傷痕~想い出に変わるまで~
懺悔 4
「離してよ……」
「ずっと後悔してた、なんで瑞希とちゃんと向きおうとしなかったのかって。俺は自分のことでいっぱいになりすぎて、逃げてばっかりで……」
何も聞きたくない。
耳を塞ぎたいのに、光はそれを許してくれない。
「ずっと一緒にいようって約束したのに俺は……!」
「もう聞きたくない!!光に私の気持ちなんてわからないよ!」
ありったけの力を振り絞って光の手を振り払い、涙がこぼれそうになるのを堪えて駆け出した。
「瑞希!!」
後ろで私を呼ぶ光の声が聞こえたけれど、振り返らずにひたすら走った。
いつの間にかこぼれ落ちて頬を伝う涙を、手の甲で拭った。
駅のそばに辿り着く頃には、私の頬は涙でぐちゃぐちゃだった。
ひどい顔だな。
こんな状態じゃ電車にも乗れない。
少し落ち着いてから電車に乗ろうと、駅の化粧室で涙を拭いて、化粧直しをした。
鏡に映る私は情けない顔をしている。
いい歳して人前で泣くなんてみっともない。
そうだ、あの時の泣き顔に似てる。
光と付き合って1年が過ぎた頃、光の部屋で大喧嘩したことを思い出した。
きっかけは些細なことだったと思う。
そう、本当に些細なことだ。
たしか、他の女の子に気を持たせるようなことをするなとか、あいつに色目を使うなとか。
売り言葉に買い言葉で、つまらない嫉妬が引き起こした喧嘩だった。
些細な喧嘩のはずが他の関係のないことまで引き合いに出して大喧嘩になり、お互い意地になって一歩も引かなくて、ついには別れ話にまで飛躍した。
本気で別れたいわけじゃないのに素直に謝ることができず、もう別れようと言い合って、泣きながら光の部屋を飛び出した。
本当は好きだから別れたくなんてないのに、どうして素直に謝れなかったんだろうとか、もう嫌われたかなとか、私と別れてあの子と付き合うのかななどと考えながら、悲しくて悲しくて涙をボロボロこぼしながら歩いた。
あの頃の私にとって光と別れることは、世界の終わりに匹敵するほどの絶望だったんだと思う。
それくらい光のことが好きで好きでどうしようもなくて、他に何もなくても、光がいればそれでいいとさえ思っていた。
しばらく歩いたところで光が追い掛けてきて、私の腕を掴んで引き寄せた。
『ごめん、やっぱり別れたくない。瑞希が好きだから』
光は今にも泣き出しそうな顔でそう言った。
そして私の泣き顔を見て光まで泣き出した。
『ごめん、瑞希。泣かせてごめんな。俺には瑞希しかいないよ。好きだからずっと俺のそばにいて』
嫌われたわけじゃなかったと安心して、好きだと言ってくれたことが嬉しくて、また涙がこぼれた。
『仲直りしてくれる?』
光は少し照れくさそうにシャツの袖で涙を拭いて、私の涙を指先でそっと拭った。
『私も光が好き。ずっと一緒にいたい』
しゃくりあげながら素直な気持ちを伝えると、光は優しく頭を撫でて手を繋いでくれた。
手を繋いで光の部屋に戻り、好きだよと言いながら、何度も何度も仲直りのキスをした。
あの頃は喧嘩しても仲直りして、また手を繋げた。
好きだから一緒にいたいという単純な理由だけで、お互いに意地を張ることをやめて素直になれたんだ。
だけど今はもう何もかもが違うから、腕を掴んで引き留められても、何度ごめんと謝られても、もう二度と手を繋いで同じ道を歩くことはできない。
ちゃんと向き合おうとしなかったのも、自分のことでいっぱいになりすぎて逃げてばかりいたのも、何も言わなかったのも光だけじゃない。
私も同じだ。
私もずっとうまくいかないのを光のせいにして、言いたいことも言えないまま目をそらしていた。
私たちの関係が壊れたのは、光だけのせいじゃない。
だけど私は、光に一度も謝れなかった。
どうして私は素直になれないんだろう?
