐこっちに跳びかかってきた。反応できなかった。剣を構えるよりもさきに、ゴブリンに押し倒された。小さいくせに物凄い怪力で顔面を殴りつけてくる。


 しかし、ピタリとその暴行がやんだ。どうやらアリルがゴブリンの背中にショートソードを突き刺してくれたようだ。


「た、助かったよ」


「3年も冒険者をやってるのに、ゴブリンに負けることに感動するわ」
 と、アリルはあきれたような表情で言った。そのあからさまな侮蔑に、オレは赤面を覚えざるをえなかった。


「仕方ないだろ。余裕でモンスターを倒せるのなら、回復草を摘んだりしてないって」
 と、オレは拗ねるように言う。


「まぁ、私も人のことは言えないんだけど」
 アリルはそう言って、右のワキバラをおさえていた。


「ケガしたのか?」
「たいしたことないわよ」
「これを使うと良い」


 布袋に詰め込んでいた回復草をさしだした。


「セッカク集めたものなんでしょ。私なんかに使っても良いの?」
 と、アリルは右の眉だけもちあげて、うかがうような表情をして見せた。


「冒険者組合まで持ち帰れるかわからないからな。こんな重たいものを持っていたら、逃げ切れもしない」


「助かるわ」


 アリルは布の鎧クロス・アーマーをまくりあげると、白い肌を露出させた。けっこうな量の血が出ている。アリルは回復草を口にふくんで咀嚼してドロドロにした。それを傷口にこすりつけた。ホントウはすり鉢で潰したほうが良いのだが、応急手当として冒険者がよくやる手段だった。


「立てるか?」
「チョット休みたいわ」
「なら、休もう」
「レイは先に行きなさいよ。さっきのゴブリンはやり過ごせたけど、まだどんどん来るわよ」


 オレの名前をチャント覚えてくれていたことが、うれしかった。


「そういうわけにはいかないだろ。助けてもらった身だ」
「レイが居ても足手まといよ」
「……っ」


 そう言われると、ショックだった。
 弱いことは自覚しているのだが、他人から指摘されると堪えるものがある。
 アリルもさすがに言いすぎだったと思ったのか、困ったような顔をした。


「冗談よ。居てくれると心強いわ」
「酷い冗談だ」
 と、オレは肩をすくめた。

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