聖剣が扱えないと魔界に追放されし者、暗黒騎士となりやがて最強の魔王になる

つくも

「……来たか」
 ラグナはライネスやアスタロトの到着を待った。
「ごーめん。遅くなって」
 ライネスは言う。
「ラグナ、無事だった」
 アスタロトは言う。
「当たり前だ。あの程度の敵に俺が負けるか。苦戦すらしない」
「それは苦戦していたエルフの軍勢に些か失礼じゃないか。気を悪くするよ」
 後ろにはエルフの兵士達がいるのだ。
「そうだな。まあ、この場は慎んでおくか」
 ラグナは言う。
「ぜぇ、はぁ……待たせたな」
 アモンが命からがらという感じでやってきた。
「いや別にお前は待ってない」
「ひ、ひでぇ扱いだ。盾にはされるし散々だ」
 アモンは嘆いた。
「皆揃ったようだな」
 大地がわななく。
 アンデッド達が地面から目覚めてきた、ゾンビ達だ。
「皆のもの! かかれ! かかれ!」
 エルフの国王は兵士に命令をする。
「始まったか」
「愚かな人間達よ。我が不死なる王アルベドに逆らうとは良い度胸だ」
 声がする。思念波の類いだろうか。脳味噌に直接響いてくるような音だ。
「貴様達に安らかな眠りを与えてやろう」
 声と共にゾンビが襲いかかる。遠方にいる骸骨みたいなのがその不死の王アルベドだろう。 距離にして数キロ程度ある。視覚を魔法で強化してやっと見える程度である。常人の視力では米粒以下の大きさにしか見えない。
「雑魚の相手をしていろ。俺があいつを叩く」
 ラグナは駆ける。
 それを止める者などいない。ゾンビの大軍を相手にするだけでも必死なのだ。

「……ほう。貴様、人間か」
 不死の王アルベドはラグナをみとめて言う。
「なぜ人間が魔族の軍につく?」
「それとお前と闘う事に何か関係があるのか?」
 ラグナは聞く。質問を質問で返した。
「確かに関係はないの」
 不死の王アルベドは言う。
「我が大義に刃向かうものには安らかな死を齎すのみ」
 アルベドは言った。
 幾多ものゾンビが集まってくる。ゾンビは襲いかかってこない。ゾンビは肉の塊となり、アルベドを覆っていった。
「……ちっ」
「ぐっはっはっはっはっはっは! これで手出しもできないだろう!」
 アルベドは巨大化をしたようだった。ゾンビの肉で身体が守られている。
(※ダイの大冒険の超魔ゾンビのパクりです)
「この身体は刃を決して通さない。生半可な攻撃は決して効かないようにできている。グアッハッハッハッハ!」
「残り半分か。ギリギリ足りるかどうかか」
「ん? なんだ? 貴様、さっきから独り言をボサボサと」
「またあいつ(クーニャ)と顔を合わせなきゃかもな」
「何を言っているのだ……貴様はさっきから。私を無視しているのか」
「魔剣カラドボルグ」
 魔剣の力を解き放つ。
「その力を示せ」
「なに? ぐっ、ぐわあああああああああああああああああああああああああああああああああ! ゾンビの盾ごと私を。くっうわああああああああああああああああああああああ!」
 突如として放たれた闇の光は不死者の王アルベドを貫いた。ゾンビの身体事飲み込み、無に返していく。それは高い再生能力を持つ不死者であっても再生し切れない程であった。
「どうだ? 安からに眠れそうか?」
 ラグナは言った。
 案外不死者は、安らかな死を誰よりも望んでいるのかもしれない。不死者なのに死ぬというのもおかしな話であるが。
 永遠の生というものは存外辛いものかもしれない。

 翌日の事。エルフの国へ帰る。エルフの城での事だった。
「皆の者、大義であった。特に魔王軍の皆の者、我々は大変感謝している。そなた達のおかげでこの国の危機を乗り切る事ができた」
 エルフの王は言う。
「ところでそちらの女性はどなただ? 見なかった顔だが」
「気にしないで頂けると助かります。国王陛下」
 ラグナは言った。
 クーニャが隣にいた。とはいえ、流石に全裸ではない。朝起きた時に服を着せた。エレノア姫は快く服を貸してくれた。彼女の私物のようだ。
「そうか」
「それより国王陛下。不死者の軍勢を退けた対価と言ってはなんですが。この国にノアの箱船があるとお聞きしております。それを貸して頂きたい」
「ノアの箱船か。わかった。一体何に使うのかを聞いてもよいか?」
 エルフの王は言った。それくらい構わないだろう。
「我ら魔王軍に弓を引き、天上人を名乗るエデンの民達に攻め入る為です」
 ラグナは言った。
「そうか。エデンの人々を。連中は実に人間らしい人間だ。賢しく頭が働き、そしてずる賢い。さらには自分達の欲望に素直すぎる。賢いが故に他の存在を劣ったものと見なす傲慢さも兼ねそろえている。極めて危険な相手だ」
「知っております。痛い程に」
 ラグナは言う。連中がしてきた所業は彼にとっては決して許せるものではなかった。
「そうか。そこまで知っているのなら私が止める事はない。ノアの箱船をお貸ししよう。エレノア、場所まで案内しなさい」
「はい。お父様」
 エレノアがノアの箱船まで案内する。
 
