異世界ものが書けなくて

真曽木トウル

(2)僕の家にはゲーム機がない

   ◇ ◇ ◇




 真織とおしゃべりをして帰ったその日の夜。


 制服から着替えて、親の前で味気なく勉強、夕食、入浴をこなした僕は、さっさと『こども部屋』に1人、こもる。




 部屋に入ってすることは、まず、机のうえに陣取るノートパソコンを開くこと。そうして自分の小説をアップしているサイトに行くこと。




「あいかわらず、即日だなぁ」




 僕は思わず独り言をはいていた。
 真織が、また僕の作品に感想を書いてくれている。




 姉が就職して1人暮らしを始め、僕にノーパソを譲ったのは中2の時だ。それまで僕は、放課後教室に残ってノートに書いたり、ガラケーで打ったりして小説を書いていた。




 幼なじみの真織は、マンションの下の階に住んでいる。
 いつからか覚えていないぐらい小さい頃から一緒にいて、家庭環境もよく知っているし、いつからか覚えていないぐらい昔から僕が作った物語を読んでくれている。




 らくがきちょうに書いた絵物語にはじまり、ノートに書かれた小説も、僕がガラケーからメールで送った小説も。
 僕が小説サイトに投稿するようになってからは、熱心な一読者というていで、サイト上で感想をくれるようになった。


 真織の心の中に、暗闇ができはじめた時期はかろうじてわかる。小学校高学年……ちょうど女の子は胸が膨らみはじめ、整理が始まる頃だ。
 その頃から、真織は、ダークな物語をリクエストするようになり、僕は三回に一回ぐらいそのリクエストを聞いて、残りの二回は極力明るい物語を書くように努めてきた。




 …………彼女が物語の中の死を愛し始めた理由は、一体何なのか、正確なところは僕にはわからない。




 呪いなのか、祝福なのか。もしかしたら僕の小説のどれかのせいなのかもしれない。


 ただ、僕の物語が好きで真織が生き続けてくれるなら、僕は書き続けたい。真織がいるなら、他には何も要らない。彼氏だとか青春だとか地位名声とか、真織に比べれば、何の価値もない。




 一旦気持ちを切り替え、自分の課題に取り組むことにした。


 それはいまだ書けない異世界もの小説を書くための挑戦と試行錯誤。
 頭の中に浮かぶものをとにかく拾い上げ、だかだかとパソコンに打ち込むという作業。




「…………しかし………難しい……な」




 いつか真織に見せるハイファンタジー小説を書くための、プロット未満のメモだ。


 それでさえ、僕はうんうんうなるぐらい、悩む。




 早々と、キーボードの上の僕の手は止まった。




 あまりに頭の中に要素が足りなくて、手元においてある、図書館で借りた黒魔術の入門書をパラパラめくる。


(頭の中に、本当に剣と魔法の世界がないんだよな……)




 普段僕は、プロットを文章にしていない。


 書こうと努力したこともあったのだけど、失敗した。きっちり決めすぎると、どこか1か所で、こことここのつながりがおかしい、ということに気づいたとき、そこからまったく書けなくなるのだ。


 基本、プロットは頭の中にある。頭の中に収まらないときは、紙に簡単に箇条書きにする。それをあれこれ入れ換えて書き進める。キャラクターの動き次第で着地点も変わる。それで大体事足りている。


 キャラクターはお話の都合では動かないし、色々積み重ねるうちに成長したり、性格も変わったりする。特にこちらはなにも考えずに、キャラクターたちの勝手に動くままにさせることもある。


 そんな僕が、異世界を描くにあたり、まずはメモから、となる理由。僕は、剣と魔法の世界を、映像で浮かべられない。自分の魂を、その世界に飛ばすことができない。だから、そこで生きるキャラクターが、僕の中に生まれてこないのだ。


 建物。食べ物。衣装。武器。魔法の種類。
 国際情勢。社会制度。法律。倫理。


 実際の歴史だとどの辺りの時代を参考にするか。
 とにかく調べてメモをして、組み合わせていくしかない。
 だけど、元々イメージする世界があって、それに足りない要素を調べて加えていくのと違い、個々の要素を集めて世界から作ろうというのは、とても難しかった。




「ゲーム機があったらなぁ」




 もしもゲーム機があったら、もし僕がたとえば、名前とテーマソングをよく耳にするドラクエなどのゲームをしていたら、せめて、異世界を頭のなかで映像化できただろうか。


 ファンタジー小説を書くかどうかにかかわらず、文芸部の面々も、当たり前のようにゲームをしている。
 一方、我が家の教育方針により、僕の家にはゲーム機がない。「みんながもっている一般教養が僕には1つ欠けている」状態だ。


「まぁ、言い訳といえば言い訳だけど」


 理由はそれだけではないし。


 結局僕が筆を止めていると、他の人から小説に感想が書かれたという通知が出た。


「…………おや」


 今日は大漁だ。
 僕はその感想の書かれたページへ飛び、そして頭を抱えた。


「やっぱりそこ言われるかぁ~~!!」


 そこに書かれた指摘はまさに、僕が異世界ものを書けない理由2つ目であった。


   ◇ ◇ ◇

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