『クロス・ブレイド~剣爛舞踏~』
第2話 第一章『剣欄舞踏のはじまり』②
「……つっ」
その後の記憶がないまま翌日になった。あまりに必死だった為、どうやってあの状況下で生き延びたのか記憶にない。ともかくあの後寮母に事情を説明し、正確な部屋を案内してもらった。
どうやら負傷はしたにしても、致命傷までは負わなかったようだ。刀哉は安堵をする。入学即入院など前代未聞だろう。
(これだから剣士(ブレイダー)は嫌なんだ)
胸中で呟く。とはいえここは剣士(ブレイダー)を目指す学校であるし、自分もその一員である。そういう思想を持つのは自己否定に繋がるとは思うが。
ともかく、気を取り直して転校初日だった。
「君が転入生ね」
そういって言われる。若い女性――とはいえ学生と見間違う、といえば盛りすぎだろう。優しそうな先生だった。武術系の学校である本校の担任としてはギャップがある。ここは単に学問を学ぶ場ではないのだ。当然のように実技の訓練もある。並みの人間で務まるはずがない。幼い顔つきをしているが相当に手練れだという事は察せられた。
「じゃあ、私が呼んだら教室に入ってきてね。HRだから」
そう説明をされる。しばらくはその場で待つ事になる。
「これから転入生の紹介をします。じゃあ、入ってきてね」
教壇に立つ。普通の学校ではないが、教室の造りは普通なようだった。見渡す。そこには無数の生徒達がいた。皆こちらを注目している。
――と、一人の少女に見覚えがあった。大和撫子……のような見た目をしているが粗暴そのもの。こちらを殺しにかかってきた少女だ。当然のように自己紹介するような状況でなかった為にお互いの名を知らない。
「げっ」
不幸中の不幸な事に、同じクラスのようだった。
「……あら。知り合いでもいるの?」
「いえ、知り合いというわけでは」
彼女はこちらを見止めると露骨に不機嫌そうな表情をした。それどころか殺気すら露わにしてくる。
「はい。じゃあ、自己紹介をお願いね。八神君」
そういわれる。
「八神刀哉です。よろしくお願いします」
「はい。皆仲良くしてあげてね」
そう笑顔で言われる。
「じゃあ、明智さんの隣の席が八神君の席ね」
不幸中の不幸中の不幸な事に、刀哉の隣の席は先日の暴力少女の隣の様子だ。
着席しても自己紹介も「よろしく」の一言もなかったのは言うまでもない。
明智姫乃。
勿論、彼女から直接聞いたわけではない。渡されたクラスの名簿で知っただけの事である。
そして、席が隣だったという事もあって、この学院の内部の案内役を押し付けられる事になる。お互いにとって、至極面倒な事だっただろう。
「ここは廊下」
廊下である事なんて誰が見てもわかる。
「ここはトイレ」
トイレである事なんて誰が見てもわかる。
「ここが焼却炉」
焼却炉を案内される必要性がわからない。
「……なぁ」
「なに?」
「あんた俺を案内する気がないだろ」
「当然じゃない」
彼女は平然と言ってのける。
「変質者に親切にする道理はないもの」
「……まだ根に持ってんのかよ。あんな事」
「根に持つ? 当然じゃない。そんな簡単に水に流せるわけない!」
そう言って向き直る。
「お、お父様にしか見られた事なかったのに……」
見られた方と見た方では意識の差というものがあるのだろう。被害者と加害者の意識の差。勿論、故意ではないが。
「……悪かった。申訳ない」
「――じゃあ、これで水に流してあげる」
彼女は刀を取り出した。
「何させる気だ?」
「切腹」
「するか!」
「ほら。口だけの謝罪じゃない。本当に謝る気があるなら腹のひとつやふたつ差し出すでしょう」
生憎普通の人間に腹はひとつしかない。
「大体、こっちも見たくもないもの見せられて切腹なんて割に合わない」
「それはどういう事よ。見たくもないって」
――もはやこの問答に意味を見出せなくなった。
と、その時の事だった。二人が廊下を歩いていた時。一人の少女とすれ違う。外国人――西洋人だろうか。銀が混じったようなブロンド(金)の髪。無表情な表情。この学校は何も日本人しか受け入れていないわけではない。剣士(ブレイダー)を目指す学校である。つまりは日本でいう武士――刀使いのみを受け入れているわけではないのだ。当然の西洋の剣術もまた、剣士(ブレイダー)のうちに入る。だから別段、外国人がいたところでそれを不思議に思う必要などない。だが、刀哉は察した。目だ。彼女が一瞬、こちらを見る目がどことなく、見覚えがあったのだ。数年前見た事がある目に似ていた。
――まさかな。
ただの杞憂だろう。刀哉はその時そう思っていた。
