傷痕~想い出に変わるまで~
約束 2
「そりゃまぁ今日のところは助かったけどさ……『俺が責任持って連絡させます』ってなんなの?私は会いたいなんて一言も言ってないのに!」
タバコをケースごと投げつけると、門倉はそれをキャッチしておかしそうに笑った。
「なんだよ。あいつにもそんな風にハッキリ話せばいいじゃん。『私は復縁するつもりはないよ』って」
「復縁しようなんて言われてないから。門倉だって受付嬢に誘われた時は言葉濁してたじゃない。『おまえみたいな小娘なんざ興味ねぇよ』ってハッキリ言えば!」
門倉はケースからタバコを取り出してオイルライターで火をつけた。
「おまえね。あのおしゃべりな小娘にそんなことしたら大変なことになるぞ?次の日には社内に俺の悪評が知れ渡るだろ」
「ふーん。いいこと聞いた」
私が短くなったタバコを灰皿に投げ入れてニヤッと笑うと、門倉は少し慌てた様子でタバコケースを私に投げつけた。
「バカ、やめろよ。余計なこと言うな」
「どうしようかな……」
門倉はトマトが大好きだから駅前に新しくできたイタリアンレストランに誘えとか、フレッシュトマトとモッツァレラチーズのパスタが大好物だとか、受付嬢に言ってやろうかしら。
苦痛に顔を歪めて冷や汗をかきながらトマト料理を頬張る門倉の姿が目に浮かぶ。
これはこれで面白いかも。
「口止め料に今夜は晩飯おごってやるから」
「予約が必要な店?」
「あーもう、わかったよ。そこはなんとかするから今日は早めに仕事終わらせろよ」
コーヒーを飲み干して握りつぶしたカップをゴミ箱の中に投げ入れた。
「そうと決まればさっさと戻ってチャチャッと仕事片付けようっと。ほら、仕事仕事」
「篠宮ってホントいい根性してるよな……」
門倉はコーヒーを飲み干してため息をつき、少し呆れた様子で呟いた。
「ほら、早く」
私が立ち上がってオフィスに戻ろうと促すと、門倉は右手を前に出した。
「……何?」
「立ち上がる気力がなくなった。引っ張って」
「はぁ?何甘えたことを……」
「いいから早く引っ張れ」
「しょうがないなぁ……」
右腕を掴んで引っ張ると、門倉は思っていた以上に勢いよく立ち上がった。
その勢いに押され倒れそうになる私の体を、門倉の左腕が咄嗟に支えた。
不意に抱きしめられたような格好になり、至近距離に門倉の顔があることにドキッとした。
「あぶねぇな、大丈夫か?」
「だ……大丈夫だから」
門倉の手が私の体から離れた。
それなのに抱き止められた時の大きな手の感触だけは私の体にしばらく残った。
門倉もやっぱり男なんだな。
あんなに軽々と私の体を抱き止めるんだから。
もし強引に抱きしめられりしたら、いくら逃れようとしてもきっと私の力なんかじゃ敵わないんだろう。
……って……。
いや、ないない。
門倉相手にそんなことがあるわけない。
近頃やけに門倉が私に触れる機会が多いから、ありもしないような妙なことを考えてしまうのか。
まさか私、欲求不満とかじゃないよね?
確かに光と別れてから誰とも付き合ってないし、別れる前もずいぶん長い間夫婦生活はほぼなかった。
だからって門倉相手にドキドキするとか有り得ない。
私、このままじゃ女としてまずいな。
枯れきってしまえばなんとも思わないのかも知れないけれど、私の中にはまだかろうじて女の部分が残っているらしい。
私もやっぱり門倉の言う通り、光とのことは何もかもハッキリ終わらせて新しい恋にでも踏み出すべきなのかも知れない。
そうすればまた純粋に誰かを想うことができるだろうか?
タバコをケースごと投げつけると、門倉はそれをキャッチしておかしそうに笑った。
「なんだよ。あいつにもそんな風にハッキリ話せばいいじゃん。『私は復縁するつもりはないよ』って」
「復縁しようなんて言われてないから。門倉だって受付嬢に誘われた時は言葉濁してたじゃない。『おまえみたいな小娘なんざ興味ねぇよ』ってハッキリ言えば!」
門倉はケースからタバコを取り出してオイルライターで火をつけた。
「おまえね。あのおしゃべりな小娘にそんなことしたら大変なことになるぞ?次の日には社内に俺の悪評が知れ渡るだろ」
「ふーん。いいこと聞いた」
私が短くなったタバコを灰皿に投げ入れてニヤッと笑うと、門倉は少し慌てた様子でタバコケースを私に投げつけた。
「バカ、やめろよ。余計なこと言うな」
「どうしようかな……」
門倉はトマトが大好きだから駅前に新しくできたイタリアンレストランに誘えとか、フレッシュトマトとモッツァレラチーズのパスタが大好物だとか、受付嬢に言ってやろうかしら。
苦痛に顔を歪めて冷や汗をかきながらトマト料理を頬張る門倉の姿が目に浮かぶ。
これはこれで面白いかも。
「口止め料に今夜は晩飯おごってやるから」
「予約が必要な店?」
「あーもう、わかったよ。そこはなんとかするから今日は早めに仕事終わらせろよ」
コーヒーを飲み干して握りつぶしたカップをゴミ箱の中に投げ入れた。
「そうと決まればさっさと戻ってチャチャッと仕事片付けようっと。ほら、仕事仕事」
「篠宮ってホントいい根性してるよな……」
門倉はコーヒーを飲み干してため息をつき、少し呆れた様子で呟いた。
「ほら、早く」
私が立ち上がってオフィスに戻ろうと促すと、門倉は右手を前に出した。
「……何?」
「立ち上がる気力がなくなった。引っ張って」
「はぁ?何甘えたことを……」
「いいから早く引っ張れ」
「しょうがないなぁ……」
右腕を掴んで引っ張ると、門倉は思っていた以上に勢いよく立ち上がった。
その勢いに押され倒れそうになる私の体を、門倉の左腕が咄嗟に支えた。
不意に抱きしめられたような格好になり、至近距離に門倉の顔があることにドキッとした。
「あぶねぇな、大丈夫か?」
「だ……大丈夫だから」
門倉の手が私の体から離れた。
それなのに抱き止められた時の大きな手の感触だけは私の体にしばらく残った。
門倉もやっぱり男なんだな。
あんなに軽々と私の体を抱き止めるんだから。
もし強引に抱きしめられりしたら、いくら逃れようとしてもきっと私の力なんかじゃ敵わないんだろう。
……って……。
いや、ないない。
門倉相手にそんなことがあるわけない。
近頃やけに門倉が私に触れる機会が多いから、ありもしないような妙なことを考えてしまうのか。
まさか私、欲求不満とかじゃないよね?
確かに光と別れてから誰とも付き合ってないし、別れる前もずいぶん長い間夫婦生活はほぼなかった。
だからって門倉相手にドキドキするとか有り得ない。
私、このままじゃ女としてまずいな。
枯れきってしまえばなんとも思わないのかも知れないけれど、私の中にはまだかろうじて女の部分が残っているらしい。
私もやっぱり門倉の言う通り、光とのことは何もかもハッキリ終わらせて新しい恋にでも踏み出すべきなのかも知れない。
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