聖鎧ザンヴァイル 少年たちの戦場

原作・氷川輝/著・進藤雄太

第九話 タビュライト

 家族旅行から帰ってきて三日後、比呂弥と来霧は父、浩介が主任を務める結城グループの研究施設へ呼び出されていた。

「いきなり研究所まで来いだなんて、お父さんも急だよね」
「それにしてもお前まで無理についてくることなかったんだぜ、猛?」
 
比呂弥は一番後ろを歩く猛に言った。

「いや、俺もここの研究には前から興味があったし……それに」
 
チラッと来霧を見る。比呂弥も猛の言わんとするところを察した。

「そうだな、分かってるって」
 
瀬尾浩介が主任を務める結城製薬の研究所は、比呂弥たちの住む街から電車で一時間くらいの、市街から少し山の中に入った場所にひっそりと建設されていた。
見た目には少し大きな製薬会社のビルくらいに思われたが、地下に本格的な研究設備を備えており、外見からは想像できない広さを誇っていた。

「瀬尾比呂弥君、来霧さん、藤岡猛君ですね。お待ちしてました。こちらへどうぞ」
 
白衣を来た、見るからに研究員風の男性職員の誘導に従い、比呂弥たちは地下に降りるエレベーターに乗り込んだ。

「確かタビュライトっていうんだろ、お前の親父さんが研究してるものって。正直なところそれって何なんだ?」
 
猛がかねてからの疑問を比呂弥にぶつけた。

「何か聞いてないのか?」
「いや、今まで詳しい研究の内容なんて聞いたことなかったし。何か、将来的には原子力に代わる新エネルギーとして利用ができるようになるとか言ってたような。よくわからなかったけど」
「んん……そうなのか」
 
しばらく無言になって、再び……。

「結構深いな……」
 
猛が呟いた。
階層を示す表示も、窓もついていないためどのくらい降りたかはわからなかったが、結構深い場所まで降りたらしいということは何となく分かった。
エレベーターを降りると拓けた空間になった。

「凄い……」
 
思わず言葉が漏れる。
 部屋の中央には分厚いガラスケージがいくつか設置されており、その中に巨大な鉱物が厳重に保管されていた。
直径二メートルほどはあろうか、エメラルドグリーンに似た輝きを微少に放つ宝石の原石のような鉱物であった。

「なんだろうこれ……」
 
謎の鉱物はガラスケージの中で完全に固定され、上下左右から赤外線レーザーを当てている。
 比呂弥たちは初めて見る鉱物に心奪われた。

「それがタビュライトだ」
 
ふいに、比呂弥たちの背後から声がした。

「父さん!」
「よく来たな比呂弥、来霧。それに猛君」
「すみません、勝手に押しかけてしまって」
「構わんよ。今日呼んだのは他でもない。私と総一朗がかねてより研究してきたものをお前たちにも話しておこうと思ってな」
 
そう言うと瀬尾浩介は数個あるうちの一つのタビュライトの前まで先導した。

「見なさい、これが父さんたちが今研究を進めているタビュライトだ」
「タビュライト……」
 
比呂弥たちは食い入るようにガラスケージの中の鉱物を見た。

「このタビュライトはアフリカで発掘を行っている大学の考古学チームが古い神殿跡の地中から発掘したものなんだが、分析の結果、地球上には他に存在しない成分で構成されている物質のようなんだ」
「え、どういうことですか?」
 
猛が思わず尋ねた。

「出処が分からない……つまり、見た目に反して鉱物かどうかも分かっていないんだよ。どこから来たのか、どうして地中深くに埋まっていたのか……一切が謎に包まれている」
「それで、どうしてこれを父さんが研究しているの?」
「私と総一朗はこの鉱物から未知のエネルギーを作り出せると考えているんだ。その証拠にこの鉱物を構成する元素の一つ一つが微少の熱量を有しており、しかもそれらがぶつかり合って生まれる熱エネルギーは尽きて途絶えることなく、半永久的に作り出されていることがわかっている。それを取り出す技術さえ完成すれば、世界各国における後々の世のエネルギー不足問題を一挙に解決していくことも、夢ではなくなるんだ」
「そうなったら、本当に素晴らしいことだけど……でも、危なくないの?」
 
来霧が不安そうな顔で訊いた。

「安心しなさい来霧。万一を考えてこの研究所は地下深くに建造されているんだよ。緊急の事態になっても対処できるシステムがここにはある」
「そうなんだ……良かった」
「さあ、次はこちらへ。そこで今日の本題を話すとしよう」
 
瀬尾浩介は三人を奥の部屋へ案内した。先頭を歩き出す前に浩介は、比呂弥に目配せをする。それを汲み取り、アイコンタクトで「OK」の返事を返すと、となりにいる猛にも視線を送った。
猛もそれに気づくとさりげなく来霧の後ろについて歩き出した。
 同じフロアを少し奥に歩いたところにあるドアの前で浩介は歩みを止めて振り返る。
「さて、この中だ。入りなさい」

 浩介が来霧に先に入るよう促す。
そして来霧がドアを開けた、その瞬間だった――。


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