元祖魔剣少女

ちぃ。

第一章 旅立ち 第五話 鬼の一族

「竹子様、まさに貴女と蒼兵衛様の御息女でございますね……」

 佳代より頭を上げた正やんは佳代から目を離さずに竹子の方へと話しかけている。

 本当に何が何やら分からず頭の中がこんがらがっている佳代ではあったが、悪く言われていない事だけははっきりと分かっていた。

 しかし、今ので何が分かったのだろうか。

 笏で頭のてっぺんを数回優しく叩かれ、乗せられていただけなのだが。

 疑問に思う顔が表に出ていたのか、そんな佳代を見ていた正やんは竹子と顔を合わせるとくすりと笑った。

「今のは佳代様の中にある気を見させてもらっていたのです」

「気……?」

「そう、あなたがた一族が持つ特別な気です。鬼の血を引く一族のね」

 鬼の血を引く一族。その言葉に佳代はぶるりと身震いをしてしまった。

 佳代の側へと歩み寄った竹子はそっと佳代の手を握りしめた。

 暖かな母である竹子の掌の温もりが佳代へと伝わり、自分の心が自然と落ち着いてくるのを感じた。

「あぁ、失礼。鬼の一族とは言え、本物の鬼ではなく、鬼の子と言われたとある人物の血を引く一族だから、鬼の一族と呼ばれているだけです」

 そして正やんは笏を口元へあてながらふふふっと笑うと、佳代と竹子の二人の周りをゆっくりとした歩調で歩き始めた。

「佳代様、貴女の母親である竹子様の内には鬼の一族として最も高貴で強いとされた紫の炎が宿っております」

 佳代はちらりと竹子の方へと視線をやる。

 正直、紫の炎が高貴だの強いだの言われても、佳代の知っている母親からは何の想像もつかず戸惑ってしまう。

「この紫の炎は一族の始祖である慈花様を含め僅かな数の人間にしか現れて来なかったのです。たとえ血の繋がった慈花いつか様の娘やその孫さえも紫の炎ではなかった。それにより、紫の炎は継続して現れないと思われていましたが……」

 歩きながら話しを続けていた正やんは、佳代の前でぴたりと足を止めると、ゆっくりと視線を佳代へと向けた。

「佳代様、貴女まで紫の炎を宿しておるとは……前代未聞。長年鬼の一族と共に生きてきた私でさえ驚きと興奮を隠しきれない」

 特に笑みを浮かべている以外に驚きや興奮していると言う表情は見えない正やんであったが、先程から話しを聞いている限りでは凄い事なのだろう。

 あまりにも唐突な話しであり、理解のついていかない佳代であったが、何となくそれだけは分かった。

「佳代。正やんの話しについていけんとやろ?私もそうやったけんね。簡単に言うと、佳代、あんたは妖魔を倒すための才能があって強くなれるって事たい。後は、あんたがその道に進むか、それとも普通に生きるかば選ぶだけなんよ」

 竹子は佳代と向かい合い、両の掌を包み込むようにして握りながらそう言うと、いつも佳代たち三姉妹に見せてくれる優しい笑顔を浮かべてくれた。

「私が……妖魔退治をすると言ったら、お母さんや佐知さちゆかり……村の皆を護れるの?お父さんやキヨちゃん達の仇をうてるの?」

 切羽詰まった様な表情で竹子へと尋ねる佳代に、竹子は悲しそうな表情を浮かべ佳代を見詰めている。

「それは貴女次第なんよ。この道に進んだとしても過酷な鬼の道が待っちょる。それに耐え忍ぶ事ができたんなら……ね。佳代……無理してこの道を選ばんでも良かとよ。普通に女の子として恋して、結婚して……普通の人生を歩んでん良かとよ」

 そう伝える竹子に佳代はふるふると首を横に振ると、強い眼差しでじっと竹子の目を見ている。

 竹子は佳代の瞳の中にある強い意志を感じ取ったのか、佳代を引き寄せ優しく抱きしめた。

「ごめんね……ごめんね佳代。こんな呪われた一族の為に……」

「私は負けんから……もう大事な人が死ぬのは嫌なんや」

 母親に抱きしめられたのはいつ以来だろう。佳代は自分の肩が母親の涙で濡れて行くのが分かった。

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