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「お疲れ様でーす」

また今日も長い夜勤が終わった。
夜勤は効率よく稼げるので今は働けるだけ働いている。

「うわぁ、もう外明るいよ丹羽くん」
「朝7時ですから…」
「じゃ!気をつけて帰ってね」
「酒井さんもお気を付けて。明日もよろしくお願いします」

夜勤明けだというのに元気に手を振る洒井さん(38)に軽く会釈をする。

駐輪場に行くと、よりにもよって自分の自転車の前で煙草を吸っている人が居た。
声には出さないが退いてくれと言わんばかりに少し強引に自転車のかごに荷物を入れる。

「…お疲れ様っす」
「あっ、ありがとうございます」


スマホを横にしてタバコを吸っている御堂さんだった。
僕は普段から自分の爪先を見ながら歩いているので気が付かなかった。
外にいるということは僕の知らない間に退店したのだろう。
画面は見えないが恐らく…

「僕は那須之日しのちゃんが好きです」

ベジナイの話題を振ってみる。

「俺はCucurbitales箱推しっすね」

Cucurbitalesとはウリ科の女の子たちを総称するゲーム内のアイドルグループだ。

「可愛いですよね、じゃあお疲れ様でした」
「っす」

会釈をして僕は自転車にまたがる。

日々バイトと自宅の往復、バイト中しか人と話すこともない僕にとっては少しだけ特別な1日だった。
帰ってシャワーを浴びたらベジナイのイベントをして寝よう。
明日も出勤だ。
多分御堂さんともまた会うだろう。

そして僕は通勤ラッシュを横目に帰路についた。

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