Fランク冒険者なのに、最強すぎませんか❓ 世界最強の魔王は、自分をFランク冒険者だと思い込んでいる⁉️

執筆用bot E-021番 

1.魔界門

「ふぅ」
 と、袖でひたいに浮いた汗をぬぐった。


 指先は青くなっていた。布袋。人の顔ぐらいの大きさがある。ドッサリと青々しい葉っぱが詰め込まれている。鼻がもげるかと思うほど青臭い。回復草だ。


 これを冒険者組合に持ち込めば、5シルバーぐらいにはなるはずだ。パンとジャガイモぐらいは買える。欲を言えばバターも欲しい。もうすこし回復草を摘んで帰ったほうが良いかもしれない。


「あ、痛たた……」


 ずっと屈んで回復草を摘んでいたせいで、腰に痛みをおぼえた。右手の甲で背中をさすった。もう少し稼ぎが欲しいところだが、持ち帰ることをかんがえると、今日はこれぐらいで引き上げたほうが良さそうだ。


 立ち上がる。


「うーんっ」
 と、思いきり伸びをした。
 全身の筋肉がほぐれていく感覚があった。


 周囲。森。


 このあたりだけ陽光がさしこんでいるのは、湖があるからだ。こんな森のなかに湖があるなんて、つい最近まで知らなかった。ひと気がない。あまり人に知られていないのだろう。回復草が生い茂っているということは、いまだ冒険者たちに踏み入られていない証拠でもある。


「ふふん」
 と、思わず笑みがコボれる。


 良い場所を見つけた。
 回復草は水辺に茂る。Fランク冒険者にとっては、貴重な資金源だ。いずれ他のFランクも群がってくることを思うと、ヤッパリもうすこし摘み取っておいたほうが良いかもしれない。


 ガサガサ……


 すぐ後ろで、茂みの揺れる音がした。モンスターか。脇に置いていた、ロングソードを手に取った。冒険者になってからコツコツと貯めて買ったものだ。


 ヒョウシヌケ。


 出てきたのは全裸の少年だった。湖で水浴びでもしようとしていたのだろうと察しがついた。


「すまない。モンスターかと思ったんだ」


 抜いたロングソードを革の鞘にしまった。


「……」


 少年のほうも、まさか人がいるとは思わなかったようで、唖然とした様子でその場に立ち尽くしていた。


 おのずとその裸体を、オレはマジマジと見つめることになった。少年? いや。よく見ると少年にしては肌がキレイすぎる。まるで牛乳の表面のような肌をしていた。体躯も筋肉質ではあるが、肩や腕には独特な丸みがあった。しかもよくよく見てみると、胸元がつつましくふくらんでいる。


「あ……」


 少年ではない。
 これは――。
 少女だ。


 見てはいけないものを見てしまったような気になった。背中に冷たいものがつたう感触をおぼえた。


 少女のほうも何が起きたのか理解が遅れたようで、しばし立ち尽くしていた。


「きゃっ」


 事態を把握したようで、サッと顔を赤らめると、茂みのなかに身を引っ込めていた。


「いや、ゴメンッ。な、なにも見てないからッ」


「ウソ! ぜったいウソ! ガン見してたじゃないッ!」
 と、茂みから怒声が跳んできた。


 勝手に全裸で出てきておいて、怒られるのは不本意ではあるが、たしかにガン見してしまったことは否めない。女性の肌というのは、あんなにもキレイなものなのかと思い起こすと感動すらおぼえる。


「見てたけど、でも、わざとじゃないし、事故だから」


「湖に入ろうと思ってただけなんだからッ。べつに変な意味で脱いでたんじゃないからねッ。そこは誤解しないでよッ」


「わかってるって」


 少女は服を着なおすと、ふたたび茂みから出てきた。


 布の鎧クロス・アーマーを身にまとっていた。厚みのある布だ。冒険者たちがよく装備しているもので、オレも同じものを身に着けている。


 一見したときに、どうして少年だと思ってしまったのかフに落ちた。


 ブロンドの髪をみじかくしていた。その双眸にやどる青い虹彩は見惚れるほどだが、男らしい威勢の良さが顔立ちに出ていた。クッキリとした二重まぶたや、つりあがった眉には凛然としたものがあった。裸を見ていなければ、少年だと勘違いしたままだったろう。


 照れ臭くてマトモにその顔を見かえすことが出来なかった。おのずと視線を下げることになるのだが、少女の腰にぶらさがっている銅色のカギが目についた。Fランク冒険者の証。


「私はアリル・クライン。そっちは?」
 憮然とした調子でたずねてきた。


「オレはレイ・アーロン」


「いつも人がいないのに、どうして今日にかぎっているのよ」
 と、少女――アリルはとがめるような口調でたずねてきた。


 短くしてあるブロンドの髪を弄るさまは、気恥ずかしさを紛らわせるための所作に見えた。


「つい最近、この場所を見つけたんだ。回復草を摘んでいたところだ」


「そっちもFランク冒険者なのね」


「お互いさまだろ」


 どうやらオレ以外にも、この場所を知っている冒険者がいたらしい。すこしガッカリしてしまった。


「さっき見たことは、忘れなさいよ」


 顔を合わせると、少女は顔を赤らめてうつむき気味にそう言ってきた。居たたまれなさそうに左右にゆれている。


「忘れるよ」


 たぶん二度と記憶から消せないだろうが、そう言っておいた。


 イキナリ全裸で出てきたのはそっちなんだ。オレは悪いことをしたわけじゃないだろ――と弁解しようと思ったがヤめた。潔くないような気がした。


「何してたの?」


「見ての通りだよ。回復草を摘んでたんだ」


 オレがかつぎあげた布袋の中身を、アリルは覗きこんだ。


「Fランク冒険者なら、早く帰ったほうが良いわよ。日が暮れるとモンスターの残党が出てくるから」


「今から帰ろうと思っていたところだよ」


 ホントウはもうすこし回復草を摘んで帰ろうか迷っていたのだが、これ以上は、居たたまれない。


 バシャーンッ


 トツゼンだった。
 水しぶきが盛大に吹き上がった。篠突く雨のごとくオレの頭上に水がふりかかった。全身が濡れる。


 湖のなかから巨大なトビラが生えていた。そのトビラの大きさたるや、まるで城門棟である。門は黒々としており、装飾のないツルリとした外観をしていた。湖のあたりには茂みに天を隠されていないため、日差しがさんさんと降り注いでいた。その陽光をまっこうから受けて黒々とかがやいている。


 門。
 ギィィィ……ッ
 と死神の叫び声のような音をあてながら、両開きに開いてゆく。


「ウソ……。まさかここに魔界のトビラが開くなんてッ」


「逃げるぞッ」
 と、オレはアリルの腕をつかんだ。

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