傷痕~想い出に変わるまで~

櫻井音衣

動揺 2

それから社食で一番高い和風ステーキランチをコーヒー付きでおごってもらった。
門倉はすごい勢いでステーキを頬張る私を眺めながら、少し呆れた顔をして日替わりランチを食べていた。

「それで、昨日何があった?」

食後のコーヒーを飲みながら門倉が尋ねた。
何があった?って……光と会わせたのは門倉なのに。
突然光がやって来て謝られて……あの人の話を聞かされて……それから?

「……頭下げられたよ、ごめんって」
「それだけか?」
「あの時の女の人のこと聞いた」
「それで?」
「……ずっと後悔してた、って……」

門倉は顔をしかめてコーヒーを飲み干した。

「それでおまえはなんて言ったの?」
「逃げた……。それ以上何も聞きたくなかったから」
「逃げたのかよ……。それじゃ意味ねぇじゃん」

意味がないなんて言われても、私にとってはあれが精一杯だったんだ。
もう会わないつもりだった。
本当に好きだったから、光との間にこれ以上イヤな思い出は増やしたくなかったのに。

「知らなくて済むことまで知って傷付くのは私だよ?今更あんなこと言われたって……」
「……あんなこと?」

門倉が険しい顔をして少し身を乗り出した。
面白い話でもないのに、そんなに期待されても困る。

「何言われた?もしかして復縁か?」

なんでそうなるかな。
もしかして門倉が私に光と会うことをしきりにすすめていたのは復縁させるため?
私が今もまだ光を好きであきらめられないとでも思ってるとか?
いや、逆に光が私と復縁したがってると思ってる?
だとしたらそれはとんだ勘違いだ。

確かに昔は光のことが本当に好きだった。
光もきっと同じ気持ちでいてくれたと思う。
だけど光は私以外の人を好きになって私と離婚することを決めたんだ。
会わなかった間に好きなタイプとは真逆に変わった私と、今更復縁なんてしたいと思うわけがないじゃないか。
彼女と別れて冷静になったら私に対する罪悪感が生まれて謝りたくなったとか、会いたかった理由はそんなものだろう。

違うと答えようとした時、門倉のスマホが鳴った。
門倉は画面に表示された発信者の名前を確認して、少し眉をひそめて立ち上がった。
取引先の責任者からかな。

「話は仕事の後だ。仕事終わったらメールしろよ」

私には仕事の後のプライベートな予定なんてないって思ってるのか?
いや、確かにないけど。
当たり前みたいに私の予定を勝手に埋めないで欲しい。



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