王が住む教室

文戸玲

ボンバイエ


「なあ,何やってんだよ。おれも混ぜてくれよ」
「誰だよお前」

 薄暗い公園の,大きな木が生えたさらに暗い場所で,一人の中学生を取り囲むようにして何人かが立っていた。後ろから声を掛けると,一番体の大きな男がわざと太くした声で返事をした。身長は一八〇センチは優に超えているだろう。近くで顔を見合わせると首が痛くなるに違いない。輪になっている人数を順番に数える。全部で七人。中央でうずくまっている中学生は,明らかに喧嘩とは無縁そうなガキだった。土まみれの制服を見る限り,すでに相当引きずりまわされた跡であることが想像できる。この人数で,もやしのように華奢な男を袋叩きにしていたのだと思うと,胸糞悪くなった。

「誰だって聞いてるんだよ。聞こえてないのか?」

 低く,しゃがれた声をした男が下あごを突き出すような表情で近づいてきた。威圧しているつもりだろうか。その作り出された声と,下手な俳優が極道を演じるようなしゃくれた顔を見て思わず噴き出した。

「何を笑ってやがるんだ!」
「いや,イキってるなあって思って。猪木のものまでしちゃって可愛いね。外野のみんなにコールをお願いしてたら完璧なのにね」

 煽りに食いついてくるのを待っていたが,言われた当の本人は何を言われているのか分かっていない様子だった。物わかりの悪い奴だと呆れて,イノキ,ボンバイエと節を付けて歌ってやると,目を真っ赤にして掴みかかってきた。

「てめえ,強がってんじゃねえぞ!」
「七人もいるんだからな。しかもたった一人をいじめる極悪非道なやつらだ。強がってないとやってらんねえだろ」

 回ってきた右腕を,肘を押し込むようにしてそのまま流した。体勢が崩れたつんのめりそうになっところに,思いっきり膝蹴りを食らわせてやった。まるで漫画のようにうまく決まると,今度は本物の低いうめき声をだして,猪木はそのまま地面にうずくまった。



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