『クロス・ブレイド~剣爛舞踏~』
第11話 第三章「妖刀村正」
第三章「妖刀村正」
ピピピピピ。
「んっ……」
眠い。朝、目覚まし時計の機械的な音で目を覚ます。とはいえ目覚めが刀哉は基本的に悪い。最も目覚めのいい人間などそういないのかもしれない。嫌々起きるか、二度寝するかの違いだけだ。思わず二度寝をしたくなる欲求にかられる。彼は出来る事なら後者の選択をしたかったに違いない。耳障りな電子音を奏でる目覚まし時計を咎める為に、のそのそとベッドを這う。――と。
ふにょん。
という音がしそうなくらいだった。手の平に確かな弾力というものを感じた。そして感じる確かな体温。聞こえてくるのは規則正しい寝息だった。
少女だった。未成熟な体付きだった。とはいえ、ある程度は発育している。生殖器以外に男女の区別がつかない、という程ではない。それくらいの齢、発育具合を『幼女』というのだろう。少女には見覚えがあった。明智姫乃の妹であり、名を水穂という。先日、刀哉に襲い掛かってきた張本人である。その彼女がなぜ刀哉のベッドの中にいるのか。ここは男子寮である。どうやって忍び込んできたのか、鍛錬を受けてきた刀哉に気付かれずに忍び込むなど、見事なまでの気配の消し方である。
――いや、勿論今そんな事が問題なのではなかった。もっと重大な問題があった。寝ぼけていた脳みそは驚いたように一瞬で稼働し始める。驚きからくるショックが一瞬で意識をクリアにした。
水穂――彼女は一糸まとわぬ姿だった。わかりやすくいえば衣類を身に着けていない、全裸状態だった。
「お兄様……だめですわ。私、初めてなんですから、そんな強引に……むにゃむにゃ」
彼女は幸せそうに寝息を立て、そう寝言を言っていた。
「……ま、待て。一体どういう事なんだ」
刀哉は少なくない動揺をした。心臓の鼓動が止まらない。こんなに動揺するのは敵に襲われた時の比ではなかった。
前日の記憶を思い出す。別に普通の日常だった。水穂の様子がどこかおかしくなったのは理解していたが。高校生である以上飲酒は禁じられている。記憶がなくなるほど酔った記憶はない。普通に寮に帰り、普通に就寝した。ただそれだけである。おかしい。
それなのになぜこのような現状になっているのか、刀哉は理解に苦しんだ。
「――んっ。おはようございます。お兄様」
そういって、彼女は寝ぼけ眼をこすりながら目を起こす。羞恥を感じていない様子だ。正直目のやり場に困った。朝という時間帯もよくない。特に性的興奮を覚えていなくても下半身が隆起しやすい時間帯なのだ。原理的にはよくわかっていないが。健全な男子なら誰もが持つ生理現象である。
「まあ、お兄様。朝から元気なのですね」
「う、うるさい」
元はといえば誰のせいだと思ってるんだ。そんな恰好でベッドの中に紛れ込まれたら、別に朝でなくとも下半身の一カ所が元気になってしまうのは健全な男子の習性と言えるだろう。
「それより――なんでお前裸なんだ?」
「私、眠ってる時、つい服を脱いでしまう癖がありますの」
「……そうか。それはいいとして」
勿論よくはないが。
「なぜ裸を見られて平然としていられるんだ? 確か、明智家には家訓があるんだったよな」
「はい。そうです。ですが、肉親と『意中の相手』であれば問題ありません」
「お前、この前『俺に姫乃は相応しくない』って言ってたよな。なのに、どういう心変わりだ」
「確かに、『お兄様にお姉さまは相応しくない』と私は言いました。ですが、私は同時にこうも言ったはずです。『もっと相応しい人がいる』と」
「……それってどういう意味だ?」
「またまた。おとぼけになって、お兄様。この水穂こそがお兄様には相応しいんですわ」
そういって、彼女は抱き着いてくる。腕廻りに生々しい肉の感触が走る。流石に理性を保てそうにない。顔を紅潮させながら、視線を逸らす。極力見ないようにしなければ。
「ははーん」
含みのある笑みを浮かべられる。
「な、なんだよ。その笑いは」
「済ました顔をしているから慣れているのかと思えば、お兄様はDT(童貞)だったんですね」
「う、うるさい!」
