死神少女。

ちぃ。

第6話 幕開け4

1103はそう呟くと、黒猫へと攻撃を仕掛けた。そしてその大鎌を振りかぶり、黒猫の首を刈ろうとした時に、赤猫の鎖分銅が大鎌の柄に絡みつき、1103の動きを止めた。その隙を逃さず、黒猫がジャマダハルで心臓目指し突いてくる。

ふふふふ♪
ふふふふふん♪

なんの迷いもなく大鎌から手を離し、ジャマダハルの突きを避ける1103。1103の手から離れた大鎌は鎖分銅に引き寄せられ、赤猫の手の中にある。

それでも、表情を何一つ変えることなく、そこに落ちている手頃な木材を拾うと、ぶんっぶんっと二度振り、感触を確かめている。

ふふふふ♪
ふふふふふん♪

「あれでやるつもりですか……」

ノンナ監察官が心配そうに呟くと、ユリア監察官が、963に目配せし何時でも戦闘に加われるように目で合図している。それに無言で頷く963。すると、いつの間にか側に来ていたイヴァンナが二人に声を掛けた。

「1103は、アンジェラ監察官より手に持て、ある程度の硬さのある物なら、何でも武器として使えるように訓練を受けきています。たとえ、それがそこら辺に落ちている小石や小枝だろうが、確実に相手を殺せるでしょう」

ノンナ監察官とユリア監察官が生唾をごくりと飲み込む音が、イヴァンナ監察官へと聞こえてきた。信じられないのも無理はない。基本的に狂戦士は己の使える武器は限られており、それがない場合は素手で戦うしかない。

しかし、1103は違う。他の狂戦士達より三年も早く戦線へ出た1103は他と比べ、あまりにも幼く、そんな1103はやはり純粋な力では年上の狂戦士達に負けてしまう。もしも武器がなくなった場合、素手で戦うには無理がある。その様な事態になった場合を考え、アンジェラ育成監察官は、あらゆる物を武器として、戦えるように育て上げたのだ。自分の身は自分で守るしかない狂戦士である1103の為に。

ふふふんふふ♪
ふふふん♪
ふんふふふんふんふん♪

そして、もう片方の手にも木材を持つと、小さく頷いた1103の身体がふっと消えた。

消えたと思った瞬間、木材を黒猫の側頭部目掛けて殴りつけた。何とかジャマダハルで防ぐが、防いだジャマダハルが砕けちる。同じく1103が殴りつけた木材も半分に折れてしまった。

ふんふんふふふんふんふん♪
ふんふんふふふん♪

「木材でジャマダハルを砕きやがった……なんて奴だ……」

ユリア監察官が驚きの表情で見ている。ノンナ監察官は1103のあまりのスピードに言葉を失っている。

すぐに相手から離れ新たな木材を拾う1103。そこに鎖分銅を投げ木材に絡ませる赤猫。しかし、先程と違うのは、自分から鎖分銅に絡められた木材を勢いよく投げつけたのだ。そして、そのままの勢いで赤猫目指し、攻撃を仕掛ける。まだ赤猫は体勢が整っていない。黒猫が1103の背中を追うが追いつけない。

ふんふんふんふふふんふんふんふん♪
ふふふふふんふんふん♪

赤猫の心臓付近に1103が木材を突き刺し貫通させた。目を大きく見開き、伸ばした両手で1103の頭部を挟み込むようにして掴んだ。しかし、絶命寸前のその手には力が入っておらず、すぐにするりと両腕が下に落ちて行った。

それを見ていた黒猫は、急に方向を変えると逃げ出そうとしている。しかし、黒猫の進路を塞ぐ963と1009。

「あの、赤い紐を引かせるな!!自爆するぞ!!」

黒猫が赤い紐に手をかけようとした時、背後から1103が取り返した大鎌で、黒猫の左腕を切り落とした。切り落とされた肩口から鮮血が辺り一面に吹き出していく。そして間髪入れずに963も右手首を切り落とした。

「これで自爆は阻止しました。捕らえてください1009」

ノンナ監察官が1009へと指示をだしたその時、大きな銃声が辺りに響き渡ったと同時に、黒猫の身体が仰け反り倒れて行く。眉間を銃で撃ち抜かれている。

「……自爆を阻止されると、今度は銃殺か!!」

銃で狙われないように、物陰に隠れ辺りを見渡すユリア監察官。ノンナ監察官は1009に指示し、黒猫の遺体も一緒に物陰へと運んだ。

「こいつらは物か!!ただの消耗品か!!」

イヴァンナ監察官が何処に潜んでいるか分からない敵に向かって叫んだ。そんな事に答えてくれるはずはないと分かっていたが、許せなかった。

「……違うさ」

離れた物陰からマントを被った人影が出てきた。敵国部隊リーダーであり、八体の監察官のヴァレリーである。

「私はヴァレリー。彼女たちの監察官だ」

「何故、自爆させた!!何故、殺した!!」

「敵国に堕ち、辱めを受ける位なら死なせてやる。私なりの親心だ」

淡々と答えるヴァレリーに、怒りで震えるイヴァンナ監察官を抑えるユリア監察官。

「あんたは、部隊の狂戦士達を物として扱っていたのか?」

「物として扱うなら、死なせないよ。どうせ、尋問を受けても何も喋ることがないのは分かっている。ただ、あの子達が辱めを受けることだけは許せない。私は……」

話しながら、次第に語尾が荒くなるヴァレリーに、黙って次の言葉を待つユリア監察官。

「私はあの子達を愛していた。大切な仲間だった。
……間違っていることは分かっている。責められてもしょうがない!!
……だから、私もあの子達だけで地獄には行かせるつもりはない。行く時は一緒だと約束したからな」

ヴァレリーは悲しげな表情をして微笑むと、自分の口に銃身を突っ込み引き金を引いた。辺りに銃声がこだまする。

山村は恐らく、このまま閉鎖されるだろう。そして、この後にやってくる特殊兵団が全てを片付けてくれる。

シュワンツ大尉は村を離れる前に、三人の監察官へそう言った。イヴァンナ達は、大尉と敬礼を交わし次の任務地へと向かって、それぞれの道へと歩いて行った。

ふんふんふふふんふんふん♪
ふんふんふふふん♪

ふんふんふふふふんふんふんふん♪
ふふふふふんふんふん♪

ふふふふ♪
ふふふふふん♪

ふふふふ♪
ふふふふふん♪

ふふふんふふ♪
ふふふん♪
ふんふふふんふんふん♪

1103の歌う鼻歌が風に乗ってどこまでも飛んで行く。ヴァレリーと黒猫達への鎮魂歌のように。

          

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