聖剣が扱えないと魔界に追放されし者、暗黒騎士となりやがて最強の魔王になる

つくも

「リア充君」
 軍事施設に着いた時の事だった。ライネスに会う。
「なんだ? ライネス?」
「いや、今は新婚君だったか。どうだい、新婚生活は?」
「別に、特に今までと変わらないさ。住んでいるところが変わったくらいさ」
「そうだろうね。それより聞いたかい? 本題はこっちなんだけど」
 ライネスは言った。真剣な顔つきになる。
「なんだ?」
「蒼の魔王国と空中浮遊都市『エデン』との間での同盟関係が破棄されたらしい」
「……そうか」
 別に不思議ではない。あの時蒼の魔王ベルゼブブは明らかに敵対勢力であるはずの面々を庇っていた。それを敵対行動と見なされて同盟を破棄されたのだろう。
「これからどうなるんだろうねぇ」
 ライネスは言った。
「わからん。どうなるかなど誰にも予想できん」
 ラグナは言った。

 その日から数日後。空中浮遊都市エデンと蒼の魔王国の間で戦争が起きた。大きな戦力による戦争だった。長い時間をかけた戦争の末、蒼の魔王国の軍勢は敗北を喫した。その死者の中に蒼の魔王ベルゼブブが含まれていた。

 黒の魔王国、魔王城での事であった。
「魔王サタン様」
「なんだ?」
 レヴィアタンが報告にきたようだった。
「蒼の魔王国からの使者です」
「使者」
「はい。何でもアスタロト様にお会いしたいようで」
 すぐに事情は飲み込めた。先日行われた『エデン』と蒼の魔王国での戦争で蒼の魔王ベルゼブブが戦死したという報告を受けている。
 それ故に直属の血を持つアスタロトに干渉してきたのだろう。
「いかがされますか?」
「通してやれ。ただしその場には私も参加する」
「……はっ」

「貴殿らの同盟国の行った我が国に対する侵略行為。我々は大変憤慨をしている。今より一年前の事だ」
「も、申し訳ありません。その度の不始末、こちらとしましては言い訳のひとつもなく」
 蒼の魔王国の魔族は言う。
「死ぬ覚悟のある兵士を殺すならともかく、何の罪もない一般市民を詰るとは何事か。悪魔にも勝る鬼畜の所業であるぞ」
 もっとも、行ったのは空中浮遊都市エデンの人間である。同盟関係を結んでいたが故に責任は逃れられないが。
「誠に申し訳ありません」
「まあ、いい。それは置いて置こう。貴殿らの状況もあまりに芳しくない事は察せられる。蒼の魔王ベルゼブブのご息女アスタロト殿に会いに来たのだろう」
「は、その通りであります」
「良いだろう。レヴィアタン、連れて参れ」
「はっ」
 レヴィアタンはアスタロトを連れてきた。
「はい。アスタロト様、こちらへ」
 アスタロトは黒いドレスで正装してきたようだった。ちゃんとした恰好になっている。
「何の用ですか?」
「……蒼の魔王ベルゼブブ様が先日、天上人を名乗る人間達との戦に破れ、戦死されました」
「そうですか」
 言葉からすると冷たいが、それでも悲痛な様子は表情から読み取れた。アスタロトにとってはどんな事があったとしてもベルゼブブは自分の血の通った肉親だったのである。
 死んで悲しくないはずがない。
「それで私に何を伝えにきたのですか?」
「アスタロト様に蒼の魔王として即位して頂きたく、この場にはせ参じました」
「私に魔王に?」
「はい。他に適任者がおりません。蒼の魔王国では代々、魔王はその血を分けた魔族が引き継いできました。ですので慣例に従い、アスタロト様がお引き継ぎになるのが相当だと我々は判断しました」
 アスタロトはしばらく考える。少女のような未成熟な体つきをしているが、アスタロトは無能ではない。考える力はある。彼女は優秀だった。
「良いでしょう。父ーー蒼の魔王ベルゼブブの座を引き継ぎ、私アスタロトが蒼の魔王として即位します」
 アスタロトは答える。
「で、では、国に戻り即位の儀式を」
「そうですね。ただ私が蒼の魔王に即位次第行いたいと考えている事があります」
「はい。それはなんでしょうか」
「黒の魔王国との同盟を結ぶ事です」
「は、はい。それは構いませんが。こちらとしましては」
「そしてあの天上人を名乗りに人間達と闘います。あいつ等こそが魔界を荒らし回った諸悪の根源です。お父様、ベルゼブブに取り入った悪魔達です」
 アスタロトは言った。
「よろしいでしょうか? 黒の魔王サタン様」
 アスタロトは言った。
「良いだろう。アスタロト君、君が正式に即位次第同盟を結ぼう。天上人。あいつ等にはこちらも被害を受けている。決してその存在を許してはいけないとこちらも思っている」
 黒の魔王サタンは言った。
「よいでしょう。ひとまず、私は国に戻ります。その上で手続きの方を進めようと考えています」
 アスタロトは言った。