 その船はドブ太い菩提樹の傍らにあった。菩提樹に隠されているかのように存在していた。 普通の船のようであった。
 だが確かな力を感じる。魔法の力によって浮遊するのだろう。
「……こちらがノアの箱船です」
 エレノアは言った。
「操縦はエルフの者数名で行います故」
 エレノアはそう説明する。
「ああ。ありがたい」
 こうして、黒の魔王国は飛行手段であるノアの箱船を手に入れたのである。

「作戦会議を行う」
 魔王サタンは言った。
「攻略目標は天空にあるとされる都市エデンだ」
 魔王サタンは言う。
「この攻略に必要な兵士をノアの箱船に積み込み、攻略戦を行うつもりだ。しかし、ノアの箱船は見た目通り、空を飛ぶ以外は普通の船である。その外装は木製であり、鋼鉄ではない。防御力に極めて乏しい乗り物だ。故に周辺の警戒は必須である。とはいえ、飛べる存在はそう多くない。アスタロト君くらいで、あとは竜人くらい四人くらいのものだ。できれば守衛の数を増やしたい」
「はいはーい」
 ヴィーラは手をあげる。
「なんだい? ヴィーラ君」
「族長に頭数増やすようにお願いして見たらいかがでしょうか」
「そうだな。それが打倒だろう。ラグナ君。早速行ってきてくれ」
 この親父、大隊長になろうが人を小間使いみたいに。何でも俺に振りやがる。
 それがラグナの内心だった。だが立場というものがある。相手は魔王である。この国で最も偉い。自分が多少偉くなってもその力関係は明白である。それに嫁の父親である。
「わかりました」
「移動は竜人のうち一人に頼めばいい。乗せていって貰うのがいい」
「はーい。あたしいきまーす」
 ヴィーラは言った。

 竜化したヴィーラにラグナは乗り込んだ。空の旅は快適であり、車にはない楽しさがあった。何せ高いところから景色を眺められるのだ。その日は快晴だという事もあり、尚のこと気分が良かった。
 ご機嫌なフライト時間はあっという間に過ぎていく。数時間ほどでもそれほど長く感じなかった。
 竜神の里にヴィーラは降りる。そこには族長がいた。
「族長ーー!」
 ヴィーラは族長を認めるとすぐ人型になる。当然のように衣服は巨大化しない為、ヴィーラは全裸になる。乳をたゆんたゆんと揺らす。アモンだったら喜んで眺めるだろうが、ラグナはそこまで節操なしではない。
「いいから服を着ろ」
 用意していたヴィーラの服を投げる。
「あっ。そうだったっ。忘れてた」
「忘れるな。大事なとこだぞ、そこは」
 ヴィーラは慌てて服を着る。竜人に伝わる民族衣装である。
「ヴィーラ。それに魔王軍の隊長さん。何しにきよったん?」
 族長である黒竜ノワールは言う。
「族長、あたし達を助けて欲しいんだよ! うわーん!」
 ヴィーラは泣きつく。
「あんたの言ってることは曖昧で要領をえんわ」
「ノアの箱船を手に入れました。箱船は守りが薄く、守衛の頭数を増やしたいのです。竜人をもう少し貸して頂けないでしょうか」
「戦争か? あの空飛んでる人間達と戦争するんか?」
 ノワールは聞いてきた。
「はい。そうなります」
「そうか。あいつらはちょっと、いやかなり調子に乗ってるからのぉ。うちの娘を攫ったくらいださかい。うちらとしてもあいつ等は敵なんよ」
 ノワールは言う。
「よっしゃ。力なら貸してやる。うちと娘の二人。竜人六人いれば問題ないやろ」
「ええ。ありがたいです。心強い」
 こうして、作戦にはノワールとヴァイスの二人も加わる事に決まった。

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