王が住む教室
悔いはないか?
「何嬉しそうにしてんだよ」
にょろにょろしながらあおってくる男を無視して常友と向き合った。相良は眉間にしわを寄せている。「未羽」と相良は常友に呼びかけたが,常友はうなずくだけでおれから目をそらさない。
「いや,ここまで最低なやつらを見たのは初めてでさ。感情に任せて暴力をふるうよりよっぽどひでえや。嘘をついてまで夢を叶えたかったのか?」
常友の目を見ながらニョロの言葉に返答した。未羽,と今度はきつめの声で相良が注意を引こうとしたが,常友も気の強い女だ。おれから一切目を離そうとしない。
「社会のごみなんだから,踏み台になって。それぐらいしか役に立つことはできないんだから」
にらみ合ったまま,おれたちは笑った。笑ったおれを見て,常友は頭がおかしくなったと思ったみたいだ。
「つまり,うそをついたことに悔いはないと?」
「目的が果たせたらそれが一番だから」
未羽! と相良が声を張り上げた。可笑しくて噴き出してしまった。え,と言ってやっと常友が相良の方を見た。
「おい,てめえのポケットに入っているのはなんだ?」
「生徒会長を目指す才色兼備の相良くん,言葉遣いが荒々しくてちんぽが縮こまっちゃうじゃないか~。言葉の使い方あってる?」
ポケットを探り,画面をタップした。ピコン,と録音停止の音がポケットの中で鳴った。
え? と常友は目を丸くした。さっきからそれしか言っていない。とうとう「え」のイントネーションで思考を表明するようになったようだ。
「見たい? いいけど,乱暴しないでよ」
ポケットからスマートフォンを取り出した。昨日の夜,大介との約束があったから途中で録音機能を起動していたのだ。まさかこんなところで役に立つとは思いもよらなかった。
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