 アスタロトは帰郷をする事になる。実に一年上の時を経過した上での帰郷だった。アスタロトは蒼の魔王として即位をし、そしてその後正式に黒の魔王国と同盟を築いた。
 アスタロトは黒の魔王国の面々と顔見知りであり、なじみがある。故にこの同盟は黒の魔王国にとっては悪いものにはならないだろうとすぐに推察された。
 そしてその同盟情報は空中浮遊都市『エデン』の人々にも伝わる事になる。

「聖女ソフィア様」
「なんですか?」
 その日もまたソフィアは入浴をしていた。彼女は男に裸を見られる事を恥ずかしいとは思わない。自分の美貌を見せつける事に優越感を感じているからだ。そして、それが自慰行為(オナニー)のネタにでもなるのなら、尚のこと彼女の優越感を得る事になる。それは彼女が性的対象と見なされている事になるからだ。
「……蒼の魔王国にご息女のアスタロト様が即位され、黒の魔王国と同盟を築かれた様子です」
「無効共鳴(ヴォイドハウリング)の核(コア)になっていた魔族の少女ですね」
「は、はい。そうです」
「そうですか。生きていたのですか」
 さして興味もなさそうにソフィアは言う。彼女は彼女の美貌以外に関心がない。
「まあ、いいです。その事はどうでも。魔族が徒党を組んでも同じ事です。我々に敵対して勝利する事ができない事を教えてやりなさい」
「は、はい!」
 そう、兵士は言った。

 蒼の魔王国での事だった。蒼の魔王国の魔王城。古びた城の中での事だった。
 そこで同盟を結ぶ為の儀式が行われている。同盟の儀式には多くの参列者がいた。黒の魔王サタンは本国を離れられない為、代わりにラグナがその儀式に参加する事となった。代替出席である。
「黒の魔王国大隊長ラグナ・エルフリーデ殿」
「はっ」
「貴国を同盟国と認め、今後の友好関係を誓う。それを記念して剣を授けよう」
 アスタロトは剣を授ける。それは模造の剣であり、儀式の印である。
「ありがたく頂戴します」
 ラグナは剣を受け取った。
「我々黒の魔王国は貴国を同盟国と認め、友好の関係をここに誓います」
 ラグナはそう宣言する。
「それでは、ここに同盟の儀を終了とする。皆の者、参列ご苦労であった」
 アスタロトはそう締めくくる。
 盛大な拍手が打ち鳴らされた。

「はぁ……」
 溜息が出る。ああいう厳かな儀式はラグナとて得意ではない。まあ、誰でも苦手だろう。疲れるのだ。形式張った儀式というものは。退屈でもあるが多くの人の目がある故に気を抜くわけにもいかない。だから疲労感が強い。
「ふぁあ……疲れた」
 それはアスタロトとて同じだ。アスタロトの方が外向きの自分をより強く演じている為、異様な程疲れているに違いない。さっきのアスタロトと今のアスタロトは別人のようである。「だるいよね。こういう儀式。アスタロト嫌いなんだ」
「俺だって好きではない」
「だよねー。それにしても」
 アスタロトは寂しげに言った。
「パパ本当に死んじゃったんだ」
 何を今更という感じではあるが、当事者にとってはそうも言っていられない。肉親を失った悲しみは時間をおかなれけば実感ができない。葬式がそうであろう。葬式をする事で死んだという事を認識させる。そういう意味合いがあるのだ。
 アスタロトにとっては蒼の魔王の座を継承する、そして蒼の魔王として行事を行う。そういったプロセスが父を失った葬式の意味合いを成していた。
 戦争中の突然の死という事もあり、蒼の魔王ベルゼブブの葬儀は国内ではそれほど大事にできなかったようだ。当然アスタロトはその葬儀に参列していない。その為今更になって実感がわいてきたのだろう。
「寂しいか?」
「……うん。本当は。優しいパパだったから。ラグナはそういうのはないの?」
「本当の親父は死んだって弟から聞かされた時『ざまあみろ』とは思ったけどな」
「……ははっ。それはそれで悲しいね」
 アスタロトは笑った。
「肉親が死んだからって無条件で悲しむわけじゃない。アスタロトにとってはなんだかんだで良い親父さんだったって事だろう」
「そうだね。人間に誑かされておかしくなっちゃったけど、それまでは優しいパパだったから。余計にアスタロトを犠牲にした事で気を病んでいたのかもしれないね」
 アスタロトは言う。
「これからどうするの?」
「用事がなくなったなら本国に帰る」
「そっか……皆とはもうあまり会えないね」
 アスタロトは言う。アスタロトは蒼の魔王となったのだ。この国でやるべき事は多いだろう。
「ああ。皆お前と会えないのをさみしがってるよ」
「本当?」
「ああ。役一名大飯食らいがなくなった事を喜んでいる人がいるけど」
「ははっ。すぐに想像がつくね」
 アスタロトは笑う。
「また皆に会いたいな」
「またくればいい。いつでも俺達は歓迎している」
「うん。でもその為にも、帰ってくる居場所を守らないとだよね」
 アスタロトは笑った。


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