『クロス・ブレイド~剣爛舞踏~』

つくも

第12話 第三章『妖刀村正』②

「ふん!」
教室につく。そして席に着くなり隣の姫乃は不機嫌そうに顔を背けた。釈明するのも手間がかかりそうだ。ここは放っておこう。
そうこうしているうちに担任の教師――卯月遥香女教師が入ってくる。起立、礼から朝のHRが始まる。こういった点は別に普通の学校と大差ないようだった。どこも同じようなものだ。
――と。卯月教師はなんだか神妙そうな顔つきだった。普段が朗らかな表情が多いが故にその落差は大きい。何かあったのではないか。生徒の多くはそう察した。
「……さて、HRになりますが、最近、何やら物騒な事件が起こっています」
物騒な事件。あのテーマパークでの事件だ。刀哉は心当たりがあった。だが、その事件とはまた異なって事件も起きているらしい。卯月教師は語る。
「先日。美術館にある国宝が何点か盗まれるという事件が発生しました。いえ、盗まれた、などという表現では事足りないかもしれません。そう、襲撃されたのです。それもここ最近、複数箇所で、です。共通点はひとつです。そこに国宝級の重要文化遺産があったという事です。犯人の目的は不明です」
卯月教師はそう説明をした。
刀哉は胸騒ぎがした。なんだろうか。嫌な予感がした。

「なんであんたがついてくるのよ」
「お姉さまこそ。大して活字に興味がないくせにこの場にきたのでしょうか?」
「黙れ。ここは図書館だぞ」
三人は図書館に来ていた。学校の図書館。とはいえ施設は驚くほど充実していた。コミック類は置いてなかったが蔵書量はかなりのものだった。
しかし今は図書に目を通している場合ではない。刀哉は新聞がおいてある、新聞コーナーに行った。ここ数日から数週間程度の新聞が置いてあった。それで十分だ。刀哉は新聞に目を通す。ここ最近事件を整理する。
国宝。
それもある妖魔に関する国宝ばかりが狙われていた。どれも水晶のような形をしている、宝玉だった。恐らくはこの宝玉が狙われたのだろう。
「あっ。これ見た事ある」
それを横目で見ていた姫乃はそう口を挟む。
「見たことある、って。どこでだ?」
慌てた様子で刀哉は聞く。
「どこでって言われても・・・・・・・」
困惑した様子で姫乃は言う。
「あ。私も見たことありますわ」
水穂もそう言う。
「いったい、どこで?」
「・・・・・その、家で」
姫乃は答えた。

