拉致られて世界3位以上を取るとこになりました

陽くんの部屋

Online・AnotherWorld 4

霧生さんが持ってきた昼食は、随分と俺の好みが入っていたと思う。
美味しそうに頬張る俺を、面白そうに見ながら霧生さんは3Dホログラムを使って作業をしていた。
食事を喉に通しながら考える。
大会に出ることになったのはいいものの、本当に3位以内に入れるのか、霧生さんは本当にゲーム会社の社長なのか。
考えれば考えるほど、疑問が出てきてキリがないが、それだけまだ来たばかりのここは謎が多いということ。
過ごすうちに分かればいいが……。

少し時間をかけて昼食を食べ終わった。
霧生さんの方も大方作業が終わったようで、こちらを向き、話を始めた。

「食べ終わったようだね、美味しかったかい?」
「まぁ、それなりに」
「それは良かった……それでは、ものは試しだ。OAWの中に入ってみることにしよう」
「分かった。フルダイブするのに、あの医療用を使うのか?」
「あぁ、君の身体に異常があったらすぐに分かるからね、医療用の方が適しているんだ」

先程の医療用フルダイブ機器は、どうやら俺への安全を考慮してでのことらしい。
本当に危害を加えるつもりはないようだ。

「では、横になってもらえるかな、フルダイブが可能になったら、頭上のランプが青く光るから、Connectコネクトと言うんだ。その言葉がフルダイブをする為の鍵となる」
「Connect……繋げるという意味か」
「よくお分かりで、小さい子供が無闇矢鱈にフルダイブ出来ないようにしているとも言われてるよ」

霧生さんの説明を聞きながら医療用フルダイブ機器に横たわる。
医療用フルダイブ機器はCTのようで、小型のフルダイブVRがついてるわけではなく、全体がフルダイブVRって感じだ。
霧生さんがボタンを1つ押すと、自分が寝ている台は徐々にフルダイブ機器の中へ入っていき、頭が完全に入った状態になった。

「それじゃあ、行ってらっしゃい。ログアウトはいつでもして構わない。君が戻りたい時に戻っておいで」
「はい」
 
頭上のフルダイブVRが静かに降りてきたと思えば、目の前で停止した。
すると先程まで赤だったランプは青となった。
なるほど、これでフルダイブ可能というわけか。

「それじゃあ、行ってきます」
「あぁ、頑張って」

霧生さんの優しくも意志を感じるその声を合図に、呟いた。

「Connect」

キュイーン……ピピッピピピピッ

【精神状態:異常なし】
【バイタル:異常なし】
【新たなPlayerを感知】
【新たなデータを作成します】



うっすらと目を開けたそこは、もう既に先程霧生さんといた部屋ではなかった。
白いことには変わりないが、サイバーな感じが漂っている。
部屋全体の壁と思われしき場所に、無数の数字が現れている。
 
『ようこそ、Online・AnotherWorldへ』

部屋に、不思議な声が響いた。
頭に響くようなそんな声で、不思議な感じがする。
見ると、白い髪に赤い瞳をした少女が、目の前で浮いていた、

『新たなPlayerを感知しました。これからデータを作成するための設定に移ります。貴方のプレイヤー名は?』
 
プレイヤー名とは、ゲーム内で使う名前だったか。
流されるままに入ってきたから、何も決めていない。
……プレイヤー名か……簡単に、名前から文字ったのでいいだろうか。
光だから……。

「ライト」
『ライト、承認しました。それでは次に、外見を決めてください。リアル本来の姿も可能です』

目の前に出されるカスタマイズ画面。
外見は……正直興味無いが、どうするか……。

「リアル本来の姿をカスタマイズしても?」
『はい、可能です。実行しますか?』
「YES」
『それでは実行します』

すると、今までよく分からない外見だったのが、確かに現実にいる自分と変わらない姿になった。
……せっかく外見をカスタマイズ出来るのだから、やらないと損か。
本来の自分は金髪で、黒い瞳だった。 
今のゲーム内でもそうだ。
頭がいい=真面目だと捉えられて、せめて髪だけでも反発してやろうと思って染めたんだっけ。
……VRMMOはまた新たな人生を歩めるとよく言っている人がいたな。
……金髪はそのままに、瞳は黄緑にしよう。
それと……ライトだから◆マークを目の下にでも付けようか。
光っている感じで。
それから少々、画面をスライドしながらカスタマイズすることにした。

「……これは、チャラいな」

出来上がったころには随分と眩しくなっていた。
現実と同じ顔だから、もしこれで本当にリアルを過ごしていたらもっと引かれていたに違いない。
VRMMOならではの楽しみ方か。
……まぁ、多少チャラくてもいいだろう。
画面下の完了ボタンを押した。

『カスタマイズ完了を確認しました。では最後に初期武器を決めます』
「え、種族とか役職とかないけど」
『種族は、ゲーム内で自由に決めることが出来ます。初期種族は人間です。種族タワーというのがあります。そこでは様々な種族のプレイヤーが、まるで部活動勧誘のように種族勧誘していきます。種族変更したい場合は、種族タワーのカウンターで可能です。種族によって特徴がありますが、人間は比較的バランス型となっていますが、魔法は使えません。また、役職は自分で作成することも可能ですのでより自由度の高いものとなっております。詳しくはヘルプ参照です』
「部活動勧誘て……ツッコんだ方がいいのか?」

なかなかにおちゃめなキャラクターのようだ。
確か、魔法と武器が主なゲームだったか。
ファンタジー要素強めで、銃等の近代的武器はないはずだ。
種族も職業も今のところ決まってないが、そこはおいおい考えるとしよう。

『それでは、初期武器を選んでください』

その言葉とともに、自分の周りを囲む大小様々な武器たち。
剣にレイピア、弓に……斧まである。
斧って武器なんだな。

『どうぞ、好きにお手に取って、自分にあったものをお選びください』

言われずとも手に取って確認してみるが、やはり重さも再現しているのか、両手剣や斧はずっしりしていて今の自分では少々きつい。
もう少し軽くて使い勝手の良さそうなやつ……。
そう見回しているうちに、ふと目に入った武器があった。

「これは……ダガー?」

他の武器に比べて一際小さい武器があった。
よく盗賊などが扱う、あのダガーか。
急所に当てないと殺傷能力を発揮しないため、使いづらいと言われがちだが、小さくて軽いし、小回りもきく。
これなら、荷物にもならないし丁度いい。

「……ダガーにするよ」
『初期武器ダガー……承認しました。それでは、これから初期スポーン地点、クルドレに移動します。素敵な第2の人生をお楽しみください』  

その言葉と同時に始まるカウントダウン。 
これからがやっとスタートか、バディも誰か気になるけど、とりあえず今はこのゲームについて調べないと。

そして青いエフェクトともに、視界が真っ白になっていった。

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