***

6


「あっ」
「お疲れ様っす」

また駐輪場で会った。
さすがに今日は偶然ではない。
先ほど、僕が仕事を終えたときに会計しているのを見た。

「待ち伏せですか」
「さっせん」

毎日来てれば、こちらが顔と行動時間を覚えるように、相手も覚えるだろう。
当たり前だ。

「怒ってませんけど」

相変わらず御堂さんは煙草を吸っている。

「御堂さんは意外と人と話すの好きなんですね」
「うーん、そうっすかね?」

スマホから視線を上げて僕の方を見る。

「僕が言うのも何ですが、御堂さんは客として来店してる以上、従業員から私情な会話をされたらクレームの一つや二つ言ってもおかしくない立場です」
「あー、そういうの気にしちゃうタイプ?」
「別に」

う~んとちょっと考えた素振りを見せると困ったように口を開く。

「俺、毎日ここと職場の往復で家に帰ってないんすよね」
「はあ…」

いきなり何を言い出すんだ。
でも僕から聞いたわけじゃないからセーフ。

「職場の人間以外と話す機会なんてないんすよ、家にいても1人だし」
「奇遇ですね、僕と同じです」
「だからその~…」

少し言いにくそうにしている。
僕がそっけない態度をとっているからだろうか。
聞いているこっちが恥ずかしくなってしまうので僕は自分から口を開いた。

「なんだかんだ楽しみにしています、ですか?」
「…っす」

職場との往復、普段人と会話をしないという共通点、それを踏まえればきっとそうだろうなと思った。

「僕も休憩時間楽しみにしてますよ」
「まじっすか」

僕以外に女性スタッフいるじゃないですか、と僕は言う。

「その人も僕が最近やたらと楽しそうにしてる、と勘繰ってます」
「へぇ、意外と丹羽さんって顔に出るんすね」
「御堂さんは重要な時だけ顔に出ますよね」

僕が顔に出てるのではなく酒井さんが異常なだけだが…それは言わないでおいた。

「あ、夜勤明けで疲れてたっすよね、引き止めてさーっせん」
「別に大丈夫です、帰っても寝るくらいしかないんで」

そういって自転車に跨ったときにふと思った。
ただそれだけのために御堂さんはわざわざ自転車の前で待ち伏せをしていたのか?と。

今僕は、自分から口を開こうかすごく悩んでいる。
そんな時、僕の脳内で酒井さんの言葉が背中を押した。

「あー…」

もう帰るつもりで御堂さんに背中を向けていたが、そのまま僕は口を開いた。
御堂さんは顔を上げ、こちらを見ている。

「御堂さん、えーっと…その……僕は今、業務時間外です」
「うん?どうしたんすか」

僕は自分のスマホをポケットから取り出す。
緊張する。

「……連絡先、交換してもいいですよ」

我ながらなんと偉そうな誘い。
それも一回りも年上の男に。

***

結局交換してしまった…

"連絡先聞いちゃえば"

酒井さんがあんなこと言うから!

とは言え、結果としては僕は交換する機会を伺っていたのだと思う。
ただその勇気が出ず、酒井さんの言葉が背中を押してくれたというだけだ。

トークアプリ『RHINE』なんてバイトの業務連絡でしか使っていない。
そこにひとり、友達が増えた。

「御堂みこと」

本名でフルネームなのは分かるのだが、相変わらず名前はひらがなだ。

会員証も下の名前はひらがなだった。
あとで本人に聞いてみよう。

連絡先を交換したとはいえ、ほぼ毎日のように仕事先で会うため連絡をする内容が思いつかない。

とりあえず今はいいや、とRHINEを閉じてベジナイを開く。

するとゲーム内メールが1件届いていた。

「御堂さんから?」

『丹羽さんの好きな、しのちゃんの限定スキンです。良ければどうぞ』

既読を押すと、2年前の事前登録者にしか配布されない那須之日しの限定スキンが同封されていた。

このゲームにはキャラを他人に送ることが出来るプレゼント機能がある。

僕は事前登録をしていなかったので、限定スキンはとても嬉しい。

せっかくなので登録したばかりのRHINEでお礼を言うことにした。

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