『クロス・ブレイド~剣爛舞踏~』

つくも

第18話 第四章『村正×村正』③

「はぁっ……はぁ……はぁ」
切りがなかった。通常の動力で動いているわけではないのだから、逃げ回っていても切りというものは見当たらなかった。動力切れを待つという可能性も考えられなかった。流石に走り続けていれば息も斬れる。それも全速力に近い速度でだ。いくら剣士(ブレイダー)として、通常の人間では考えられない程の鍛錬を積んできた。だから体力には自信のある方ではあった。しかし、かといって、体力は無限ではない、無尽蔵ではないのだ。限界はある。
このまま逃げ回っているだけでは、埒があかなかった。
「お姉さま……このままでは埒があきませんわ」
そう、走りながら水穂は言った。
「――けど。どうするのよ?」
「私に策があります」
「策?」
「――ええ。あまり安全な作戦ではありませんが、あまり贅沢を言っていられる状況ではありません」
水穂はそう言った。
姫乃は頷いた。
ともかく、打開策は他になかったのだ。

「くそっ」
刀哉は吐き捨てる。こちらも埒が明かなかった。当然のようにすんなりと魔王城へとたどり着く事はできなかった。
雑多な妖魔が大挙をして押し寄せてきた。どれも刀哉の敵ではない。
だが、どれも時間と体力を食った、多勢に無勢だった。
どれもが体力と時間を失いかねない。
そう、刀哉は刀哉で切りのない状況が続いていた。
――と。
いくらかの妖魔を払った後だった。突如、妖魔が引き始めた。道を作り始めた。
まるで招待をされているかのようだった。
罠か? ……はたまた舐めているのか。
どちらでもいい。
行かざるを得ないのだ。それが罠だろうが、何だろうが、刀哉に進むより他に道はなかった。

迫りくる高速の物体。巨大な質量を持ったそれは高速になればなる程、脅威であり、危険な凶器となっていく。もはやこの都市圏内は敵の支配領域に置かれているのだろう。全ては相手の意のまま、完全にアウェイな空間だった。
とはいえ、現状の不利を嘆いていても戦局は覆らない。戦局を覆すために最善を尽くすよりなかった。
「お姉さま……前を見てくださいまし」
目の前には巨大なビルがあった。いかに操られていたとしても慣性の法則からは逃れられないはずだ。
「……わかったわ」
皆まで言わずともわかった。姫乃は理解をする。
そして、ビルに接触する直前。二人は左右に分かれた。跳躍をする。
――と。
けたたましい音を立てて電車はビルに衝突した。ガラスが飛び散り、多くの土埃が発生した。ビルのコンクリートは粉砕され、まるで爆発が起きたかのようだった。ビルの解体で爆弾を使ったようなものだった。倒壊こそしなかったが、それでも粉塵をまき散らし、当たり一面が見えなくなるほどのものだった。
――その時。アリシア――彼女は依然として、高所からその情景を見守っていた。――と。その時の事だった。
鋭い斬撃が走る。それを間一髪のところで彼女は避けた。間一髪、いう割には随分避けるのに余裕が感じられたが。
ともかく、彼女は一旦距離を取った。現れたのは姫乃と水穂である。
二人は先ほどの粉塵に紛れて、このビルの高僧まで登ってきたのだ。驚異的なまでの身体能力だった。今更驚くには値しないかもしれないが。
「……やっと捕まえましたわ」
水穂は言う。流石に息を切らし、満身創痍といったところだった。しかし、戦意は些かも衰えていない様子だ。鋭い眼光は確実に敵だけを見ている。殺る気満々といった様子。
「……ぜぇっ。はぁっ」
まるでフルマラソンを入った後のようだった。全力疾走をし続けるというものは極端に体力を削られる。しかし、敵を目の前にして泣き言をいっている場合ではなかった。そう、決着の時は近い。
「……さて。余興はこのくらいでいいでしょう」
敵――である彼女は刀を構えた。
姫乃と水穂も刀を構える。臨戦態勢に入る。
――そう。そして最後の闘いが始まった。

刀哉は魔王城へたどり着く。そう、あっけない程簡単だった。そこには門があった。門は自然と開く。もはや明確だった。自分は誘われているのだ。罠かもしれない。しかし進む以外に道は存在しなかった。魔王城の中身。不気味な空気で充満していた。建造物ではあるが、生気が通っているかのよう。無機物と有機物が融合しているかのようだった。
歩いて行った先、大きな広間があった。
……罠だとしたらそろそろ何か仕掛けてくる頃合いだろう。しかし、その何かはいつまで経っても訪れなかった。
特になんの障害もなく最奥部までたどり着く。大きな門があった。
――おかしい。拍子抜けする程、あっさりとたどり着いた。妨害をしようという意図を感じられない。むしろこちらに来る事を誘導しているかのようだった。
ギィ。
という軋むような音と共に、門は開いた。広い空間だった。広くて不気味で薄暗い空間。その最奥部に玉座があった。一人の男がいた。もはや、かつての面影などなくなった男だった。
もはや疑うまでもない。誘導されていたのだ。誘われていた。
舐められていたとしか思えなかった。
「……この前はさほど言葉を交わしている間もなかったな。久しぶりだな、刀哉」
刀哉を前にして、父――いや、妖魔村正は立ち上がる。かつて父だったものとしか言いようがない。
「……なぜ俺を招き入れた? 今更語らう事などあるまい」
刀哉は刀を構える。村正真打。妖魔として、村正が目覚めた時の為に作られたもう一振りの刀だった。
「――まあ、待て。そう急くでない」
敵はそういう。そう、父の形をした、ただの敵。そう、父の姿などもはやただの敵に過ぎない。
「貴様に斬れるか? 私が」
かつて。この男は言った。そう、刀哉は父は妖魔に取り込まれたと思っていたのだ。だが、もしかしたらそうではないのかもしれない。力に溺れ、力を欲した父は自ら妖魔である村正を求めたのだ。
――そうだとしたらなんだ。目の前にいる男は妖魔ではないのかもしれない。そう、父そのものなのかもしれない。
目の前の男は問うているのだ。『妖魔ではなく、自らの父を斬れるのか?』と聞いているのだった。
「……斬れる斬れないなどではない。斬るしかない――それに」
刀哉は思った。
「父が――例え自らの意思を持ち、自らの意思であのような行いをしていたとしても、それを行っていた時点で、父はもう人ではない。化け物であり、魔物であり、妖魔だ。だから、俺の結論に変わりはない」
「――そうか。良い返答だ」
男は笑った。もはやその対象をなんと呼べばいいのか。父と呼ぶのは憚られる。だが、ただの他人として割り切る事などできない。人間と思ってはいけない。しかしそれを妖魔と断定する事はできないのかもしれない。
目の前にいる男の存在は、何とも曖昧でもどかしかった。
――もはや言葉など必要あるまい。
刀哉は刀を構える。男もまた、刀を構えた。まるで時間が静止しているかのように感じる。
永遠にも続くかと思われた静寂は、突如として終わりを告げる。
どちらから先に動いたかも認識できない程、殆ど同時に、二人は動いた。
そして交錯する。
――そして、最後の闘いが始まった。

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