『クロス・ブレイド~剣爛舞踏~』

つくも

第15話 第三章『妖刀村正』⑤

たけみかづち。そして村雨。これらの剣(ブレイド)には近い特性がある。そう、どちらも自然現象を利用する武器である。水、雷。それらの自然現象をコントロールし、己が武器にする。それらの力を利用すれば可能な事があった。二人は自らの剣(ブレイド)に力を込める。
アリシアは刀哉に止めの一撃を喰らわせようと一歩、一歩と歩み寄る。
そして、刀を振り上げる。一撃でいい。首でもどこでもいい。動けない今、ただの一撃で致命傷である。
刀哉は死を覚悟した。
ーーと。その時の事である。頬にひとつ、水滴が落ちた。それはまるで雨のよう。いや、それは間違いなく雨だったのだ。それと同時に、雷鳴が轟いた。周囲が光りそれに少し遅れてから、雷鳴が轟く。
「・・・・・・なんだ。これは」
間違いない。雷雨である。突如の雷雨に思わず困惑するが、すぐに理解をする。あの二人の仕業だった。先ほどまで雲一つなかったのに、突如雷雨が降るわけがない。そう、影を作っていた月明かりは消失する。影がなくなるのだ。
「・・・・・・・ちっ」
舌打ちと共に、アリシアーー彼女は距離を取る。
流石にまともに三人と闘うつもりはないようだ。
「形勢逆転だな・・・・・・・」
間一髪、それで紙一重だった。
「危険因子は取り除けませんでした。ですが十分です」
「なにが十分なんだ。お前の目的は俺を殺す事じゃなかったのか?」
「いえ。そうではありますが、今回の目的はそうではありません。十分なんです。私は役目を全うしました」
そういって彼女は風のように姿を消す。
「待て! こっちには聞きたい事が!」
とはいえ、待てと言われて待つ奴などいまい。
彼女は瞬く間に姿を消した。
ーーと。その時だった。
「お嬢!」
そう、従者の男が駆け寄ってきた。
「来てください! 旦那が危ない」
不吉な予感は的中した。そう、あの女の目的は時間稼ぎだったんだ。
「くっ」
三人は屋敷の中へと急ぐ。目的地はわかっている。宝玉があるという倉庫だ。恐らくはそこへ向かったのだろう。
雷鳴が轟く。豪雨が降り注ぐ。一転して悪天候になった。勿論それは人為的なものではあったが。嫌な胸騒ぎがする。そして、その嫌な予感は見事に的中する事になる。
雨の中。一人の男性が横たわっていた。地面には大量の血液。そして刀が落ちていた。
「お父さん!」
「お父様!」
確認するまでもなかった。横たわっていた人物は姫乃及び水穂の両親だったのだ。姫乃は父の状態を起こす。
「・・・・・・大丈夫? お父さん! しっかりして!」
「うう・・・・・姫乃か」
意識はあるようだ。ただ朦朧としている。目の焦点が合ってない。
誰がやったのか。聞くまでもなかった。
刀哉は瞬間的に走り出していた。
「ま、待って! 一人じゃ危険よ」
姫乃は叫ぶ。だが、そんなものに聞く耳を持つ刀哉ではなかった。

