拉致られて世界3位以上を取るとこになりました

陽くんの部屋

Online・AnotherWorld 1

ただ退屈に、時間が通り過ぎるのを感じていた。
目の前の光景がスローに見える程に、退屈を覚えながら街の中を歩く。
太陽は明るくて、はしゃぐ子供たちは楽しそうで、それに対して俺は、目を閉じて、風の意志のまま髪をなびかせる。

『VRMMOで怒涛の人気を誇るOnline・AnotherWorld好評発売中!!』

よくある宣伝の声に足を止めた。
巨大なディスプレイに、今言われたOnline・AnotherWorldのプレイ動画が映っていた。
VRMMOが登場してから早2年。
世界はすぐにVRMMOに染まっていった。
ゲームの中に入りたいというのは、人間誰もが思っていたはずだ。
俺も幼い頃はそうだった。
そんな夢を叶えてくれるのがVRMMOで、意識を完全にゲームの世界へ送り込むという、画期的なシステムだった。
その中でも圧倒的な支持を持っているのが
Online・AnotherWorldオンライン・アナザーワールド、通称OAWオーエーダブル
圧倒的なワールドクオリティ、そして自由度の高さ。
他を寄せ付けないのがOAWだ。
そのゲームの良さを惜しみなく伝えようとしている。
ゲーマーが見れば1発でKOするほどの魅力的なゲームだが、自分の心には響かなかった。
自分はあまり、ゲームが好きではないから。
これからもゲームをすることはないだろうと、今の自分は思っていた。
そんな考えがすぐに崩れ去っていくのを知らずに。


その日もいつも通り街中をふらついていた。
家に帰ってもやることなんてないし、それならまだ街中にいる方がなにか面白いことが起こるかもしれないと安易な考えを持っていた。

「おい」

声をかけられたら振り向いてしまうのが人間というもので、もはや反射なので直すことも出来ない。
その行動自体がこれからを左右することになる。
逃げれば良かったと思っても、後悔しても、もう遅い。

「……!?……がっ……かはっ、なに……が……」
「……はい、予定通り捕らえました。はい、はい……今すぐお連れ致します」

ぐらっと体と脳が揺れる。
腹部にくる重い衝撃と鈍い痛み。
殴られた?
骨までは折ってないだろうが、もしかしたらヒビが入っているかもしれない。
暗くなっていく視界の中で、通話しているものの声と、いつものOnline・AnotherWorldの宣伝映像の音声だけがはっきりと聞こえていた。


俺は昔から頭が良かったらしい。
その証拠に、学校では全教科学内1位で……あぁ、全国1位も取ったことあったっけ。
だが俺は、そんな自分があまり好きではなかった。
なにか成果を得ても、返ってくるのは出来て当然という言葉のみで、誰も褒めてはくれなかった。
いじめこそはされなかったものの、きっとクラスの皆は俺のことが嫌いだったのではないだろうか。
なんであいつだけ……と。
こんな頭脳を持ったおかげで、与えられたゲームはすぐにクリアしてしまって、段々と好きだった気持ちは冷めていった。
もし願いが叶うのなら、1度だけでも、自分を、この頭脳を、存在を……そしてもう一度だけでいいから、ゲームを好きになりたかった。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品