猪口才な男

西本雄治

猪口才な男 #7


 その後、長介は勝ちに勝ちまくった。四半刻(三十分)ほど過ぎた時には、長介の勝ちは五十両を超えていた。
 長介の大勝ちするさまに、客たちが大いに沸く。普段は金を搾り取られている客たちである。通っているわけだから、いかさまとは知らないのだろうが、いつも偉そうな仙蔵が、苦悶の表情を浮かべているのが面白くて仕方ないのだ。
「いやぁ、勝った勝った。五十両でよかったのに、六十両も稼いじまった。悪いねぇ」
 長介の言葉に、仙蔵が顔を真っ赤にして、恨めし気に睨む。怒鳴り散らしたいのだろうが、客の目があるだけに、それもできない様子だった。
「それじゃ、借りていた五十両は返すよ」
 五十両を差し出すと、仙蔵は奪うようにして取った。
「証文をお願いしますよ」
「わかってる!」
 仙蔵は怒鳴り、番台の引き出しから証文を取り出して来て、投げるようにしてよこした。ひらひらと舞う証文をつかみ、それをお千代へ見せる。
「間違いねぇか?」
「はい。父の字です」
 確認すると、長介は証文をろうそくの火で燃やした。そして、残りの十両を懐に入れて立ち上がる。
「いやぁ、今日は楽しかった! 皆の衆、ここはいかさまのない、真っ当な賭場でしたぞ。旦那の言う通り、正々堂々が売りですな!」
「猪口才な……。さっさと出て行きやがれ」
「それじゃ、帰らせてもらおうか。お千代さん、行くよ」
 お千代を連れて屋敷を出て行く。そして、裏戸を出たところで、
「ちょっと走るよ」
「え?」
 戸惑うお千代の手を取って駆け出す。だが、すぐに脇道に入って、物陰に身をひそめた。
「あの……」
「しっ!」
 お千代を黙らせ、物陰からそっと裏戸の通りへ目をやる。すると、屋敷から飛び出してきた浪人たちが、通りを走っていくのが見えた。
「今のは?」
「おらたちを襲って、十両を取り返そうって魂胆だ。……さ、行っちまったようだし、おらたちも行くとしよう」
 物陰から出ると、自分たちを探し回る浪人たちに気をつけながら、その場を離れた。

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