その時。一人の男は屋敷から大分離れた地点にいた。もはや目当てのものーー宝玉は手に入れてあった。そう、連中が倉庫に押し入ってきた時には時既に遅く、もぬけの殻になっている。そう、全ての鍵は揃ったのだ。
突如降り出した豪雨を受けても、傘など差さず、男は一人佇む。
ーーと。一人の少女が現れる。
「主様」
そしてかしづく。
「予定通り、宝玉を奪取したようですね」
そう言う。
「・・・・・・・ああ」
男は答える。
「もう行くぞ。ここには用はない」
男は踵を返し、歩き出す。そう、もうこの場には用など残ってない。ーーしかし、彼に用のある人間は他にいたようである。
「待て! 待ってくれ!」
声が聞こえてきた。聞き覚えのある声。いや、かつては聞き慣れた声だったのだろう。懐かしい声ともいえるのかもしれない。
「親父! 親父なんだろ!」
声が聞こえてくる。感動の再会ーーというわけにはいかない。感傷に浸っている場合ではないし、彼にはもはやそんな人間らしい感情は残っていなかった。
「刀哉か・・・・・・・」
「ああ。俺だよ。もう何年ぶりかわからない・・・・・・・あの日以来か」
そう。数年前の血にまみれた事件以来だった。
「きっと。何かあったんだろ。親父。親父はあの刀に取り付かれて、それでーー」
「だから、なんだ。取り付かれていたーーとして。お前は俺を正気に戻せるとでも思っているのか?」
そう聞いてくる。息子である自分の声を聞けば、姿を見れば正気に戻るのかもしれない。そう、妖魔にとりつかれていただけだ。目を覚ますかもしれない。ーーそんな甘い期待を持っていなかったとすれば嘘になるだろう。僅かではあるかもしれないが、そんな希望を持っていた。だが、そんな希望は脆く、儚いものだとすぐに悟るかもしれない。
「そんなわけじゃないけど」
「大体、お前は自らの父が妖魔に取り入られたと思っているかもしれない。だが、もうひとつの可能性を考えた事はなかったのか?」
「なんだよ。そのもうひとつの可能性って」
「至極簡単な事よ。自ら力を求め、自らの意思によって妖魔を利用しようとした。自らあの妖刀、村正の力を求めたのよ」
「そんな事があるわけーー」
「果たして、ない、と言い切れるか?」
「だったらなんなんだ! あんたは自らの意思で母さんを手にかけたっていうのか」
「だとしたらどうだ? お前に何か出来るのか?」
「ーーできないとは言わせない。俺はもう数年前の無力な俺ではないんだ」
刀哉は刀を構える。そう、この刀もまた妖刀村正だった。そう、父の持っている刀と同じもの。
「ふっ・・・・・・・そうか。だったら躊躇なく斬れ。一切の情を持つな。次に会う時はーーお前にそれが出来ればだがな」
ーー男は消える。そして少女も消えた。そう、どこか異次元に飲み込まれたように見えた。追いかける事は困難だろう。
「ま、待て!」
消えた。そう、完全に。あの二人は。
刀哉は完全に取り残された。雨の中、一人取り残され佇む。半ば呆然としていた。あの男の言った事、あれは本当なのか。心の中では何か仕方のない理由があったのではないか。そう、あれは妖魔に取り入られて、その結果起きてしまった仕方のない事なのではないか。そう思っていた。いや、そう「思いたかった」のだ。だから自分の中で正当化していた。しかし、本当は違うのかもしれない。あの男がいったように、自らの父は自らの意思によってその行動を起こした。その可能性は否定できない。あの時の父は妖魔になど取り入られていなかったのだ。
ーーだとしたのなら、彼は妖魔などではなく、父そのものと雌雄を決する事になる。自分に斬れるのか。妖魔などではなく、自らの父を。いや、斬らなければならない。それが彼の役割であり、責任だった。そう、妖刀村正を手にした、自分の役目だった。いわば自分はその為だけの道具のようなもの。道具には目的があり、目的を確実に遂行しなければならない。それが道具の目的であり、存在意義だ。斬れる、斬れないではない。刀の存在意義など、「斬る」以外に存在しないのだ。
「い、いた! もう、心配したんだから」
「そうですわ。お兄さま。一人では危険なんですから」
程なくして、姫乃と水穂の二人がやってくる。しかし、そんな事にかまっている余裕はなかった。
刀哉は彼方をみる。きっと、どこかにあの男はいる。そして再会はそう遠くはないだろう。
きっと、再会した時は今さっきのようにはいかない。無事では済まない。血が流れる事だろう。それも大量に。それが自分の血液だけで済めばいい。それがベストだ。だが、それで済まないかもしれない。そうだとしても目的を遂行しなければならなかった。
強い雨が降ったその日。二人の数年ぶりの邂逅は終わった。
そして、もう一度会った時は間違いなく血の海が降る事だろう。
この場の静寂さが、いずれくる嵐の大きさ、強さを暗示しているかのようだった。

【第三章完】

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