図星をつかれ刀哉は語調を強めた。妙に余裕のある表情で言われる。まさか幼い顔つきで経験があるのか。刀哉はそもそもの問題に気付く。ここは学生寮であり、何より男子寮である。なのに彼女はなぜここにいるのか。さらに言えばここは個室である。施錠を忘れた記憶はない。それなのになぜ彼女は今、この場にいるのか。どうやって進入したというのか。大いに疑問が残った。
「それより、なんでお前は俺の部屋に入ってこれた?」
「ああ……それでしたら」
水穂は鍵を見せる。それは合鍵だった。
「確かに、『女子寮に対して男子が入ってはいけない』という校則はあっても逆はないからと言って、寮母さんが」
「待て。確かにそんな校則はないかもしれない。だが――」
かといって、男子のプライバシーを侵害し、尚且つ寝床に侵入していいなどという理由にならないだろうに。全く、またあの寮母か。刀哉は胸中で吐き捨てた。普通の男子であったのならば感謝するべきだったのかもしれないが。
「と、とにかく。服を着ろ。授業に遅刻するだろ」
「もう、こんな時だけ優等生ぶらないでくださいまし」
とろけるような視線で水穂はこちらを見てきた。年齢的には彼女が下かもしれないが、立場的、精神的には彼女の方が上だった。
なまめかしい唇が迫ってくる。その場の雰囲気に流されそうになっていた。
――と。
どさっ。
何か物が落ちるような音が聞こえた。反射的にその方向を見やる。
ドアの方、そこには姫乃の姿があった。ただ、口をパクパクさせている。よほど衝撃的なシーンだったのだろう。裸同然というよりは裸そのものの妹と刀哉がベッドで抱き合っている(ように見える)。破廉恥だった。そう、例え潔癖な人間でなかったとしてもそう思えるくらいに。その状況は公序良俗に反していた。
怒りにわななく姫乃。
「ま、待て。姫乃。これは誤解で」
「どうも朝、女子寮で水穂の姿を見かけないと思って来てみたら」
「待て、だから誤解だと言ってるだろ」
「し、知らないわよ! 朝から盛っちゃって!」
その後の記憶はあまりに慌ただしくて覚えていない。ただ、その後遅刻しなかったのは軽い奇跡だったと思う刀哉だった。
ピピピピピ。
「んっ……」
眠い。朝、目覚まし時計の機械的な音で目を覚ます。とはいえ目覚めが刀哉は基本的に悪い。最も目覚めのいい人間などそういないのかもしれない。嫌々起きるか、二度寝するかの違いだけだ。思わず二度寝をしたくなる欲求にかられる。彼は出来る事なら後者の選択をしたかったに違いない。耳障りな電子音を奏でる目覚まし時計を咎める為に、のそのそとベッドを這う。――と。
ふにょん。
という音がしそうなくらいだった。手の平に確かな弾力というものを感じた。そして感じる確かな体温。聞こえてくるのは規則正しい寝息だった。
少女だった。未成熟な体付きだった。とはいえ、ある程度は発育している。生殖器以外に男女の区別がつかない、という程ではない。それくらいの齢、発育具合を『幼女』というのだろう。少女には見覚えがあった。明智姫乃の妹であり、名を水穂という。先日、刀哉に襲い掛かってきた張本人である。その彼女がなぜ刀哉のベッドの中にいるのか。ここは男子寮である。どうやって忍び込んできたのか、鍛錬を受けてきた刀哉に気付かれずに忍び込むなど、見事なまでの気配の消し方である。
――いや、勿論今そんな事が問題なのではなかった。もっと重大な問題があった。寝ぼけていた脳みそは驚いたように一瞬で稼働し始める。驚きからくるショックが一瞬で意識をクリアにした。
水穂――彼女は一糸まとわぬ姿だった。わかりやすくいえば衣類を身に着けていない、全裸状態だった。
「お兄様……だめですわ。私、初めてなんですから、そんな強引に……むにゃむにゃ」
彼女は幸せそうに寝息を立て、そう寝言を言っていた。
「……ま、待て。一体どういう事なんだ」
刀哉は少なくない動揺をした。心臓の鼓動が止まらない。こんなに動揺するのは敵に襲われた時の比ではなかった。
前日の記憶を思い出す。別に普通の日常だった。水穂の様子がどこかおかしくなったのは理解していたが。高校生である以上飲酒は禁じられている。記憶がなくなるほど酔った記憶はない。普通に寮に帰り、普通に就寝した。ただそれだけである。おかしい。
