傷痕~想い出に変わるまで~
休日 3
「ごめん、困らせるつもりはなかったんだ。ただ素直にそう思っただけで、無理強いする気もない」
そんな切ない顔されたら、少しでも聞かなきゃいけないような気になってしまう。
「……じゃあ、最寄り駅だけ聞いとこうかな」
光は一瞬キョトンとした後、おかしそうに笑った。
「無理して合わせなくていいって」
無理……したのかな?
そりゃ、めちゃくちゃ知りたいとも思ってないけど……。
「いつか瑞希がホントに俺のこと知りたいって思ったら、家の場所教えるから」
「それって……私が付き合う気になったら俺んちにおいで、ってこと?」
「うん。そうなると嬉しい」
光は光なりに私の気持ちを汲んでくれているのかも。
じゃあ、私は……?
今の光に少しでも歩み寄る気持ちはある?
だいたいどこを見て付き合うかどうかを判断すればいいのかわからないのに、何も知ろうとしないで光のことがわかるわけがない。
そうだ、私は何度か会っている時の様子を見ただけで付き合うべきかどうかを判断できるほど恋愛上級者じゃないんだから、一歩踏み込まないと何も始まらないんだ。
とりあえず……どうすればいい?
覚悟を決めて『付き合う』って言ってみようか。
「光……あのね……」
思いきって話を切り出そうとすると、店員が私の注文したパンケーキを運んできた。
「お待たせしました、パンケーキお持ちしました」
「あ……ありがとう……」
店員が私の前にパンケーキを置いてテーブルから離れると、光は小さく笑った。
「ここのお店はパンケーキにならないんだね」
「え?」
「ほら、居酒屋では若い女の子の店員が『こちら豚の角煮になりまーす』って……」
ああ、光と居酒屋で向かい合っていた時のことか。
女子大生風の店員が、オーダーしたものを運んでくるたびになんでもかんでも『こちら~になりまーす!』って、勘違いな敬語を使っていたっけ。
「ああ……あれね。これから角煮になるなら今はなんなの?豚なの?って気になって気になって……」
改めて考えてみると本当におかしな日本語だと、思わず笑いが込み上げた。
「やっと笑ってくれた」
「え?」
光は私の顔を嬉しそうに見つめている。
「ずっと身構えて表情が固かったから。瑞希の笑った顔、久しぶりに見たよ。離婚する前もずっと笑った顔なんて見られなかったし」
「そう……だっけ……?」
「……って言っても、瑞希が笑えないような状況を作ったのは俺なんだけど……」
離婚する前はまともに顔を合わせなかったし、光とどう接すればいいのかずっと悩んでいた。
光の前で笑う余裕なんてなかったと思う。
ちょっとしたことでお互いにつらかった時のことを思い出してしまうなんて。
よく考えたら、こんな状態で付き合ってうまくいくとは思えない。
「あ……また瑞希を困らせるようなこと言っちゃったかな。ごめん」
「……ううん」
「パンケーキ、冷めないうちに食べて」
「うん……」
パンケーキにホイップマーガリンを塗ってメイプルシロップをかけた。
その様子を見ていた光が首をかしげた。
「シロップ、そんな少しでいいの?」
「え?」
「昔はもっとたくさんかけてたよね。飲み物もいつもミルクティーだったし。もしかして甘いの苦手になった?」
驚いたな。
二人でカフェやファミレスに行っていたのなんて結婚する前の大学生の頃なのに、10年以上経ってもまだそんなこと覚えてるんだ。
そんな切ない顔されたら、少しでも聞かなきゃいけないような気になってしまう。
「……じゃあ、最寄り駅だけ聞いとこうかな」
光は一瞬キョトンとした後、おかしそうに笑った。
「無理して合わせなくていいって」
無理……したのかな?
そりゃ、めちゃくちゃ知りたいとも思ってないけど……。
「いつか瑞希がホントに俺のこと知りたいって思ったら、家の場所教えるから」
「それって……私が付き合う気になったら俺んちにおいで、ってこと?」
「うん。そうなると嬉しい」
光は光なりに私の気持ちを汲んでくれているのかも。
じゃあ、私は……?
今の光に少しでも歩み寄る気持ちはある?
だいたいどこを見て付き合うかどうかを判断すればいいのかわからないのに、何も知ろうとしないで光のことがわかるわけがない。
そうだ、私は何度か会っている時の様子を見ただけで付き合うべきかどうかを判断できるほど恋愛上級者じゃないんだから、一歩踏み込まないと何も始まらないんだ。
とりあえず……どうすればいい?
覚悟を決めて『付き合う』って言ってみようか。
「光……あのね……」
思いきって話を切り出そうとすると、店員が私の注文したパンケーキを運んできた。
「お待たせしました、パンケーキお持ちしました」
「あ……ありがとう……」
店員が私の前にパンケーキを置いてテーブルから離れると、光は小さく笑った。
「ここのお店はパンケーキにならないんだね」
「え?」
「ほら、居酒屋では若い女の子の店員が『こちら豚の角煮になりまーす』って……」
ああ、光と居酒屋で向かい合っていた時のことか。
女子大生風の店員が、オーダーしたものを運んでくるたびになんでもかんでも『こちら~になりまーす!』って、勘違いな敬語を使っていたっけ。
「ああ……あれね。これから角煮になるなら今はなんなの?豚なの?って気になって気になって……」
改めて考えてみると本当におかしな日本語だと、思わず笑いが込み上げた。
「やっと笑ってくれた」
「え?」
光は私の顔を嬉しそうに見つめている。
「ずっと身構えて表情が固かったから。瑞希の笑った顔、久しぶりに見たよ。離婚する前もずっと笑った顔なんて見られなかったし」
「そう……だっけ……?」
「……って言っても、瑞希が笑えないような状況を作ったのは俺なんだけど……」
離婚する前はまともに顔を合わせなかったし、光とどう接すればいいのかずっと悩んでいた。
光の前で笑う余裕なんてなかったと思う。
ちょっとしたことでお互いにつらかった時のことを思い出してしまうなんて。
よく考えたら、こんな状態で付き合ってうまくいくとは思えない。
「あ……また瑞希を困らせるようなこと言っちゃったかな。ごめん」
「……ううん」
「パンケーキ、冷めないうちに食べて」
「うん……」
パンケーキにホイップマーガリンを塗ってメイプルシロップをかけた。
その様子を見ていた光が首をかしげた。
「シロップ、そんな少しでいいの?」
「え?」
「昔はもっとたくさんかけてたよね。飲み物もいつもミルクティーだったし。もしかして甘いの苦手になった?」
驚いたな。
二人でカフェやファミレスに行っていたのなんて結婚する前の大学生の頃なのに、10年以上経ってもまだそんなこと覚えてるんだ。
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