王が住む教室

文戸玲

一生のお願い


「お前・・・・・・だれだ?」

 ふわふわと浮かぶ少年は八重歯を見せて,目尻にしわを寄せた。静かな笑いだった。

「分かっているくせに。ぼくは君だよ」
「・・・・・・訳わかんねえこと言うなよ」

 その顔は,確かにおれだった。いや,病室でおれが乗り移った体の顔だった。ということは,おれはこいつの身体に魂が乗り移ったということになるのだろうか? 待てよ,それじゃあおれの身体はどうなっている?

「おれはお前になったのか? それで,おれはどこにいるんだ? おれは無事なんだろうな?」

 色の白い,マッシュルームをイメージさせる髪型をさらさらと揺らして顔に手を当てた。今度は,少しだけ声を出して笑っている。こいつ,あだ名は女キノコだな,と思った。答えもせずにクスクスお嬢様みたいな笑い方をして,腹が立つ。

「笑ってねえで答えろよ。おれはどこにいる」
「いや,まったく何を言っているのか分からなくておかしくて。いやまあ分かるんだけど,状況が分からない人からしたら気がふれたって思うだろうね」
「おれは気がふれたやつだと思われている」

 キノコ女はふわふわと揺れながらこちらにやってきて,目の前で制止した。涙ボクロが一層中性的な雰囲気を強くしている。女だったら美人になっていたのかもな,なんて考えていると,目の前でこめかみをかきながら「お願いがあるんだけど」とさも申し訳なさそうに切り出した。

「そんな顔するなよ。まだ聞いてやるとも言ってないだろ」

 何を言い出すのかと興味深く耳を澄ませていると,このキノコ女は到底受け入れられないことを言い出した。

「学校に行ってほしいんだ。ぼくの代わりに。何もしなくていいから,朝規則正しく起きて,学校に行って,ノートを取って帰ってくればいい」

 体温が急激に上昇したのを感じた。あの日,公園でケンカをした時の感覚が戻ってきたみたいだ。

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