「ずっと後悔してた、なんで瑞希とちゃんと向きおうとしなかったのかって。俺は自分のことでいっぱいになりすぎて、逃げてばっかりで……」
何も聞きたくない。
耳を塞ぎたいのに、光はそれを許してくれない。
「ずっと一緒にいようって約束したのに俺は……!」
「もう聞きたくない!!光に私の気持ちなんてわからないよ!」
ありったけの力を振り絞って光の手を振り払い、涙がこぼれそうになるのを堪えて駆け出した。
「瑞希!!」
後ろで私を呼ぶ光の声が聞こえたけれど、振り返らずにひたすら走った。
いつの間にかこぼれ落ちて頬を伝う涙を、手の甲で拭った。
駅のそばに辿り着く頃には、私の頬は涙でぐちゃぐちゃだった。
ひどい顔だな。
こんな状態じゃ電車にも乗れない。
少し落ち着いてから電車に乗ろうと、駅の化粧室で涙を拭いて、化粧直しをした。
鏡に映る私は情けない顔をしている。
いい歳して人前で泣くなんてみっともない。
そうだ、あの時の泣き顔に似てる。
光と付き合って1年が過ぎた頃、光の部屋で大喧嘩したことを思い出した。
きっかけは些細なことだったと思う。
そう、本当に些細なことだ。
たしか、他の女の子に気を持たせるようなことをするなとか、あいつに色目を使うなとか。
売り言葉に買い言葉で、つまらない嫉妬が引き起こした喧嘩だった。
些細な喧嘩のはずが他の関係のないことまで引き合いに出して大喧嘩になり、お互い意地になって一歩も引かなくて、ついには別れ話にまで飛躍した。
本気で別れたいわけじゃないのに素直に謝ることができず、もう別れようと言い合って、泣きながら光の部屋を飛び出した。
本当は好きだから別れたくなんてないのに、どうして素直に謝れなかったんだろうとか、もう嫌われたかなとか、私と別れてあの子と付き合うのかななどと考えながら、悲しくて悲しくて涙をボロボロこぼしながら歩いた。
あの頃の私にとって光と別れることは、世界の終わりに匹敵するほどの絶望だったんだと思う。
それくらい光のことが好きで好きでどうしようもなくて、他に何もなくても、光がいればそれでいいとさえ思っていた。
しばらく歩いたところで光が追い掛けてきて、私の腕を掴んで引き寄せた。
『ごめん、やっぱり別れたくない。瑞希が好きだから』
光は今にも泣き出しそうな顔でそう言った。
そして私の泣き顔を見て光まで泣き出した。
『ごめん、瑞希。泣かせてごめんな。俺には瑞希しかいないよ。好きだからずっと俺のそばにいて』
嫌われたわけじゃなかったと安心して、好きだと言ってくれたことが嬉しくて、また涙がこぼれた。
『仲直りしてくれる?』
光は少し照れくさそうにシャツの袖で涙を拭いて、私の涙を指先でそっと拭った。
『私も光が好き。ずっと一緒にいたい』
しゃくりあげながら素直な気持ちを伝えると、光は優しく頭を撫でて手を繋いでくれた。
手を繋いで光の部屋に戻り、好きだよと言いながら、何度も何度も仲直りのキスをした。
あの頃は喧嘩しても仲直りして、また手を繋げた。
好きだから一緒にいたいという単純な理由だけで、お互いに意地を張ることをやめて素直になれたんだ。
だけど今はもう何もかもが違うから、腕を掴んで引き留められても、何度ごめんと謝られても、もう二度と手を繋いで同じ道を歩くことはできない。
ちゃんと向き合おうとしなかったのも、自分のことでいっぱいになりすぎて逃げてばかりいたのも、何も言わなかったのも光だけじゃない。
私も同じだ。
私もずっとうまくいかないのを光のせいにして、言いたいことも言えないまま目をそらしていた。
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