それなのになぜこのような現状になっているのか、刀哉は理解に苦しんだ。
「――んっ。おはようございます。お兄様」
そういって、彼女は寝ぼけ眼をこすりながら目を起こす。羞恥を感じていない様子だ。正直目のやり場に困った。朝という時間帯もよくない。特に性的興奮を覚えていなくても下半身が隆起しやすい時間帯なのだ。原理的にはよくわかっていないが。健全な男子なら誰もが持つ生理現象である。
「まあ、お兄様。朝から元気なのですね」
「う、うるさい」
元はといえば誰のせいだと思ってるんだ。そんな恰好でベッドの中に紛れ込まれたら、別に朝でなくとも下半身の一カ所が元気になってしまうのは健全な男子の習性と言えるだろう。
「それより――なんでお前裸なんだ?」
「私、眠ってる時、つい服を脱いでしまう癖がありますの」
「……そうか。それはいいとして」
勿論よくはないが。
「なぜ裸を見られて平然としていられるんだ? 確か、明智家には家訓があるんだったよな」
「はい。そうです。ですが、肉親と『意中の相手』であれば問題ありません」
「お前、この前『俺に姫乃は相応しくない』って言ってたよな。なのに、どういう心変わりだ」
「確かに、『お兄様にお姉さまは相応しくない』と私は言いました。ですが、私は同時にこうも言ったはずです。『もっと相応しい人がいる』と」
「……それってどういう意味だ?」
「またまた。おとぼけになって、お兄様。この水穂こそがお兄様には相応しいんですわ」
そういって、彼女は抱き着いてくる。腕廻りに生々しい肉の感触が走る。流石に理性を保てそうにない。顔を紅潮させながら、視線を逸らす。極力見ないようにしなければ。
「ははーん」
含みのある笑みを浮かべられる。
「な、なんだよ。その笑いは」
「済ました顔をしているから慣れているのかと思えば、お兄様はDT(童貞)だったんですね」
「う、うるさい!」
図星をつかれ刀哉は語調を強めた。妙に余裕のある表情で言われる。まさか幼い顔つきで経験があるのか。刀哉はそもそもの問題に気付く。ここは学生寮であり、何より男子寮である。なのに彼女はなぜここにいるのか。さらに言えばここは個室である。施錠を忘れた記憶はない。それなのになぜ彼女は今、この場にいるのか。どうやって進入したというのか。大いに疑問が残った。
「それより、なんでお前は俺の部屋に入ってこれた?」
「ああ……それでしたら」
水穂は鍵を見せる。それは合鍵だった。
「確かに、『女子寮に対して男子が入ってはいけない』という校則はあっても逆はないからと言って、寮母さんが」
「待て。確かにそんな校則はないかもしれない。だが――」
かといって、男子のプライバシーを侵害し、尚且つ寝床に侵入していいなどという理由にならないだろうに。全く、またあの寮母か。刀哉は胸中で吐き捨てた。普通の男子であったのならば感謝するべきだったのかもしれないが。
「と、とにかく。服を着ろ。授業に遅刻するだろ」
「もう、こんな時だけ優等生ぶらないでくださいまし」
とろけるような視線で水穂はこちらを見てきた。年齢的には彼女が下かもしれないが、立場的、精神的には彼女の方が上だった。
なまめかしい唇が迫ってくる。その場の雰囲気に流されそうになっていた。
――と。
どさっ。
何か物が落ちるような音が聞こえた。反射的にその方向を見やる。
ドアの方、そこには姫乃の姿があった。ただ、口をパクパクさせている。よほど衝撃的なシーンだったのだろう。裸同然というよりは裸そのものの妹と刀哉がベッドで抱き合っている(ように見える)。破廉恥だった。そう、例え潔癖な人間でなかったとしてもそう思えるくらいに。その状況は公序良俗に反していた。
怒りにわななく姫乃。
「ま、待て。姫乃。これは誤解で」
「どうも朝、女子寮で水穂の姿を見かけないと思って来てみたら」
「待て、だから誤解だと言ってるだろ」
「し、知らないわよ! 朝から盛っちゃって!」
その後の記憶はあまりに慌ただしくて覚えていない。ただ、その後遅刻しなかったのは軽い奇跡だったと思う刀哉だった。
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