傷痕~想い出に変わるまで~
密室 3
次のクライアントのイベントの企画書に目を通していると、思ったより時間が遅くなってしまった。
気が付くとオフィスに残っているのは私一人。
今日は早く帰れそうだと光に言ったのに、時刻は間もなく8時半になろうとしている。
慌てて帰り支度を済ませ、オフィスを飛び出してエレベーターに乗り込み、階数ボタンの①と扉を閉めるボタンを押した。
ゆっくりと扉が閉まりかけたその瞬間、門倉がすごい勢いでエレベーターに飛び込んできて、私の腕を掴んだ。
「おい、篠宮!」
「門倉……?」
「何やってんだよ!」
「え、何が……?」
「これから点検でエレベーターが止まるんだよ!」
「あっ……!嘘……これから?!」
扉を開けるボタンを押そうとした時には時既に遅く、扉は閉まりエレベーターが動き出した後だった。
「あーっ……間に合わなかった……」
「次の階のボタン押せよ」
「あ、そうか。えっと、今5階だから……」
5階より下のボタンを押そうとした時、エレベーターがキューッと静かに軋む音をたててゆっくり止まった。
「ああっ!!」
「……止まったな」
どうしよう?!
確か金城くんが2時間くらい止まるって言ってたのに!
門倉はオロオロしている私を呆れた顔で見ている。
おまけにエレベーター内の照明まで落ちて、真っ暗になってしまった。
「ああぁっ!!電気まで消えた!!」
恐怖と緊張感で、心拍数がどんどん上がる。
「落ち着けよ。緊急時のボタンあるだろ」
「あ、そうか」
門倉に促され、緊急時呼び出しのボタンを慌てて押した。
「ん……あれ?」
何度押しても反応がない。
「なんで?なんの応答もないんだけど!!」
必死の形相でガチャガチャとボタンを押し続ける私の手を、門倉が大きな手で握って止めた。
「慌ててもしょうがないから、ちょっと落ち着け」
真っ暗なエレベーターに閉じ込められてしまったのに、落ち着いている余裕なんてあるわけがない。
「こんな時に落ち着いてられないよ!」
とにかく誰かに気付いてもらわなければと、私は門倉の手を振り払って必死でドアを叩いた。
「だから落ち着けって」
門倉が私を引き寄せて長い腕の中に閉じ込めた。
突然抱きしめられ門倉の体温に包まれて、心臓がさっきとは違う音をたてた。
「そのうち動く。俺がいるから心配すんな」
門倉は私を落ち着かせるためにそうしたんだろうけれど、私の心臓は余計に落ち着かない。
それなのに門倉がそばにいてくれる安心感は大きい。
一人だったらどうしていいかわからず、もっとひどく取り乱していただろう。
「相変わらずだな、篠宮は」
「相変わらずって何よ……」
「仕事に関しては抜かりがないのに、普段はどっか抜けてる」
「ドジだって言いたいの……?」
バカにされたみたいで悔しくて、門倉の胸を押し返した。
それなのに門倉は私の力なんかものともせず笑って、更に強く私を抱きしめて頭を撫でた。
「俺は篠宮のそういう完璧じゃないところが、人間らしくていいと思うぞ」
「何それ……」
ずっと私の存在なんてなかったような態度を取っていたくせに、どうしてエレベーターに乗ってきたんだろう?
エレベーターに乗ろうとする私を止めるなら、手で扉が閉まらないように押さえるとか、私を引っ張り出すとか、他にも方法はあったはずなのに。
それにどうして門倉は、こんなふうに私を抱きしめたりするんだろう?
「門倉だって人のこと言えないよ……。自分まで乗ったら道連れになっちゃうのに。止めるなら他に方法はあったでしょ?」
「……そんなことわかってるよ」
「……え?わかってるならなんで……?」
門倉の言いたいことの意味が、私にはさっぱりわからない。
「やっぱバカだな、篠宮」
門倉は今どんな顔をしているんだろう?
いつもみたいにちょっと呆れた顔をして笑っているのかな?
「バカって言われる理由もわからないんだけど……。って言うか、もう大丈夫だからそろそろ離してくれる?」
「こうしてるとあったけーから、このままでいさせろ」
たしかに門倉にこうされてるのはあったかいけど……。
体の大きさや温かさ、腕の長さや力強さ、いつものタバコの匂い、少し押し殺した息遣い……。
視覚以外の感覚が門倉を敏感に感じ取って、異性であることを再認識してしまう。
ただでさえ暗くて門倉の表情が見えないのに、これ以上こんな状態が続いたら心臓がもたないよ!
