異世界ものが書けなくて
(3)異世界の死合いに契約体重はない
◇ ◇ ◇
「稲穂ちゃん、今日は空手の練習があるんだっけ?」
放課後、真織に話しかけられ、僕は、手元の練習着入りのバッグを見せる。
高校からほど近い、フルコンタクト空手の道場に、僕は通っていた。
「道場まで、ついていってもいい?」
「うん、おいで」
真織は微笑む。
といっても、真織が僕たちの練習を覗いたことはない。
道場にものすごくカッコいい先輩がいると言っても、全く興味を示さなかった。
彼女はあくまで、道場まで僕とおしゃべりしながら歩きたいだけなのだ。
「じゃあ、行こうか?」
真織と僕は教室を出た。
高校の正門から2kmも離れていない道場にむけて、歩き出す。
真織は、格闘技にも武道にも興味はない。
フルコン空手と伝統派空手の区別どころか、柔道と空手とテコンドーの区別がつかないらしい。
驚くなかれ、柔道は体育で経験済みであるにも関わらず!である。
それが、僕としては、ちょっと不思議でもあった。
異世界ものが好きで、かつ、迫力あるバトルシーンも好きなら、多少は3次元の格闘にも興味を持つものではないのかな、と。
たとえば、1度興味を持ったけれど、現実のバトルはフィクションのものほど面白くなくて興味を失った……とかなら、ともかく。
「稲穂ちゃん、新作の進み具合はどう?」
「うーん、何というか、昨日一気に見直したら、なんかまだまだ世に出せない気がして……」
「何があったの?」
美しい瞳に怪訝そうな影を落としながら、真織が僕に尋ねる。
形のいいピンクの唇に、わずかな歪みが浮かんだ。
一気に見直し。
この1フレーズだけで、真織は『何かあったの?』ではなく、『何があったの?』と尋ねた。
真織の宝石のような瞳にみつめられると、僕は、自分をさらけ出す以外の選択肢がない。
「えっとねー。
前作について、コメントで、的確に僕の弱点を指摘された。
似たような者同士ばかり、それも素手同士や同じ武器同士で闘ってるのは、面白くないって」
「……誰がそんなことを?」
美声のまま、とがめるような口調になる。
「どこの誰かは知らない。
でも、まぁ確かに、ついつい僕は、対戦相手の性別と体格を合わせちゃうから、戦闘をイメージしながら読んでても面白くないんだろうね。
結局、小柄な女の子が見上げるような大男を倒すとか。巨大な刀と鎖系の武器みたいな、全く違う武器同士で闘うとか。人間とモンスターみたいな全く違ったもの同士が闘い合うとか。
それこそ、ライトノベルの醍醐味でしょう。ルールも契約体重もないんだし」
物理的法則を無視した、とも言える。
でもそれは、自分自身ではできないことに想像力の翼を思い切り広げられるからこそ、描けるものでもある。
しばし、真織は考え込む。
僕の小説が読みたいというだけの理由でこの世に生存している真織は、僕の小説が大好きだ。
以前に、酷評を書き込んだ人物のアカウントに突撃して、相手が引くまで論戦を挑み続けるということをしたことがあるらしい。
しかし、一方で、僕の小説がより面白くなるであろうまっとうな意見には聞く耳を持つ。
特に今回の指摘は、異世界の物語を描くには欠かせないポイントだ。
自分のなかで納得したのか、こくん、と真織はうなずいた。かわいい。
「確かに、その方が面白くなるね」
「そうだよね」
僕は真織の言葉を肯定した。
そして、想像力の翼を広げるのに、一体何が邪魔をしているのか、も、僕は自分でわかりきっていた。
◇ ◇ ◇
「稲穂ちゃん、今日は空手の練習があるんだっけ?」
放課後、真織に話しかけられ、僕は、手元の練習着入りのバッグを見せる。
高校からほど近い、フルコンタクト空手の道場に、僕は通っていた。
「道場まで、ついていってもいい?」
「うん、おいで」
真織は微笑む。
といっても、真織が僕たちの練習を覗いたことはない。
道場にものすごくカッコいい先輩がいると言っても、全く興味を示さなかった。
彼女はあくまで、道場まで僕とおしゃべりしながら歩きたいだけなのだ。
「じゃあ、行こうか?」
真織と僕は教室を出た。
高校の正門から2kmも離れていない道場にむけて、歩き出す。
真織は、格闘技にも武道にも興味はない。
フルコン空手と伝統派空手の区別どころか、柔道と空手とテコンドーの区別がつかないらしい。
驚くなかれ、柔道は体育で経験済みであるにも関わらず!である。
それが、僕としては、ちょっと不思議でもあった。
異世界ものが好きで、かつ、迫力あるバトルシーンも好きなら、多少は3次元の格闘にも興味を持つものではないのかな、と。
たとえば、1度興味を持ったけれど、現実のバトルはフィクションのものほど面白くなくて興味を失った……とかなら、ともかく。
「稲穂ちゃん、新作の進み具合はどう?」
「うーん、何というか、昨日一気に見直したら、なんかまだまだ世に出せない気がして……」
「何があったの?」
美しい瞳に怪訝そうな影を落としながら、真織が僕に尋ねる。
形のいいピンクの唇に、わずかな歪みが浮かんだ。
一気に見直し。
この1フレーズだけで、真織は『何かあったの?』ではなく、『何があったの?』と尋ねた。
真織の宝石のような瞳にみつめられると、僕は、自分をさらけ出す以外の選択肢がない。
「えっとねー。
前作について、コメントで、的確に僕の弱点を指摘された。
似たような者同士ばかり、それも素手同士や同じ武器同士で闘ってるのは、面白くないって」
「……誰がそんなことを?」
美声のまま、とがめるような口調になる。
「どこの誰かは知らない。
でも、まぁ確かに、ついつい僕は、対戦相手の性別と体格を合わせちゃうから、戦闘をイメージしながら読んでても面白くないんだろうね。
結局、小柄な女の子が見上げるような大男を倒すとか。巨大な刀と鎖系の武器みたいな、全く違う武器同士で闘うとか。人間とモンスターみたいな全く違ったもの同士が闘い合うとか。
それこそ、ライトノベルの醍醐味でしょう。ルールも契約体重もないんだし」
物理的法則を無視した、とも言える。
でもそれは、自分自身ではできないことに想像力の翼を思い切り広げられるからこそ、描けるものでもある。
しばし、真織は考え込む。
僕の小説が読みたいというだけの理由でこの世に生存している真織は、僕の小説が大好きだ。
以前に、酷評を書き込んだ人物のアカウントに突撃して、相手が引くまで論戦を挑み続けるということをしたことがあるらしい。
しかし、一方で、僕の小説がより面白くなるであろうまっとうな意見には聞く耳を持つ。
特に今回の指摘は、異世界の物語を描くには欠かせないポイントだ。
自分のなかで納得したのか、こくん、と真織はうなずいた。かわいい。
「確かに、その方が面白くなるね」
「そうだよね」
僕は真織の言葉を肯定した。
そして、想像力の翼を広げるのに、一体何が邪魔をしているのか、も、僕は自分でわかりきっていた。
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