宝玉は姫乃と水穂の家にあった。そう。それだけの事である。さらに言えば明智家にあったのだろう。明智家の本家は関西にあった。早速関西まで行く事になる。
刀哉の申し出は唐突だった。当初、姫乃と水穂はその申し出に困惑をしたが、刀哉の有無を言わさない迫力に頷かざるを得なかった。
それ相応の理由があるのだろう。
三人は急いで準備をして列車に乗った。
移動中は特にやる事もなかった。急ぎ足できたのだ。ゆっくりしている暇などなかった。だから、やっと出来た落ち着ける時間だったいえるだろう。
「ねぇ・・・・・・・」
「ん?」
「なんで、なにをあんたはそんなに急いでいるの?」
「ーーそれは」
流石に説明しないわけにはいかないだろう。刀哉の我が儘につきあわせた二人を前に。
そう、当然のように理由がないわけではなかった。
「きっかけは最近起きてる事件だ」
刀哉は語り始める。
昔。ある妖魔がいた。その妖魔は強力な妖魔だった。その妖魔は妖魔の中でも王と言われるような存在だった。魔の中の王。魔王といっていい存在だ。かつてその妖魔の中の王。魔王は世界を恐怖で震撼させた。しかし、多くの犠牲の末にある若者がその妖魔を倒したらしい。しかしその妖魔は不死身だった。肉体は滅しても、魂までは滅する事はできなかったらしい。その妖魔は若者の刀に魂を乗り移した。人間はその妖魔を封印する為に五つの宝玉に妖魔の力を分散させた。そうする事でその妖魔を封印する事を可能にしたらしい。
そう。これが刀哉が聞かされた昔話だ。しかし、それはただの昔話ではなかった。少なくともノンフィクションではなかったのだ。そう、それを刀哉を実体験として経験した。今から数年ほど前の事件が全ての引き金である。
「あの宝玉が妖魔を封じる為の鍵みたいなものなのね」
「ああ・・・・・・・調べたら四つの宝玉は既に破壊をされているらしい」
残る宝玉はひとつ。そしてその宝玉は姫乃と水穂の家ーー要するに明智家の中にある。敵の行動を察するのは簡単だった。残る一個の宝玉。それを狙いに来る。
「ーーけど。それは本当なの? 単なる昔話じゃ」
姫乃はそう言う。
「それはない」
強く刀哉は言い切る。
「どうしてそんな事いえるの?」
姫乃は聞いた。
「何より、この目で見たからだ」
刀哉は語り始めた。自らの過去を。
そう。それは今から数年ほど前の事だった。
ーー数年前。
そう。それは雨が強く降った日だった。土砂降りのような雨が降り続ける、そんな天気の悪い日。
幼き頃の刀哉は歴史のある剣術家の家に生まれ、そして育った。他の選択しなど与えられず、ただ剣の訓練を受けさせられるだけの毎日。それは退屈ではあった。だが嫌だったとしてもそれを続けざるを得ない。結局、自分には他の選択しがなかったのだから。かといって恵まれてなかったわけではない。自分には父と母がいて、そしてまたその中で役割もあり、必要とされていた。そういった日常は無価値ではなく、自分自身に価値があるのだと思える瞬間もまたあった。
そんなある日の事だった。刀哉は父を探していた。広い家で、いくつかも棟があった為、見あたらない父を探すのには大きな労力がかかった。いくつか心当たりのある場所を見回った挙げ句。刀哉は本堂に行き着く。
なぜだろうか。その時から既に嫌な予感というものがしていた。
本堂に着くと母が倒れていた。倒れていた? なぜ母が倒れなければならない。何よりそこに出来ていた血の水たまりが事の重大さを物語っていた。
「母さん!」
幼き頃の刀哉は母に駆け寄る。しかし、ぐったりとしていて生気がない。致命傷ともいえる刀傷があった。
「……うっ。刀哉」
母は薄らではあるが瞼を開けた。だが、すぐに瞼を閉じる。
「母さん! 母さん!」
刀哉は叫ぶ。だが、その懸命の呼びかけも空しく、母からは生命の鼓動は失われていった。
一体、誰がこんな事を。刀哉は思った。前を見やる。本堂には見慣れた姿があった。そう、そこにあったのは見慣れた父の姿があった。本堂には二振りの刀があった。しかし、一振りの刀は抜かれていたのである。そう、その刀は父の手にあったのだ。刀を持ち、匂い立ちしている父の姿があった。そう、まるでそれは鬼の彫刻のような。そんな作り物めいたような印象を受けた。そう、人としての生気がない。父は人ではない何かになってしまったような、そんな気がしたのだ。父は赤い目でこちらを見ていた。そう、あの不気味な二振りの刀のうち、一振りの刀を持って。
――それ以降の記憶は刀哉にはない。あまりのショックに記憶が錯乱してしまったのだろう。ただ母は死に、自分は難を逃れたことだけは理解している。そして父はその刀を持って失踪した。そして、二度と八神家は元より、刀哉の元に現れる事はなかった。
そう、それが刀哉の理解している事件の全容である。
「そんなことが……」
刀哉の重すぎる過去に姫乃は絶句する。水穂も同じようだ。平日という事もあり、人気のない静かな電車内はさらに重い空気に包まれる。
「間違いなかったんだ。親父はあの時、妖魔に取りつかれていた。だからあんな強行をしたんだ」
刀哉は語る。
「けど、それの刀が本当にその妖魔を封印していた刀なの?」
その事件と今回の事件の関連性。その関連性が確実だといえるのだろうか。
「一連の事件の関連性は全てはある妖魔の封印を解く為にあった。それが宝玉の封印を解くための行動だ」
「――けど」
「さらには一連の妨害だ」
姫乃との闘いの時。及び水穂との闘いの時。必ずと言っていいほど、妖魔の妨害を受けた。それは偶然とは思いづらい。
「……そういえば、私も怪しい人物を目撃しましたわ」
「本当か?」
「ええ……確証はありませんが」
水穂はそう語る。確証はないが、恐らくは敵の差し金だったのだろう。
「あれは恐らくは俺を狙ってたんだ」
「けど、どうして刀哉を。お父さんの子供だから」
「そういう理由ではない。――そう。恐らくは俺の刀が原因だ」
「刀? ――やっぱりその刀。ただの無銘じゃないんだ」
「――ああ。無銘ではない。だが、名刀でもない。そういう類のものだ」
強いていうなれば妖刀。妖刀を討つ為の妖刀だ。
「そんな刀、聞いたことない」
「詳しい話はまた後だ。就いたようだ」

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