気が付くとオフィスに残っているのは私一人。
今日は早く帰れそうだと光に言ったのに、時刻は間もなく8時半になろうとしている。
慌てて帰り支度を済ませ、オフィスを飛び出してエレベーターに乗り込み、階数ボタンの①と扉を閉めるボタンを押した。
ゆっくりと扉が閉まりかけたその瞬間、門倉がすごい勢いでエレベーターに飛び込んできて、私の腕を掴んだ。
「おい、篠宮!」
「門倉……?」
「何やってんだよ!」
「え、何が……?」
「これから点検でエレベーターが止まるんだよ!」
「あっ……!嘘……これから?!」
扉を開けるボタンを押そうとした時には時既に遅く、扉は閉まりエレベーターが動き出した後だった。
「あーっ……間に合わなかった……」
「次の階のボタン押せよ」
「あ、そうか。えっと、今5階だから……」
5階より下のボタンを押そうとした時、エレベーターがキューッと静かに軋む音をたててゆっくり止まった。
「ああっ!!」
「……止まったな」
どうしよう?!
確か金城くんが2時間くらい止まるって言ってたのに!
門倉はオロオロしている私を呆れた顔で見ている。
おまけにエレベーター内の照明まで落ちて、真っ暗になってしまった。
「ああぁっ!!電気まで消えた!!」
恐怖と緊張感で、心拍数がどんどん上がる。
「落ち着けよ。緊急時のボタンあるだろ」
「あ、そうか」
門倉に促され、緊急時呼び出しのボタンを慌てて押した。
「ん……あれ?」
何度押しても反応がない。
「なんで?なんの応答もないんだけど!!」
必死の形相でガチャガチャとボタンを押し続ける私の手を、門倉が大きな手で握って止めた。
「慌ててもしょうがないから、ちょっと落ち着け」
真っ暗なエレベーターに閉じ込められてしまったのに、落ち着いている余裕なんてあるわけがない。
「こんな時に落ち着いてられないよ!」
とにかく誰かに気付いてもらわなければと、私は門倉の手を振り払って必死でドアを叩いた。
「だから落ち着けって」
門倉が私を引き寄せて長い腕の中に閉じ込めた。
突然抱きしめられ門倉の体温に包まれて、心臓がさっきとは違う音をたてた。
「そのうち動く。俺がいるから心配すんな」
門倉は私を落ち着かせるためにそうしたんだろうけれど、私の心臓は余計に落ち着かない。
それなのに門倉がそばにいてくれる安心感は大きい。
一人だったらどうしていいかわからず、もっとひどく取り乱していただろう。
「相変わらずだな、篠宮は」
「相変わらずって何よ……」
「仕事に関しては抜かりがないのに、普段はどっか抜けてる」
「ドジだって言いたいの……?」
バカにされたみたいで悔しくて、門倉の胸を押し返した。
それなのに門倉は私の力なんかものともせず笑って、更に強く私を抱きしめて頭を撫でた。
「俺は篠宮のそういう完璧じゃないところが、人間らしくていいと思うぞ」
「何それ……」
ずっと私の存在なんてなかったような態度を取っていたくせに、どうしてエレベーターに乗ってきたんだろう?
エレベーターに乗ろうとする私を止めるなら、手で扉が閉まらないように押さえるとか、私を引っ張り出すとか、他にも方法はあったはずなのに。
それにどうして門倉は、こんなふうに私を抱きしめたりするんだろう?
「門倉だって人のこと言えないよ……。自分まで乗ったら道連れになっちゃうのに。止めるなら他に方法はあったでしょ?」
「……そんなことわかってるよ」
「……え?わかってるならなんで……?」
門倉の言いたいことの意味が、私にはさっぱりわからない。
「やっぱバカだな、篠宮」
門倉は今どんな顔をしているんだろう?
いつもみたいにちょっと呆れた顔をして笑っているのかな?
「バカって言われる理由もわからないんだけど……。って言うか、もう大丈夫だからそろそろ離してくれる?」
「こうしてるとあったけーから、このままでいさせろ」
たしかに門倉にこうされてるのはあったかいけど……。
体の大きさや温かさ、腕の長さや力強さ、いつものタバコの匂い、少し押し殺した息遣い……。
視覚以外の感覚が門倉を敏感に感じ取って、異性であることを再認識してしまう。
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