その後の記憶がないまま翌日になった。あまりに必死だった為、どうやってあの状況下で生き延びたのか記憶にない。ともかくあの後寮母に事情を説明し、正確な部屋を案内してもらった。
どうやら負傷はしたにしても、致命傷までは負わなかったようだ。刀哉は安堵をする。入学即入院など前代未聞だろう。
(これだから剣士(ブレイダー)は嫌なんだ)
胸中で呟く。とはいえここは剣士(ブレイダー)を目指す学校であるし、自分もその一員である。そういう思想を持つのは自己否定に繋がるとは思うが。
ともかく、気を取り直して転校初日だった。
「君が転入生ね」
そういって言われる。若い女性――とはいえ学生と見間違う、といえば盛りすぎだろう。優しそうな先生だった。武術系の学校である本校の担任としてはギャップがある。ここは単に学問を学ぶ場ではないのだ。当然のように実技の訓練もある。並みの人間で務まるはずがない。幼い顔つきをしているが相当に手練れだという事は察せられた。
「じゃあ、私が呼んだら教室に入ってきてね。HRだから」
そう説明をされる。しばらくはその場で待つ事になる。
「これから転入生の紹介をします。じゃあ、入ってきてね」
教壇に立つ。普通の学校ではないが、教室の造りは普通なようだった。見渡す。そこには無数の生徒達がいた。皆こちらを注目している。
――と、一人の少女に見覚えがあった。大和撫子……のような見た目をしているが粗暴そのもの。こちらを殺しにかかってきた少女だ。当然のように自己紹介するような状況でなかった為にお互いの名を知らない。
「げっ」
不幸中の不幸な事に、同じクラスのようだった。
「……あら。知り合いでもいるの?」
「いえ、知り合いというわけでは」
彼女はこちらを見止めると露骨に不機嫌そうな表情をした。それどころか殺気すら露わにしてくる。
「はい。じゃあ、自己紹介をお願いね。八神君」
そういわれる。
「八神刀哉です。よろしくお願いします」
「はい。皆仲良くしてあげてね」
そう笑顔で言われる。
「じゃあ、明智さんの隣の席が八神君の席ね」
不幸中の不幸中の不幸な事に、刀哉の隣の席は先日の暴力少女の隣の様子だ。
着席しても自己紹介も「よろしく」の一言もなかったのは言うまでもない。
明智姫乃。
勿論、彼女から直接聞いたわけではない。渡されたクラスの名簿で知っただけの事である。
そして、席が隣だったという事もあって、この学院の内部の案内役を押し付けられる事になる。お互いにとって、至極面倒な事だっただろう。
「ここは廊下」
廊下である事なんて誰が見てもわかる。
「ここはトイレ」
トイレである事なんて誰が見てもわかる。
「ここが焼却炉」
焼却炉を案内される必要性がわからない。
「……なぁ」
「なに?」
「あんた俺を案内する気がないだろ」
「当然じゃない」
彼女は平然と言ってのける。
「変質者に親切にする道理はないもの」
「……まだ根に持ってんのかよ。あんな事」
「根に持つ? 当然じゃない。そんな簡単に水に流せるわけない!」
そう言って向き直る。
「お、お父様にしか見られた事なかったのに……」
見られた方と見た方では意識の差というものがあるのだろう。被害者と加害者の意識の差。勿論、故意ではないが。
「……悪かった。申訳ない」
「――じゃあ、これで水に流してあげる」
彼女は刀を取り出した。
「何させる気だ?」
「切腹」
「するか!」
「ほら。口だけの謝罪じゃない。本当に謝る気があるなら腹のひとつやふたつ差し出すでしょう」
生憎普通の人間に腹はひとつしかない。
「大体、こっちも見たくもないもの見せられて切腹なんて割に合わない」
「それはどういう事よ。見たくもないって」
――もはやこの問答に意味を見出せなくなった。
と、その時の事だった。二人が廊下を歩いていた時。一人の少女とすれ違う。外国人――西洋人だろうか。銀が混じったようなブロンド(金)の髪。無表情な表情。この学校は何も日本人しか受け入れていないわけではない。剣士(ブレイダー)を目指す学校である。つまりは日本でいう武士――刀使いのみを受け入れているわけではないのだ。当然の西洋の剣術もまた、剣士(ブレイダー)のうちに入る。だから別段、外国人がいたところでそれを不思議に思う必要などない。だが、刀哉は察した。目だ。彼女が一瞬、こちらを見る目がどことなく、見覚えがあったのだ。数年前見た事がある目に似ていた。
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